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その6 俺がぼっちじゃなくなった日

 



「軽く自己紹介から始めるね! えー、こちら、この度我がパーティに入ってくれる、ミヤコ、ネオンくんです!」


 視線がつきささる。無理無理無理無理、無理だよこのパーティ。なんで女の子しかいないんだよ。っていうか見すぎ。みんな俺のこと見すぎ!


 簡単に説明すると、俺は冒険者になった。そしてパーティに所属することになったのだが、なんとそのパーティは俺以外全員女子だったのだ! 

 そして俺は今全力でこのパーティを抜けようと思っている。


「ぱちぱち~。じゃ、ネオンくんに紹介します! えっと、改めて、私はこのパーティのリーダー、セニスタ・ローズミストです!」


 俺の隣の少女が微笑む。ピンクの髪をボブ気味にカットし、おしゃれな雰囲気を漂わせている。コミュニケーション能力高し。俺みたいなDTにはちょっと刺激が強い。


「じゃ、時計回りに自己紹介してね! よろしく~。」


 するとセ二スタの左隣の優しそうな女の子が口を開いた。


「は~い。私の名前はアッシェント・ブランシュで~す。アッシュ、って呼んでください。よろしくお願いしますね。うふふ。」


 アッシェント、という少女は白く透き通った髪を、頭の後ろとカチューシャみたいにてっぺんに編み込んでいた。聖女、っていう言葉がよく似合う。優しそう。


「次わたし? ルーナでーす! 仲良くしてくださーい☆」


 アッシェントの隣の子――ルーナは人懐っこい笑みをうかべながらピースしている。

 これも髪を解説しよう。彼女の髪は濡れたような黒。それを綺麗に伸ばしつつも、一束をサイドに分けている。いわゆるサイドテールだ。愛想がいい。


「わ、私の名前はリンシャンです・・・。よ、よろしくお願いします。」


 ルーナの隣は若干俯いて、緊張してるっぽい女の子だった。

 髪の色は・・・え、もういい? いや、正直髪以外に見分けがつかない。だから解説させてくれ!

 色は青! セミロング! 以上!


 リンシャンの隣に目を向けると、ひときわ鋭い眼光が向けられていた。


「私はキャルン。キャルン・アイオライトよ。」


 うわ、気の強そうな子だな・・・。

 か、髪の色は緑。翠って言った方があってるかも。さっきのルーナのサイドテールをツインテールにしたような感じの髪型。テールがすごい細い。


「こんなとこだね! どう、やってけそう?」


 セニスタ(ピンク)がささやいてくる。俺はそれに精一杯のしかめっ面を返した。無理に決まってんだろ。


「あはは・・・、だ、大丈夫だよ! みんないい子たちだから!」


「そうです。みんな素敵な子ですよ~。怖がらないでくださ~い。」


 う~ん、どうしよう。セニスタはけっこういい人だし、せっかくここまで連れてきてもらったし、このパーティに入ってもいいんだけど・・・。


「で、そいつはパーティに入るの?」


 確か・・・キャルン(緑)? がこちらを睨む。この人怖い。


「え、あ、うん。」


「ふーん。言っておくけど、私たちに変なことをしたら即、磔にするから。」


 キャルン(緑)が吐き捨てるように言う。変なことってなんだよ・・・。


「し、しないしない。するわけない。」


「ほんと~?」


 なぜかセニスタ(ピンク)がにやけながら疑ってくる。


「はっ、どーだか。ちなみに今まで近寄ってきたカスどもは、漏れなくこの世を去ったわ。覚えておくことね。」


 この緑髪、超怖いんですけど。「けっ」とか言ってどっか行っちゃったし。どこ行ったんだよ。


「あはは~。ま、よろしくね。ネオンくん♪☆」


 えっと・・・誰だっけ? ルーナ? 合ってる?

 とりあえずそのルーナ(黒)が手を握ってくる。なんかこう書くと腹黒みたいだな・・・。

 というか、スキンシップ過剰すぎない? これそっちから近づいてるよね? これは無罪?


 その後軽く話しつつ、俺たちは席に着いた。なんでも、俺がパーティに入るにあたって、色々決めなきゃいけないらしい。か、帰りたい・・・!


