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第六話 ノリノリ


 特にやることもなかった俺たちは何もせずに時間を潰していく。

 ……まだ、藤村に帰る気配はない。正直言って、気まずいのだが。


 付き合うとかなんとかあのときは無理やり脅され気味にそんな会話をして事なきを得たのだが、別に俺は話し上手ではない。長い沈黙が場を支配している。

 そんなとき、ゲームをしていた藤村があー、と声をあげた。見れば、藤村の操作していたキャラクターが敗北していた。

 気づけば藤村はまたゲームに戻っていた。


「もう、このゲーム難しすぎですっ! ていうか、先輩! かわいい彼女を放置するってなんですか? まったく、ダメダメですね先輩は」

「別にやることもないだろ。そろそろ帰ったらどうだ?」

「夕食の時間まではいるつもりですよ。食堂、一緒に行きましょうね」


 男子寮と女子寮は隣り合っていて、食堂はその間をつなぐように存在している。

 たまにカップルが一緒に行くことがあるとか。


「そこまでするのか?」

「はい。だって、なかなか先輩と私の関係って広まらないんですよ? ていうか、みんな私の名前は出すのに、先輩の名前を出さないんです」

「日頃の行いがいいからなんだろうな」

「陰が薄すぎるのが原因なんじゃないですか?」


 酷い後輩である。笑顔でいうのだから、やっぱり悪魔だ。


「先輩はこの学校の『優秀生』に選ばれるために入学したんじゃないんですか?」

「『優秀生』ねぇ。別に興味はないな。そこまでいかなくても、学校に通っていれば十分いい進路を確保できるだろ」

「けど、『優秀生』になればそれこそより取り見取りじゃないですか」

「そこまでしてなりたいものでもあるのか?」

「まだ別にありませんけど、将来やりたいことがみつかったときに困らないようにしたいんです」


 それは、立派だな。素直に驚いた。

 将来がまだ決まっていないのに、やりたいことが見つかったときに困らないために頑張っている。


 そういう人ってなかなかいないだろう。

 『優秀生』を目指す、か。決して楽な道ではないだろうが、頑張っている人を応援したい気持ちはある。

 俺には、何かのために努力したいという人の気持ちがよくわからない。そういうのを間近で見てみたいと思った。


「けど、どうしたら先輩のことも話題になるんでしょうかね? 先輩が地味すぎるんですよね。いっそのこと、髪をすべて金色に変えるとか……なしですね」


 俺がツッこむ前に諦めたよこの子。


「先輩ももう少し彼氏として頑張ってはくれませんか?」

「興味ないな。第一、彼氏だって一時的なもんだろ?」


 言ってしまえば、契約社員のようなものだ。ある期間がすぎればそれで終わりだ。

 しかし、俺の言葉に藤村はむっと頬を膨らませ、眉間にしわを刻む。


「一時的なものですけどー、もうちょっと真剣にしてほしいんですよ? 案外私は、先輩のこと、気に入っているんですよ?」


 いじいじ、と天使の笑顔でそういった。


「その顔のときは演技だって知ってんだぞ?」


 予想以上に俺のことが広まらないのに焦っているようだ。


「ちぇっ、ばれましたか」


 ぺろりと舌をだした藤村に、嘆息をつく。危ない危ない。危うく騙されるところだったぜ。

 ばれないように額をぬぐう。


「先輩はどうしたらもっと私たちの関係が広まると思いますか?」

「そうだな……もっとこう……カップルらしいことでもするとかか?」

「カップルらしいことですか? 例えば何かありますか?」

「エッチなこと?」

「殺されたいんですか?」


 すっと彼女が拳を構える。

 テーブルに額をぶつけるように謝罪する。


「冗談、冗談。ほら、他に何かないか?」

「……そうですねぇ。カップルっていえば――一緒にお昼食べたりですか?」

「ああ、そうか。おまえが弁当とか作って持ってくるとかだな?」

「え、めんどくさい。食堂でいいんじゃないですか?」

「……いや、それはおまえあれだろ。さすがに風情ってもんがなくないか?」


 俺がそういうと、藤村は考えるように眉間にしわを寄せる。

 それから、にやぁ、ととてもとてもうざい顔を作った。


「先輩、もしかしてあれですか。私のお弁当を期待しているんですか。キモイですね」

「いや別に。ほら、ゲームとかだと結構定番のイベントだからな」


 こんなときにできる例えがゲームくらいしかないというのが残念なところだな。

 

「なるほど、ゲーム……先輩そういうの好きみたいですもんね」


 誤解だ、偏見だ。しかし、すでに藤村は狙いをそちらにシフトしたようだ。


「それでもいいですね。他に何か候補はありますか?」

「他、ねぇ」


 俺がやったことある奴だと休日に予定を取り付けて、デートに行くようなものだからな。

 おまけに爆弾なんてものができて、時々その除去のために別の女の子も誘う必要があるのだ。

 今彼女が求めているのは学校内でやることだろう。

 

 それこそ、周りの、「藤村さんって付き合ってたのー!?」「隣の男は何者だー!?」みたいな反応が欲しいんだろう。それが手っ取り早く、周りに俺たちの関係を伝えるというものだろう。

 ……学校内か。だめだ、出会いイベントくらいしか思いつかん。そして俺たちの出会いは最悪だ。


「学校内だと、別に思いつかないな。まあ、時間が解決してくれるんじゃないか?」

「うーん……そうですか。まあ、わかりました! それでしたら、お弁当作戦をとりあえず実行しましょうか」


 え、そんな軽いノリでいいのか?


「明日の昼休み、先輩のクラスに行って、一緒に食事をしますね」

「……本気で言ってんのか?」

「先輩が言い出したことなんですから、覚悟してくださいね」


 覚悟ってなんだ。あれか? よくある料理がへたくそとかそういう覚悟じゃないだろうな。

 主人公が「おいしかったよ」と震え声でいうようなシチュエーションだろうか。


 悪いが、俺にそんな真似はできないぞ。窓際の席の俺は、まずかったらそのまま吐き出す自信だってある。なんなら弁当を地球の肥料に変えてやるさ。


 藤村をちらと見る。……頭のネジはいくつか落としているが、料理がへたくそには見えない。最低限のものくらいはつくれるんじゃないだろうか。


「先輩のクラスって2-1でしたっけ」


 マジで来る気じゃねぇか。ずばり俺のクラスまで知っているし。


「いや、2-5だ。いやそもそも、俺は2年じゃなくて3年だったかも。ああきっとそうだな」

「何ほざいているんですか。すでに先輩のことは調べてあるんですよ」


 何この子怖い。言い逃れはできそうにない。

 何なら明日休もうか。病気の看病に来るのも、結構よくあるシチュエーションだし。

 ……休んだら、あとが怖いな。何より、作戦決行を別日にずらされるだけになりそうだ。


 何なら、学校から逃げ出すのもありかもだ。その場合スマホとかも変更しないといけないので、非常に面倒である。

 ……となれば、このノリノリの彼女に付き合うしかないのだろう。

 

 『優秀生』ねぇ。

 まあ、夢のために頑張っているのであれば協力してやるのは構わない。


 そういう風に全力で生きる意味や理由が俺にはわからない。

 だから、その理由を抱えている人たちの隣で、それを眺めていれば、俺も少しは変われるかもだしな。



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