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俺と幼女の底辺マニュアル ~底辺が異世界で頂点に立つ方法~  作者: カイム OTA
第1章 I have acquaintance . But they are...?
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その7 CASE01:白い聖女

 


「よぉ、そこの兄ちゃん! 買ってかない? 新鮮だよ!」


 八百屋のおっさんが声を張り上げる。うるせぇ。

 俺は今、活気のあるこの街でも特に賑やかな場所、市場に来ていた。


 理由はない。強いて言うなら、暇だったからだ。

 あれから1週間ほど経ったが、パーティに動きはなかった。セニスタに尋ねてみると、


『なんかあんま気乗りしないんだよね。まぁ、くつろいでてよ。』


 とのことらしい。いや気乗りしないって・・・。リーダーだろ。

 というわけで、このあふれる冒険心を少しでも発揮しようと思い、今は街を探索している。


「あー、退屈だなー。なぁ、小烏丸」


 俺は愛刀の柄をなでる。この世界では帯刀が認められているので、逮捕されることはない。


 市場は相変わらずにぎわっている。ここはほんとになんでもあるな。ざっと見回しただけでも、食料、服、アクセサリー、武器、防具もある。


「そこのあんた! 今日はこれが安いよ!」


 おばちゃんも声を張り上げている。うるせぇ。


 俺はセールスボイスから逃げるように市場の端へと移動する。

 静かめな一画はアクセサリーや装飾品、小物雑貨の店が並んでいた。


 キラキラと輝く店頭にはなかなか惹かれるものがある。

 しかし、今まで生きるために必死だったから、自分の娯楽は考えたことなかったな。入口として、装飾品から入るのは悪くないかもしれない。


 俺は目に留まった店へ立ち寄る。おっほー、綺麗だなー。


「うちはそんなに安くないよ」


 じっくりとアクセサリーを見ていると、怖い顔の商人に睨まれていた。

 うーん、そんなに貧乏人に見えるかなぁ。そういえば、値段いくらくらいなんだろ。


「あの、値段書いてなくないですか?」


「・・・聞かれれば教えるよ」


 へー。これが時価ってやつか。まぁ、みるからに高級そうな宝石だもんな。


「じゃあこの青いやつは?」


「200ドラン」


「ぁ・・・ぁ・・・」


 声にならない悲鳴を上げながら、まじまじと青い宝石の施されたアクセサリーを見る。

 に、200ドラン・・・っていくらだ・・・?


 今までお屋敷で暮らしてきたので、俺は金を使うことがなかった。くそっ、箱入りだったがゆえに買い物すらできないなんて・・・!


 いったいいくらなんだろう。日本円で大体20000円くらいかな?


 とりあえず後でシトラスに聞くとして、俺は店を離れた。

 当てもなくぶらついていると、さっきのことが頭をよぎる。


「20000円かー。割と手が届きそうではあるけど・・・」


 しかし、冒険者である身として、基本的に歩合制なのである。

 つまり今のような、パーティになんにも動きがない状態では、収入はニートと変わらない。


 ふと道端の草が目に入る。あれ、そういえば俺って、望めば世界の全てが手に入るんじゃなかったっけ。

 そして俺は草に手を伸ばした。


「・・・」


 絶句した。手の中にはぬめぬめした感触。そしてにゅろにゅろ動いているのが分かる。

 そう、草は魚になったのだ。気持ち悪すぎる・・・。


 最寄りの湖まで走る。この魚は確か淡水魚で、繁殖力も攻撃性も高くないはずだから放流しても大丈夫だろう。


「達者でやれよ~」


 小芝居をしつつ魚を放す。うぇー、手がベタベタだ。ついでに洗っとこう。


「っていうか戻せばよかったな・・・」


 そういえば俺にはもう一つ、『万物流転』があるのを忘れてた。次からはちゃんと草に戻してやろう。


「ん・・・?」


 ばしゃばしゃと手を洗っていると、その音に紛れてなにかが聞こえてきた。どうやら人の話し声のようだ。

 そちらへと耳を傾ける。森の中だな・・・。


「・・・・・・・・・」


 うーん、もうすこし近づいてみよう。

 音を殺してそろりと這い寄る。だんだん声が鮮明になってきた。


「き、綺麗ですよね~、この景色!」


「ふふ、そうですね~、・・・木しかないですけど~」


 どっかで聞いたことのある声だ。確か・・・そう・・・、酒池肉林の家・・・?

 俺は身をかがめ、茂みに隠れつつ盗み見る。なんか尾行みたいでわくわくするな。


「あれは・・・アッシェント」


 そう、片方は白い聖女、アッシェント・ブランシュだった。もう片方は・・・知らない男だ。

 見た感じデートだな。うん。特に事件性もなさそう。そろそろ街に戻るか。なんもすることないけど。


「あ、アッシェントさん!」


「はい。」


 うわ、びっくりした。急に大声出すなよ。なに?