「まずは、ルールを決めようと思いまーす。」


 セニスタ(ピンク)が口火を切った。俺の前に紙が差し出される。


「よく読んでね。」


 そういうめんどくさいのもあるのか。まぁ、一応俺も男だしな。不安な面もあるんだろう。

 俺は紙に目を通す。どれどれ・・・





 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


 〇1、基本的にこの家を使うのは自由です。ここで作戦会議やパーティーをします。


 〇2、個室もあります。自由に使ってください。


 〇3、連絡等は魔法端末で行います。


 〇4、うちのコンセプトは『楽しくてっぺんを目指す!』です。それに寄り添ってください。


 〇5、万が一誰かに何かをした場合、速やかに排除します。気を付けてください。


 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆





 いや最後。確かに、わかるんだけど、ちょっと理不尽な気がする。まぁ、仕方ないか。


「この、てっぺんってなんのことだ?」


 俺は無難なことを聞くことにした。下手に地雷踏みたくないしね。


「あぁ、それは・・・。」


 突然の沈黙。え・・・え? こういうのを、天使が通った、っていうんだっけ? っていうか地雷踏んだの? 地雷を避けようとして地雷を踏むとか、俺もう引きこもってた方がいいかもしれない。


 狼狽える俺をよそに、セニスタ(ピンク)がつらつらと語りだす。


「ごめん。その場のノリで決めたから、具体的にてっぺんを説明しろって言われると・・・、ねぇ?」


 ちらっと隣を見る。隣のルーナ(黒)もえへへっと照れている。いや誰も説明できなかっただけかよ。なにか、とてつもない闇に踏み入っちゃったかと思ったじゃねぇか。


「他になんか質問ある?」


「じゃ、じゃあこの魔法端末っていうのは・・・」


 流石にもう地雷は無いはずだ。端末に関する地雷なんて・・・


 部屋は再び静寂に包まれた。時計が時を刻む音だけが鳴り響く。

 いやいやいやおかしいだろ。魔法端末だぞ? なにをどうしたらこれが地雷になるんだよ。

 なんなの? だれか魔法端末で殺されたの? そんなわけないよね?


「それはこちらにアドレスが書いてありま~す。ちゃんと登録しといてね☆」


 何事もなかったかのようにルーナ(黒)が羊皮紙を差し出す。


「待て、今の静寂は何だったんだよ。」


「ごめんごめん。ちょっと雰囲気を真面目にしようと思って。」


 セニスタ(ピンク)が謝る。そういうことなら納得できる・・・か?

 俺は恐る恐るもう一つ質問を口にする。頼む! 普通に答えてくれ・・・!


「こ、この個室っていうのは・・・」


 カチッ、カチッ、時を刻む音というのはなかなか詩的な表現だな。

 なんでこいつらは黙っているんだろう。地雷じゃないよね? そんなわけないよね?


 ふとピンクの髪を見る。なんだろう、俯いて、肩が震えている。え、泣いてんの?

 慌てて黒髪を見る。こっちは俺と反対の方を向いてぷるぷるしている。・・・?

 その隣は透き通るような白髪だ。真顔でじっと机を見つめている。真顔すぎて怖い。


「ぷっ・・・くくくく・・・」


 俺は声のした方を見る。青い髪の女の子が顔を手で覆って震えていた。


 うん、明らかに笑ってるよね。こいつら全員。アッシェント(白)はなんで真顔なのか分からないけど、これ、明らかにわざと黙ってるよね?


