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俺と幼女の底辺マニュアル ~底辺が異世界で頂点に立つ方法~  作者: カイム OTA
第1章 I have acquaintance . But they are...?
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その8 CASE02:黒い美少女

 

闇玉追尾(ダーク・チェイス)ッ!」


 黒い球がいくつか浮遊し、定めた地点へ留まる。


変化・刃(トランス・ソード)


 瞬間、球は鋭い刃に変わり、向かってきた標的(ターゲット)を斬り裂いた。


「ふぅ・・・」


 俺は額の汗を拭い、空を見上げる。今日もいい天気だ。


 ここはラーステイルからそんなに離れていない平原だ。周辺では割と強めのモンスターが出るので、基本集団で行動することが推奨されている。


 まぁ俺はソロだけど。

 ちらっと横たわる残骸を見る。あとはこれを5体狩るだけだ。


 俺はいわゆる『クエスト』を遂行している最中で、この『スーパーハイエナ』を6体狩れば2ヒューム(大体2000円)の報酬と、こいつの素材がもらえる。


 でもスーパーハイエナってどうなの。小学生みたいなネーミングセンスだな。

 しかしスーパーの名は伊達じゃなく、俺がこいつを狩るのに1時間かかった。まぢむり。このままじゃ日が暮れる。

 しかも俺には今杖がない。忘れてきた。おかげで簡単な魔法しかできない。


「それに見つかんないんだよな・・・」


 そう、こいつを見つけるまでに30分を要した。ほんとありえない。時給換算すると大体220円。キレそう。

 そう言ってても時給が減るだけなので、新たな獲物を探し始める。一人で来たのは失敗だったかな・・・。


 パーティに動きがない以上、ソロでやるしかない。じゃないとあのアクセサリーに手が届かない。

 来る前にあの家に寄って、セニスタかアッシェントに同行してもらおうとしたが、どっちも用があるらしい。決して、俺とクエストに出たくないとかそういうアレじゃないはず。はず。多分。


「お、今度は早かったな」


 目前にはスーパーハイエナ。そーっと背後に回り、いざ奇襲――!


変化・刃(トランス・ソード)!」


 ガッキィィン!


 闇の刃と剣の刃が交わる音が響く。スーパーハイエナはその下をするりと抜け、逃げた。


「・・・」


「・・・」


 俺は刀を構えた相手を見る。その髪はまるで濡れたように黒く、愛嬌があり、かつ整った顔は可愛い、としか言いようがない。


「あの、そろそろその剣を収めてくださいません?」


「・・・獲物を奪われたからやだ」


 それ、俺もなんだけど。


 そう、そこには『フレンカラーズ』の一員、ルーナの姿があった。





 ♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦





「はぁっ!」


 ザシュッ!


「ほぉっ!」


 シャッ!


 刃が肉を裂く。獲物は成す術もなく倒れるしかない。


「でも、君の魔法は肉じゃなくて空を裂いてたよね!」


「当たってました~! ちゃんと切ってました~!」


 俺たちは話し合いの末、2人で行動することになった。そちらの方が効率がいいからだ。

 実際俺一人だとあと7、5時間かかるはずだったが、なんと1時間で終わってしまった。

 しかしこいつ、めっちゃ強い。俺より強い。それに元気。俺も元気出る。


「よし、これで最後かな?」


 ルーナがしゃがんで獲物を確認する。


「ありがとう。助かった」


「そんなのお互い様だよ~! 私も助かっちゃった☆」


 天使か? ここが理想郷なのか?


