うさぎを助けました
残酷な描写ありは保険のつもりです。
「♪〜」
明日は20の誕生日。
両親が離婚してから母と二人暮しをしており、裕福とは言えない生活でも母は一人娘の私をとても愛してくれていた。母とは仲が良く、私は父が居ないことに寂しいと感じたことは一度もない。普通の家庭に普通の幸せ、それが一番だ。
今日はまだ誕生日の前日だが、日曜日である今日のうちに祝ってしまおうと、台所では母が張り切って料理を作っている。
「ちょっとごめん!生姜買うの忘れてたわ。買いに行ってもらえる?」
リビングでのんびりとテレビを眺めていた私は了承の返事をするとクロックスを履いて外に出た。
それにしても今日は寒いなあ、雪でも降るんじゃないだろうか。そんなことを考えながら歩いていると、不意に小さな白い影が目の前を横切った。
「危ないっ!!!」
それをうさぎだと認識するが早いか私は迷わず道路に身を投げ出した。反射的にうさぎを突き飛ばした所で漸く、トラックが目の前に迫ってきていることに気づく。あっという間に体が宙を舞い、地面に強かに叩きつけられる。朦朧とする意識の中で、うさぎってすばしっこそうなのによく私に突き飛ばされたな、とかトラックの運転手さんに申し訳ないことしたかも、とか死ぬ時って痛くないんだな、とかどうでもいいことをぐるぐると考えていた。ただ最後に、お母さん一人残して逝くなんて親不孝者でごめんなさい、と掠れた声で呟いたのを皮切りに私の意識は闇に沈んだ。
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「...レン、セレン、セレスティア」
嗚呼、頭がガンガンする。もう少し寝させてくれても良いじゃないお母さん、と思いながらゆっくりと目を開けると、そこに居たのは母ではなかった。
「......誰?」
「セレン?どうしたのよ、急に頭を抱えて倒れたから心配したのよ」
どういうことだろうか。どうやら私はベッドに横たわっているようで、目の前には心配そうな顔をしたとてつもない美人の顔が見えている。...誰?もしかしてこれはアレじゃないだろうか、異世界転生というやつではないだろうか。高校時代、ラノベの異世界転生モノが大好きで読み漁っていた。これは異世界転生だ、と無理やり決めつけると私は現状把握に動き出すことにした。
「お母さん?」
「セレスティア!良かった、怪我はない?一日も倒れていたから私もお父さんもとても心配していたのよ」
どうやら私はセレスティアという名前らしい。家族構成は父、母、私、だろうか。これは順応した者勝ちだ、と私は特に騒ぎ立てることなくセレスティアとしての生活を始めた。
数日経って完全に回復した私は段々と置かれた状況を理解し始めた。私はセレスティアという平民の少女で、最近15歳になったばかりだ。父と母と3人暮らしである。私達一家が暮らしているのはサンエルドラド王国という、王族が治める国らしい。今の国王陛下は近年稀に見る人格者で国民の人気は絶大なのだそう。この国には王族の次に貴族という身分があり、そして平民がいるようだ。貴族なんて面倒そうな身分に転生しなくて本当によかったと心を撫で下ろしたものだ。
そして何より驚いたのは、私は母と同様にとんでもない美少女であるということだ。初めて鏡を覗き込んだ時、誰だこいつはと思わず呟いてしまった。寧ろ叫ばなかったことを褒めて欲しい。前世の容姿は平々凡々だったため物凄い変化である。金髪碧眼なんて本当に存在したのか、などという馬鹿なことを考えてしまった。さらさらで癖のない金色の髪に、澄み渡る蒼空のような瞳。陶器のごとく真っ白な肌に長い睫毛が影を落としている。いや私どこぞのお姫様?と思ってしまうくらいに整っていた。
またこの世界には魔法というものが存在する。とても便利だ。しかし基本的に一人一属性しか操れないものであり、属性は数え切れないほどある。私はどうやら氷属性に適性があるらしい。
そんなこんなでこの世界に転生してから1週間が経った。