 呼ばれたのはアッシェントだが、俺も耳を傾ける。


「そ、その、えっと、あの!」


「はい?」


 はよ言え。こっちだって暇じゃねーんだよ。・・・いやごめん暇だったわ。

 その男は決心したのか、緊迫の面持ちでアッシェントを見据える。


「ぼ、僕と付き合ってくだしゃい!」


「えっ・・・」


 思わず声を上げてしまったが、幸い気づかれてはいないようだ。っていうか、告白だったのか・・・。

 そういうイベントを人生であんま経験してなかったから、気づかなかったぜ!

 いやそれよりも、今噛んでたよね? 大丈夫? 舌怪我してない?


「・・・」


 アッシェントは黙っている。どうした? はやく返事してやれよ。


「・・・あの、私の所属しているパーティを、ご存じですか?」


「え? あ、あぁセントリア聖団ですよね?」


「それはひとつ前です。」


 へー。そんなパーティがあったんだ。なんで抜けたんだろ?


「今は・・・フレンカラーズ」


 瞬間、男の顔が青ざめる。呼吸もおぼつかないほどに驚いているようだ。え、なんで?


「そうです。()()、フレンカラーズです」


「す、すみませんでしたぁぁぁあああああ!!!!」


 男はアッシェントから逃げるように駆け出した。そう、それすなわち俺の方へ、だ。

 突然の男の行動に、俺は対応が遅れた。

 向かってくる男、唖然とする俺。・・・そしてまもなく、俺の顔面に男の膝が入った。


 膝が入った。


 ひざが、はいった。


 まぁ当然、俺は気を失った。痛すぎて意識なんて保ってらんない。





 ♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦





「こんにちは。いいお天気ですね」


 目を覚ますと、目の前にアッシェントの顔があった。太陽光を遮っているせいで、表情はよくわからない。

 ん・・・? 逆光? ってことは・・・


「え、膝枕?」


「ふふ、察しがよろしいですね。」


 マジかよ。まだそんなに話したことない美少女に膝枕されてんだけど。やばい、報われそう。成仏しそう。


「鼻血はおさまったみたいですね。大丈夫ですか?」


 アッシェントは膝枕をしたまま俺を見る。そっか、俺はあの男にシャイニングウィザードをキメられたんだっけ。


「介抱してくれたのか。ありがとう」


「いえそんな。帰り際に、干からびたセミみたいに倒れていては、誰でもこうしますよ」


「アッシェントは優しいなぁ。もうちょっと待って、すぐ起き上がるから」


「ふふ、ずっとこのままでもいいですよ」


「・・・」


 冗談だよな? っぶねー。俺に豊富な人生経験がなかったら好きになってたぜ。っぶねー。マジ、っぶねーわ。


 そのまましばらくふとももを堪能し、俺は起き上がるついでに聞いてみた。


「そういえば、なんで断ったんだ?」


「あぁ、見ていらしたんですね。」


 アッシェントはあっけらかんとした様子で答える。


「あの方と私は、今日初めて会話をしたのです。」


「へー、そうなんだ。」


「ええ。だからです」


 ・・・え? 断った理由だよな? ・・・えっと?

 俺が理解に苦しんでいると、彼女は真顔で声をかけてくる。


「え、あの、意味わかってます?」


「ご、ごめん。正直よくわからない」


「・・・えっと、じゃあ逆に、ネオンさんは、今まで認識したことのなかった女の子から告白されたら、そしてその子が特別好みでもなかったら、どうします?」


 そんなの決まってる。答えはこうだ。


「顔と性格次第だな。どっちも良ければ普通にOKだし」


「・・・・・」


 え、なんか、『こいつマジか・・・』みたいな顔で見られてるんですけど。俺なんかやっちゃいました?