「あ、ねぇねぇ、ついでにもう一個クエストやってかない?」


「いいけど、どんなのだ?」


 これ! と見せてきたのは、『ハイパーハイエナ』を1体狩る、というものだった。

 確か、ハイパーハイエナはスーパーハイエナよりも数段強い固体で、主に単独で行動するモンスターだったはずだ。


「まぁ・・・2人ならいけるか」


 なんか前にもこんな展開無かった? マンモスがどーたらみたいな。


「けってーい!」


 ルーナが鼻歌交じりにスキップする。なんだ? 妖精に見えてきた。そろそろ俺も末期だな・・・。






「・・・なぁ、帰らないか?」


「・・・やだ」


 30分後、俺たちはとある茂みに潜んでいた。

 目前には化け物。体長5メートルぐらいのハイエナが食事をしている。


「でかすぎる・・・。これじゃあもうウルトラハイエナじゃねーか」


「くだらないこと言ってないで、作戦を考えよう?」


 おいまじかよ。こいつアレに勝つつもりなのか?


「えっ帰ろうよ」


「やだ。大丈夫、勝てるよ」


「ど、どうやって」


「それをこれから考えるんだよ☆」


 おいおい・・・。でも、なんかコイツ本気の目してるし、もしかしたら勝てんのか?

 仕方ない、作戦を考えよう。


 数分間の沈黙ののち、茂みでは作戦会議が行われていた。


「でも、今まで通り2対1で挑めば勝てるんじゃない?」


「いや、きついだろ。俺たちの武器、魔法じゃアレの皮膚を貫通できないし、アレの攻撃は俺たちを容易く貫いてくるぞ」


「じゃあ・・・柔らかい場所を斬ればどう? 口の中とか、お腹とか」


「確かここらへんのハイパーハイエナは、そういう弱点は消えてるはずだ」


「じゃあ、どうすんの」


 ちょっとふくれつつルーナは俺を見る。うーん、可愛い。

 でも、なんだろう、こいつに対して俺の警戒心がアラートを鳴らしている。なにかひっかかるな・・・。


「帰ればいいんじゃね・・・ごふっ」


 腹パンされた。剣の柄で。痛い。


「却下。ちゃんと考えてよー。このままじゃ帰れないよー?」


 つってもな・・・。あいつに勝つ方法なんて・・・ん?


「なぁ、アレって人間だよな?」


「え? ・・・ほんとだ。まさか、一人で挑むつもり?」


 そいつは俺たちの茂みから少し離れた場所に現れた。ハイパーハイエナはまだ気づいてないっぽい。


「しかも女の子だね。大丈夫かな」


 髪の色は黒っぽい青。さらさらな髪をなびかせ、その少女はハイエナに忍び寄る。その手には白銀の剣。

 口元には自信からくる、余裕の笑みが浮かんでいる。


 ごくり、と鳴ったのが自分の喉だと気付くのに数秒を要した。それくらいの静寂。

 ちらっと隣を見ると、ルーナも真剣な表情で成り行きを見守っている。


 突然少女が消えた。あ、あれ?


「どこ行ったんだ? 消えたぞ」


「あそこ」


 ルーナが指さす方を見る。ハイエナの方だ。

 少女はいつの間にか、ハイエナの真上に浮いていた。まさか、跳んだのか?

 剣の切っ先を下に向け、ゆっくりと落ち始める。と、少女の口が微かに動いた。


 瞬間、ヒュオッという音が響き、少女は急加速した。


「こ、これは、あの世界で数人しか習得していないという、『加速魔法』!?」


 びっくりしたー。急にルーナが叫んだので、心臓が止まるかと思った。え、そうなの?


 そして切っ先がハイエナの首元へ突き刺さる――


 カイィンッ!