「くくく・・・あっはははははは!」


 リンシャン(青)につられるように皆笑い出す。なんていうか――


「わざとかよ! 本気で地雷踏んだかと思ったじゃねぇか! ふざけんな!」


「ご、ごめんごめん・・・くふふ、ふ、雰囲気を味わってもらおうと思って」


 セニスタ(ピンク)が笑いながら謝る。雰囲気ってなんのだよ。


「ご、ご覧のとおり、うちはゆるーい感じでやってます。これからよろしくね。」


 そして俺はフレンカラーズに所属することになった。どうしよう。不安しかない。





 ♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦





「はぁ・・・。疲れた」


 セントリア大陸でも有数のデッドスポットである、天墜の森を歩きながら俺はため息をついた。

 これからあいつらと冒険しているビジョンが全く見えない。


 シトラスが設置したゲートからお屋敷までは約200メートル。その距離は俺を不安のどん底に落とすには十分すぎる長さだった。


「おいおい、どうした。まるで、冒険者になってパーティを組んだはいいものの、メンバーになじめるか不安でたまらない、という顔をしているぞ。」


 館に着き、対面したシトラス(金)からの第一声だった。合ってるよ。完璧だよ。完全に今の心情を説明してくれたよ。

 っと、癖で髪の色を補足しちゃった。シトラスは流石にもう顔を覚えた。


「なんだ、図星か? まぁ当然だな。心を読んだのだから。」


「勝手に読むな・・・。ちょっと疲れたから、風呂沸かすな。」


「おいおい、ガチで精神を摩耗してるじゃないか。可哀想に。仕方あるまい、私がメンタルケアをしてやろう。」


「メンタルケア? 何をするんだ?」


 シトラスは何食わぬ顔でとんでもないことを言い放った。


「風呂に入るんだろう? なら、一緒に入ろう。」





 ♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦





 かぽーん。


 入浴を命の洗濯、とはよく言ったものだ。身の汚れも心の不安も、すべてを洗い流してくれる。

 俺は湯船に浸かりながら目をつむる。あぁ~、最高。


「入るぞ。湯加減はいい感じか?」


 一瞬誰の声か分からなかった。だがこの屋敷には俺ともう一人しかいない。


「おおおお、お前! 断っただろ! なに入ってきてんだよ!」


 シトラスはバスタオルも無しに(!?)こちらに仁王立ち(!?)している。

 そう、あのトンデモ発言を俺は速攻で却下した。当たり前だろ。倫理的に、道徳的に問題がある。

 そのはずが、何故か今目の前に裸のシトラスがいる。


「いや、お前をあのままほっとけなくてな。気にするな。」


「気にするよ! ちょ、待て! なに湯船に入ろうとしてるんだ! まずは体を洗え!」


「えー、めんどくさいー。」


「めんどくさいじゃない! 汚いだろ!」


 そしてシトラスは渋々シャワーを手に取る。そうそう、まずは体を洗って・・・


「って、違う! 出てけ!」


「いいだろ? 別に。 お前は私に欲情はしないらしいし、私は純粋にお前を心配しているだけだ。どこに問題がある。」


 シトラスはざっと髪を洗うとぺたぺたとこちらに向かってくる。まさか、それで洗ったつもりなのか・・・?


「ちょ待てよ! わかった! 俺が洗う! 俺が洗ってやるから!」


「え? もう洗ったけど」


「洗えてねぇよ! 俺がほんとの洗い方を教えてやる!」


 俺は湯船から出るとシャワーを手に取る。

 何故かシトラスの顔が赤い気がする。どうしたんだろう。


「ま、前ぐらい隠せ。そんなに自信があるのか」


「・・・」


 お前が言うなよ。そして今言うな。なんか恥ずかしくなってくるじゃねぇか。


「いいから、さっさとここ座れ」


 シャカシャカと頭を洗う。こいつの髪、さらっさらだな。トリートメントが良いのかな?


「お前の髪、綺麗だな。」


「え、私? そ、そうか? ありがとう・・・」


「・・・一応言っておくと、お前じゃなくて、お前の髪な?」


「わ、わかってるわ! ・・・まぁ、私は基本汚れないからな」


「どういうことだ? 引きこもってるから、ってことか?」


「お前と一緒にするな。そうではなくて、私の周りは常に魔法障壁が展開されていて、私の許可したものしか通さないのだ。」


 へぇ~、便利だな、それ。だからあんな烏の行水で湯船に入ろうとしたのか。


「いや、体を洗わないのは単にめんどくさいだけだ。」


「なんなんだよ。なんでそこでめんどくさがるんだよ。これからはちゃんと洗え? これは気持ちの問題だからな」


 シトラスを洗い終え、再び湯船に浸かる。もういいや。一緒に入ろう。


 それにしても、もう転生3か月目だが、こいつに関しては謎が多い。外見は幼女なのに、なにかとてつもない力を秘めてるっぽいし。


「・・・お前、ほんとはロリコンなのか?」


 考えていると、シトラスが怪訝な目で訪ねてきた。


「そんなわけないだろ。なんでだよ。」


「そんなに私の体をじぃーっと見つめられると、そうとしか思えないんだが。」


 どうやら視線がそのあたりに固定されていたらしい。ち、違う! 俺は無実だ!


「いや考え事をしてただけだよ。」


「ほう、幼女の体を見て物思いにふけるとは、なかなかよい趣味をお持ちで」


「ちげぇよ! たまたまお前がそこにいただけだ! 俺にそんな趣味はない!」


「ところでネオン」


 急に名前を呼ばれたので、軽くびっくりしながらシトラスを見る。


「どうだ? 冒険者になってみて。」


「・・・まぁ、不安がないって言ったら嘘になる」


 実際、あのパーティへの不安は消える気配はない。今も暗雲が立ち込めている。


「ふん、お前は私が育てた男だぞ? それくらいで凹んでどうする。」


「つってもな・・・。」


「まったく、情けないな。いいか、よく聞け。」


 シトラスは目をじっと見据える。何も恐れることはない、自信満々の目だ。


「なるようになる。失敗したらここに戻って来ればいいさ。だからはっちゃけてこい。じゃないと計画に支障が出る」


 最後の一言で台無しだった。ちょっとキテた感動を返せ。


「計画ってなんだよ。あれか? 世界征服とかいうやつ」


「あ、あー、いや、何でもない。」


 ごまかし方が下手くそすぎる。でも、まぁ、元気は出たかもしれない。


「まぁ、ありがとな。励ましてくれたんだろ?」


「え? いや、適当に言葉をかけただけだ。中身なんてないぞ」


 え、そうなの? てっきり励ましてくれたのかと・・・。


「それより、お前けっこういい体してるな。ちょっと触らせろ」


「え? え? ちょ、どこ触って・・・、き、きゃああああああああ!」




 まるで女の子みたいな悲鳴を上げてしまった。

 この世界は俺にトラウマを植え付けようとしているんだろうか。




 でもまぁ、明日からまた頑張れそうです。はい。





業界屈指の長さ

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