その1 女神っていう響き、いいよね
「・・・えっ」
気づいたら俺は白い部屋に立っていた。ところどころに設置されたドアからは青空が見える。
「い、生きてる・・・?」
自分の体を確かめるようにまさぐる。紛れもない俺自身がそこに存在していた。
どどど、どういうことだ?
覚えているのは真夏の太陽。そして停電。そして・・・飛行機。
おそらく飛行機はあのまま墜落し、俺はそれに巻き込まれたんだろう。
てっきり死んだのかと思っていた。
「死んだわよ。完全に。跡形もなく。」
声が聞こえた。なんというか、まるで女神みたいな声だ。聞いているだけで癒されるような・・・
・・・って、え? 死んだ? 誰が?
俺は声のした方へ首を向ける。そこには見るも麗しい、まるで女神みたいな人がいた。
え、さっきまで誰もいなかったよね?
「ようこそ。わが神殿へ。歓迎します。」
その女神(仮称)は俺と目が合うと、深くお辞儀をして、にっこりと微笑んだ。
「えっと・・・質問いいですか?」
「どうぞ。なんでもお答えしましょう。」
「え、なんでも? じゃあスリーサ、じゃなかった、ここはどこですか?」
「ここはわが神殿です。」
「・・・あなたは誰ですか?」
「私は女神。あなたの輪廻転生のお手伝いをする者です。」
うーわ、なんだこのヤバい人。自分を女神って・・・
「信じられませんか? ならあなたの人生を諳んじて差し上げましょう。」
「えっ、そんなことできるんですか?」
「女神ですから。」
その女神(自称)はふふんと胸を張ると、つやのある声でしゃべり始めた。
「まずお名前はミヤコ・・・オトオトさん?」
「ネオンです。」
「ぉほん、歳は20歳、大学生。でも不登校のうえバイトもしていない。いわゆるヒキニートですね。(笑)」
ぐっ、ここは合ってる・・・! (笑)がクソウザイけど合ってる・・・! (笑)がクソウザイけど・・・!
「えーと、取り柄は・・・地頭がいい。・・・え、これだけ?(笑)」
ぐふっ・・・確かに取り柄なんて無いけど! 人に言われると傷つく! そして(笑)がウザイ!
「趣味はネットアニメマンガゲーム。あぁ、いわゆるキモオタね。日課は・・・芸能人叩き? はっ、ちっさい正義感ねぇ。(笑)」
合ってる! 合ってるけど! なんかこいつ、だんだん俺を馬鹿にしてないか? さっきまで綺麗な目をしてたのに、今はもう歪みに歪んでるし。めっちゃこっち見下してきてるし。
「日々人生を後悔していた・・・と。まぁそうでしょうね(笑)」
「もうやめて・・・」
俺は膝から崩れ落ちた。だめだ、改めて自分のクズさをたたきつけられると、まじで死にたくなってくる。
「っていうかなんですかその紙・・・」
「これ? あなたの全てを記したものよ。なにもかもオミトオシってわけ。」
いや全然諳んじてないじゃん。ばっちりカンペみてんじゃん。
「さて、そんなゴミ・・・じゃなかった。 ネオンさんですが、あなたはこの度、人生を終了しました。」
「いやでも、俺は今生きてますよ?」
そう、ここがさっきから引っかかっていた。呼吸もしているし、声も出せる。間違いなく生きているはずだ。
「否定から入るのはキモオタの典型的な例よね。最後まで話聞けないのかしら(笑)」
ぶ、ぶん殴りたくなってきた・・・。落ち着け、今は状況の確認が最優先だ。
「・・・続きをお願いします。」
「はいはい。えー、生きてるって言ってたけど、それはここ、私の神殿にいるからなの。」
「・・・?」
「現実のあなたはもう死んでて、ここは生と死の狭間。あなたはいわば・・・精神体? ってとこね。」
「・・・」
それは正直あまり抵抗なく受け入れることができた。まぁ、そうか。あんな飛行機事故で生きてる方が奇跡だもんな。
「ちなみに死因はショック死ね。」
「えっ? 物理的ショックってことですか?」
「いえ? 心原性ショック、いわゆるびっくり死。」
・・・? どういうことだ? 俺は事故る前に死んでたのか?
「うーんとね、ついでに言うとあの飛行機は墜ちてません。」
「・・・え?」
「あなたのマンションに当たる寸前で、運よく強風が吹いて方向転換、無事空港までフライトできたわ。」
「えっと、じゃあ俺は・・・」
「うん。飛行機とはなんにも関係ないわね。勝手にひとりでびっくりして、ひとりで死んじゃったわけ。情けないけど、これが真実よ。」
う、嘘だろ・・・? ダサすぎる・・・。
恥の多い人生を送ってきたが、死に際が一番恥ずかしいなんて・・・。
「流石に可愛そうだと思ったので、こうして私の神殿まで招待したのよ!」
「・・・どういうことですか?」
「あなたに選択肢をあげましょう!」
そう言うと女神は、どこから持ってきたのかホワイトボードで解説を始めた。
「えーまず、このまま死ぬ方。こちらはいたって簡単、ただ死ぬだけです。」
いや雑すぎる。図もない。ホワイトボードには大きくDEADと書いてある。もしかしてアホなのか?
「次に、こちら!」
ボードをひっくり返すと、絵や言葉で彩られたファンシーな風景があった。
「新たな選択肢、『転生』です!」
転生? 生まれ変わるってことか?
「こちらの方では、あなたを別の世界に転生させます。そこはもといた世界とは違い、剣や魔法、モンスターなどが存在するとってもファンタジーな世界なのです!」
「・・・」
「しかも今ならあなた唯一のスキルを持った状態でスタートできます! さぁ! レッツ転生!」
うわ、うさんくせー・・・。なんだろう、商業的な何かを感じる。
しかも、さっきまでの死因説明で俺のメンタルはもう砕け散っている。
ゆえに俺が選ぶのはただ一つだ。
「まじすか!? ファンタジーに転生!? 人生やりなおせるんですか!?」
めっちゃ食いついていた。だって剣に魔法だよ? 俺の夢といっても過言じゃない。
「そうです! その世界では0からスタートできます!」
「転生します! させてください!」
「よっしゃノルマ達成! それでは、外へ!」
「えっノルマってなに」
「外へ。」
俺は女神に引っ張られドアから外へ出た。
「あああああああの、ななななななんですかこれ」
そこは空だった。正確には、神殿が空に浮いていて、外縁に今俺は立っている。
「飛び降りてください。そうすれば転生できます。」
「いやでも、自慢じゃないんですけど、僕高所恐怖症なんです・・・」
「多分最初は教会からスタートなので、神父さんにでも頼ってください。」
「あの聞いてます? 僕高所恐怖症なんですけど」
「スキルは転生後に確認してください。あなたに幸運が待っていることを祈っています。」
「あの、僕高所きょ・・・」
「はよいけ」
ドンっと蹴られ俺は空へ投げ出された。
「うそおおおおおぉぉぉぉぉぉ・・・・・・・」