 鋭い金属音を響かせ、少女と剣は弾かれた。そしてそのまま草の上へと投げ出される。

 いやおかしいだろ。あんなに自信満々に登場しておいて、ハイパーハイエナ倒せないのかよ。


 ぎろり、とハイエナの目が少女を射抜く。

 少女は思わぬ展開に混乱しているようで、ハイエナを見つめて固まっている。


「まずいわね」


 ルーナの張りつめた声が聞こえる。そう、このままじゃ目の前でRー18G展開が繰り広げられてしまう。それだけは避けなければ。


「どうする・・・。どうする・・・。」


 うわごとのように呟くルーナは、目を見開き、拳を握りしめている。多分考えているのだろう。この状況の勝利法を。


 落ち着いて、俺も頭を働かせる。

 あの少女を助ける方法は、3つある。


 1つ、イケメンな俺は、突如天才的なアイデアを閃く。


 2つ、アッシェントが助けてくれる。


 3つ、助からない。現実は非情である。


 くそっ、どれも現実的じゃない! 3つ目に至っては助ける方法じゃないし! どうする!

 俺は心のよりどころを求めるように、手元にあった草を握りしめる。

 ん? なんか前にも草を握りしめたことがあったような・・・。あ、千変万化を使った時か。


 現実逃避にしかならないようなそんな思考の中、俺の脳に電流が走った。

 ――あの異常に硬い皮膚を貫通できるものを作ればいいんじゃね?


 すこし後方へ下がり、俺は草へと手を伸ばす。頼むぞ・・・少女の命は俺にかかっている!


「くそっ!」


 手の中には小さな輝く石。これじゃあ貫通はできない。

 しかし、完全ランダムならあとは試行回数だ。絶対に出してやる。見とけよ・・・!


 そして数秒が経った。や、やばい。軽く50回はこのガチャを回してる。全然出ない。なんか変な生き物とか、なんか変な物体しか出てこない! くそ、なんかめまいもしてきたし、どうなってる!


 しかし諦めない。俺は再び草に手を伸ばす。


「・・・え?」


 次の瞬間、俺はおっさんの足を掴んでいた。手にすね毛の感触が伝わる。

 そのおっさんは俺を睥睨すると、もじゃもじゃのひげを動かす。


【なんのようじゃ、ハゲ】


「・・・ハゲ? 俺じゃないよな?」


【お前じゃよ。死んだような目に、死んだような髪。将来はハゲじゃろう】


「か、髪は死んでねぇよ! あんたこそ誰だよ!」


 そのおっさんはフン、と鼻を鳴らす。よく見るとなんか発光してないか? このおっさん。


【わしは神じゃ。もっとも、力の残滓じゃがな。】


 い、意味が分からない。でも、今はそんなことを気にしている場合じゃない。


「お、おっさん! あの化け物を倒せるか?」


 俺は茂みの向こうを指さす。ちらっと見ると、おっさんは不敵に笑った。


【わしは神じゃぞ? 我がメテオストライクで屠ってやろう】


「なにそのダサ・・・じゃなかった、かっこいい名前の技! お願いします! あの子を助けてください!」


【よかろう。では行ってくる】


 おっさんは潜みもせず堂々と向かっていく。茂みを超えるとき、ルーナがめっちゃびっくりしてた。そりゃそうだ。俺だって驚く。


「え? え?」


「頼むぞ、おっさん・・・」


 戸惑うルーナの横で見守る。おっさんはある程度進むと、突如声を張り上げた。


【おい! こっちを見ろ! 今からお前をぶっ飛ばしてやる!】


 馬鹿か。お前は戦国武将か。なんでハイエナに宣戦布告してんだよ。しかも表現が幼い。ぶっ飛ばすってお前・・・。


 ハイエナは少女めがけて飛び掛かる。おっさんガン無視されてんじゃねーか! 


