プロローグェ
薄暗い部屋。ときおりカチャカチャという音が響く。
『次で最後な』
『おk そういえば、あれ買った?』
あれ? あぁ、例のゲームのことか。
『まだこれから。お前は?』
『当然買った。もう、今日買ってこい。ハリーハリー』
ふっ、相変わらずだなこいつも。
『わかったよ。これ終わったら買いに行く。』
バシュゥゥゥウン・・・
突然画面が消灯する。な、なんだ? エアコンももう作動していない。これはまるで・・・
「停電・・・あっ!」
そこで俺は初めて気づく。そう、今日は計画停電の日だったのだ。
午前中という一番影響が少ない時間帯に行われるその停電は、しかし俺には深刻なダメージを負わせることになった。
「そっか・・・、はぁー・・・。」
落胆のため息をつき、背もたれに体重を預ける。
机の上のスマホが通知ランプを光らせていることに気づき、慣れた手つきで画面を点灯させる。
なんだ、メルマガか。そろそろうざいし拒否しようかな。
俺はそのままスマホでネットサーフィンへと移行した。だが連日まとめやらニュースやらを見ていたので、真新しいものなんて何もなかった。
ふと、とあるまとめ記事が目に留まった。タイトルは『飛行機って7割ぐらい落ちてるイメージだわ』
これは見てないな。面白そうだし見てみよ。でも7割はありえないだろ。大日本帝国海軍かよ。
画面をスクロールする。バナー広告がうざいな。それも・・・大学関係だ。なんと間の悪い。
俺はスマホの画面を消灯し、後味の悪さを振り払うようにカーテンを開け放つ。今の時期は夏。日差しが一番きつい季節だ。
それにここはタワーマンションの12階。日光を遮るものは何もない。
当然俺に直射日光が襲い掛かる。
「うわ、あっつ・・・。」
このまま寝ようかとも思ったが、クーラーなしでこれはキツイ。というか無理だ。
「コンビニまでいけばクーラーは確保できるな・・・」
歩いて3分圏内にコンビニが一軒ある。当然店内はいい感じに冷えているだろう。
それに、クレカが無いのでゲームを買うにはプリペイドカードが要る。よし、出かけよう。
え、どうせ外出るならゲーム屋さんまで買いに行けばいいって? バッカお前、俺に5分以上の連続歩行は不可能なことを忘れたのか?
さて、支度しますか。
30分後、俺の部屋には明らかな不審者が立っていた。
いや、まぁ、俺なんだけど。しかし、真夏に帽子、マスク、黒づくめなんて、ヤバくないか? 俺のファッションセンス。
ま、いいか。どうせ誰も俺のことなんて見てないだろ。
改めて姿見の前に立ち、自分を眺める。顔はいいと思うんだけどなぁ・・・。いかんせんこの猫背と卑屈な表情を直さないと、まともな人間に相手はしてもらえなさそうだ。
窓から外を眺める。うわー、マジで暑そう。太陽も少しは自重しろよな・・・。
ふと、突然地面が黒に染まった。なにかが太陽光を遮ったのだ。
なんだ?
俺は視線を上へと移す――
「・・・ひぇっ」
――俺が最後に見たのは、こちらへ一直線に墜ちてくる巨大な飛行機の姿だった。