「思ったよりクズですね・・・」


「・・・」


「あ、いえ、すみません、なんでもないですよ。」


 なんでもなくない。このアッシェントみたいな聖人にすらフォローできないとか、俺のクズさすごくない? いや逆に。


「では、その子が顔も性格も並み、いえそれ以下だとしたら、どうでしょう」


「それは・・・断るな」


「でしょう? わかっていただけましたか?」


 なるほど。・・・ってことは、さっきの男子はアッシェントに顔も性格も並み以下だと思われてるのか。

 こいつ、中身は普通の女の子なのかもしれない。まぁ、それを表に出さないだけでもなかなか凄いけど。


 俺は立ち上がり、背伸びをする。柔らかな日差しと森の匂いが心を満たしていく。


「帰りましょうか」


「そうだな」


 こうして並んで歩くと、さっきのシチュエーションと被るな・・・。

 よし、恋バナでも振ってみるか。


「なぁ、アッシェントって付き合ったことあるの?」


「世間ではそれをセクハラと呼ぶそうですよ。憲兵さんがあと5分で来るそうです。」


「ちょちょちょ嘘だろ!? 憲兵さんを呼ぶ魔法とかもあんの? 待って!」


 ど、土下座しかない・・・! 俺がそう決意した時、彼女はくすっと笑った。


「ふふっ、冗談です♪ まぁ、そういう魔法もありますけど。」


 よ、よかった~。しかし、確かに不躾だったかもしれない。ちょっと反省。


「そうですね~、付き合ったことはないです。告白は何回かあるんですけどね」


 まぁイメージ通りだ。これで『彼氏がいます。』とか言われたら軽くショック。


「恋、というものを経験してみたくて、男の子を好きになってみよう! と思ったこともありました。しかし、相手はその気になったようですが、私はどうも好きになれませんでした。」


 え、なにそれ。小悪魔的な感じ? 気のある素振りを見せておいて、『勘違いしないで』って言うやつ?

 まるで――


「けっこうビッチみたいなこともやってたのか。」


「その言葉の意味は存じませんが、とりあえず通報すればいいんですかね?」


「ご、ごめん! 話を続けてください!」


「・・・それに、私のプライベートまで踏み込んだ人はすべて、自ら離れていきました。」


「へー? プライベートか。・・・あぁ、キャルンが言ってたな。言い寄ってきたやつは全員この世を去ったとか」


「それもなくはないですが、原因はおそらく、私の性癖でしょう。」


「え、なに? 潔癖? そうなの?」


「潔癖ではなく性癖です。性欲の性に、虚言癖の癖。せ・い・へ・きです。」


 やめろ・・・。わざわざ聞き逃してやったのに、訂正してくんな・・・。


「ちなみにこちらが私の性癖にクリティカルヒットする画像です。」


「いや見せてくんなよ。超アブノーマルだったらどうす・・・ん?」


 そこにはアッシェントが写っていた。それも、本棚の前に倒れた状態で。上にはたくさんの本が散らばっている。どれも重そうだ。

 見たところ、掃除の最中にうっかり本を崩してしまった、って感じだが・・・。


「この時、私の気道は圧迫されてふさがっていました。」


「いや危ねーな。呼吸できなかったってことか?」


 俺はこの時点でうすうす気づいていた。彼女の性癖に。だが、一縷の望みにかけて、先を促す。


「ついでにいうと、私が助かったのは3時間後です」


「え、よく生きてたな」


「はい。本に押しつぶされそうになり、ギシリと軋んでいくからだ。朦朧とする意識。その生死を彷徨う感覚は、私にとてつもない快感をもたらしました。」


「いや待て。待ってくれ。もはや答えは一つしかないが、一応聞くね? お前の性癖って・・・」


 彼女はゆっくりと口を動かす。その言葉に、もはや驚きはなかった。


「はい。私は生粋で度が過ぎたドМなんです♪」





 ♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦





「おいしいですね♪ ここのソフトクリームは街一番らしいですよ。」


 テラス席で向かい合ったアッシェントが無邪気な微笑みを見せる。もう外は日が落ち、街には夜の活気が満ちている。


「買い物に散策、今は向かい合ってアイス食べてるとか、これもうデートじゃん・・・。」


 衝撃の性癖暴露から、俺はいろんなところに付き合わされた。足が痛い。腰も痛い。腕すら痛い。


「ふふふ、私の性癖を知ってなおそんなことを言うとは、まさかネオンさんってドS・・・?」


「いや違うから。やめろ、俺をそんな期待した眼差しで見るな。一人でやってろ。」


「でも、不思議ですね。男の人って、私の性癖を知ったら離れていくんですけど、ネオンさんはそんな気配がしません」


「当たり前だ。俺は性癖で人を差別したりしないからな。それになにより、お前に興味がないし。」


「そう言われると複雑ですね・・・」


 そんなことを話しながら歩く。酒池肉林の家はすぐそこだ。


「ネオンさんは、泊まらないんですか?」


 こいつはあの家が気に入っているらしく、週5で泊まっているらしい。


「ちょっとまだ馴染んでないんで・・・」


「ふふ、でも、私には少しは馴染んでくれました?」


「・・・まぁ、うん。少なくとも性癖は知ってる。」


 夜の街を後にし、夜ご飯の支度へ向かう。俺の帰るべき場所はここじゃない。





 ♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦





 その夜、俺はシトラスにこの世界の貨幣について聞いた。


「ん? 200ドラン? そうだな、日本円で大体200万ぐらい?」


 ・・・よし、冒険者、頑張ろう。



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