「ヤバい!」


 俺は咄嗟に茂みを飛び出し、少女の前に体を滑り込ませる。ハイエナの牙がてらてらと光りながら俺の胴体へ食い込む――


【必! 殺! 隕 石 大 激 突(メテオ・ストライク) ゥ ! 】


 ズガァァアアンンンンンン・・・・


 とてつもない轟音が辺りに鳴り響き、ハイエナをぶっ飛ばした。少女は唖然とした顔でおっさんを見る。無事でよかった。


 ただ、1つ問題がある。それは俺もハイエナとともにぶっ飛ばされたということだ。


 巨体とともに草原に横たわる。体はぐちゃぐちゃに混ざり合っていて、俺がハイエナでハイエナが俺でって感じ。

 こいつがクッションになったことで、なんとか一命はとりとめたっぽい。


 が、俺の体は見てわかるくらいダメージを受けていた。ボロボロだ。ふざけんな。


 少女の安全を確認したルーナが駆け寄ってきて、俺を覗き込んだ。


「生きてる・・・?」


「・・・あぁ。ありがとうハイパーハイエナ」


「よかった。じゃあ応急処置してあげる」


 こいつ器用だなーなんて思いながら少女の方を見ると、いつの間にかおっさんはいなくなっていた。


「あ、あの・・・ありがとうございます」


「ああ、怪我はない?」


「はい。おかげさまで・・・。」


 よかった。吹っ飛ばされたのは俺とハイエナだけだったんだな。うん、ふざけんな。


 処置が終わり、立ち上がる。思ったより動けるな。これなら帰れる。


「ふぅ・・・じゃ、帰るか」


「そうだね」


「あの、私もご一緒していいですか?」


 少女が上目遣いで頼んできた。どうしよっかな・・・。あんま気は乗らないんだけど。だって俺とか初対面の人とまともに会話できないし。帰り道気まずいの嫌だし。


「行こうか。」


 俺はできる限りのイケメンボイスで少女に語り掛ける。やべぇわ。上目遣い強いわ。

 なんかルーナが怪訝な目で見ている気がしないでもないけど、気にしないでおこう。


「私の名前はアリサです。あなたたちは・・・?」


「私はルーナ。こっちがネオンくん。よろしくね!」


「はい!」


 こいつコミュ力高いな・・・。学ぶことは多いかもしれない。

 俺たちは街へと歩き出した。





 ♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦





「そういえば、あの人はどこから出てきたの?」


 そろそろ街に着く、というタイミングで、ルーナが話し出した。

 あの人? ああ、おっさんのことか。


「あれは、まぁ、その辺から」


「その辺? すごいね。通りすがったのかな」


 ふぅ、なんとか誤魔化せそうだ。俺の能力は、シトラスから『あんま他人に知られないようにな。もし知られたら家畜にされるぞ』と言い含められている。


「って、そんなわけないよね? ねぇ、ほんとは?」


 ほっとした瞬間、ルーナの視線の温度が一気に冷たくなり、声音が凍りついた。

 後ろでアリサが『ひぇっ』と声を発する。

 え、え、なに、怖いんですけど・・・? か、顔に影が落ちてる・・・!


「ほ、ほんとって?」


 自分でも笑っちゃうくらい声が裏返った。いやまじで威圧感がヤバい。


「あのタイミングで、奇跡的に場を覆せる人が現れるなんて、故意としか考えられないよね? ネオンくん」


「そ、ソウカナ」


「そして、私の後ろには君しかいなかった。だよね?」


「・・・」


 く、口が開かない。なにこれ? 俺はいつ尋問を受けたんだっけ? 

 ルーナは言葉を止めない。街までがひどく遠く感じる。


「私は、君の能力か何かだって思うんだけど。っていうかそうだよね?」


「・・・」


「・・・」


「・・・ハイ」


 た、助けて! この人怖い! 人殺しの目をしてる! 

 俺が折れると、ルーナはふっと微笑んだ。


「やっぱり。あ、そろそろ街だね。それじゃ、気をつけて帰ってね」


 そう言うとルーナは街かどへと消えていった。


「・・・え、えっと、じゃあ私もこれで。またお会いしましょうね」


 そしてアリサも若干おびえながら街へと消える。そして誰もいなくなった。


 な、なんだったんだ今のー。ヤバーい。ドキドキが止まらなーい。待って、涙出てきた。




 帰路に就く俺の足は確かに震えていた。





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