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第三十話 普通の高校生


 放課後。俺は一人、近くの公園に来ていた。

 子どもたちがバスケットボールで遊んでいるのを見ると、これからの電話に対しての憂鬱も少しは和らぐような――ことはなさそうだ。


 寮からほど近い距離にあるこの公園は、近くに民家の子どもたちがよく利用している。放課後ということもあってか、学校帰りの子どもたちばかりだ。俺の隣のベンチには、不用心にランドセルがいくつも置かれている。

 真っすぐおうちに帰りなさい、というのは小学校で習うんだったか? それとも幼稚園? どっちも行ったことないからわからんな。


 そんなことを考えていると、スマホが震えた。

 今日俺が一人でここにいるのは、誰にも電話を聞かれたくなかったからである。

 電話の相手は俺の父親だ。


『久しぶりだな、恭介』

「それで? 今日は一体何の用事なんだ親父」


 事前に連絡をするから時間を空けておくように言われた。

 とはいえ、どんな内容かまでは聞いていなかった。

 まあ、家からの電話だ。ロクなことにはならなそうではあるが。


『学校生活はどうだ?』

「聞かなくても、だいたいのことは学園から伝わっているんじゃないか?」

『最近、友人が増えたらしいな』

「別に、あんたの言いつけを守っているわけじゃないがな。俺のやり方でできた友達なだけだ」


 金剛寺家に教えられた他者とのコミュニケーションの仕方。それは一切使っていない。

 俺は、金剛寺恭介として、自分なりに覚えたコミュニケーションで接しているだけだ。


『言いつけ、か。入学前に言ったことは覚えているか?』

「やる気ないから、覚えてないな」

『学園での成績は常に一位をとれ。全生徒の見習いとなるように過ごせ。そして、優秀な女を見つけ、金剛寺家発展のための子どもを作れ。おまえは金剛寺家の三男だ。家を継ぐことはなくとも、その立場というだけで、十分に価値はある』


 家からの命令に従うつもりはない。

 俺は家のやり方が嫌いだ。


「知らねー。さっさと家から追い出してくれればいいっての」


 俺の言葉に親父はしかし何も言わない。


『あとで詳しい日程は伝えるが、取り急ぎ、伝えておく』

「そんじゃーな親父」


 どうせロクでもない話だろうと思ったので、電話を切った。

 それを予想していたらしく、親父はすぐにメールを飛ばしてきた。

 ったく。俺は仕方なくそれを見て、電話をかけなおした。


「もしもし、親父。いきなり電話切るんじゃないよ、まったく」

『切ったのはそっちだ』

「それで? 何この婚約者って? 俺まだ未成年なんだが?」

『十八になったらすぐに結婚して、子どもをうんでもらえ』

 

 相変わらず、いつの時代だって感じの父親だ。

 彼の言葉に眉間をもみほぐす。


「俺はな、自分で相手を見つけたいんだよ。こういう余計なことすんじゃねぇ」

『それなら学生の間に好きなだけすればいい。ただ、卒業と同時に別れれば、な』

「それを決めるのあんたじゃない。俺だ」

『……何が不満だ? 少なくとも容姿は人並み以上、良家の娘で、お前のクラスメートだ。交流は卒業までにとればいいだろう』

 

 親父から送られたメールには画像が添付されている。

 ……婚約者は五塚家の娘――五塚ちさとだ。


「親父、悪いな。今付き合っている女性がいるんだ」

『そうか。それなら子には期待できるな』

「誰が二人を養うっていった? おい、親父! ぜってぇ、あんたの言いなりにはならないからなっ」


 電話がぷつっと切れた。

 ……ふざけてやがる。家の発展のためなら、なんだってしようとするんだからな、あいつは。


 どうせ、どっちかは愛人でも構わないとか思っているんだろう。本当にいつの時代の人間だ。

 スマホをポケットにしまい、ボケーっとベンチに背中を預け空を見る。


 ……鳩船学園は、箱庭だ。

 あそこは、一部の家が天才たちを自分の家族に引き込むための学園だ。

 出資した家々が才能ある子を見つけ出し、自分の身近に置くための場所――別にそれ自体を否定するつもりはない。


 ただ、その家に生まれた人間にまでそれを強要すんじゃねぇって話だ。


 金剛寺家で生まれ育った俺は、幼いころから学校に行かず、ずっと教育を受けてきた。

 学校での教育は無価値なものと親父は決めつけ、家庭教師に色々教えられた。


 それは様々なもので、今学園で受けられる幅広い授業を超えるほどだ。

 ま、俺はそれらを全部、文句を言われない程度の点数だけ取り続けてきた。

 

 家での俺の評価は悪い。言われた中の最低限しかできない男だとよく兄たちに馬鹿にされたものだ。


 落ちこぼれの俺に与えられた命令は、友人を作ることだ。

 家の発展のため、人を見て、有能な人材を報告しろ、というものだ


 家の息がかかった教師たちも同じように情報を流しているが、やはり学生と教員では立場が違うからな。


 もちろん、俺としては拒否だ。家の方針に従うつもりはない。

 だから、家に言われたことと逆のことをし続けた。


 学園のトップに立てと言われても、なるつもりはない。

 学園で友人を作れと言われても、俺はぼっちを貫くつもりだ。

 家から圧力をかけられようが、見合い相手を用意されようが、すべてバックレてやった。


 ……少なくとも、俺は俺自身で身につけた手段以外で友人を作ることは決してしなかった。

 それでもこの素の俺と一緒にいてくれる友人を作りたかった。


 それが、今のところは夏樹と浅沼の二人というわけだ。

 さて、これからどうするかね。

 今まで用意された見合い相手たちは、絶対に向こうが会えない人間だった。だから、いくらでもバックレられたのだが――相手は五塚ちさとだ。

 

 今頃、彼女にも同じような情報が流れているかもしれない。

 そして何より、彼女は俺のことをある程度、評価してしまっている。

 ……こちらが拒否しても、向こうが積極的にアピールしてくるかもしれない。


 どうすっかねぇ、ぼーっとしていたときだった。


「危ない!」

 

 そんな声が聞こえて顔をあげると、ビシッ! と顔面にバスケットボールが当たった。

 い、いったい……。

 俺がそれを片手でつかみあげ、視線を向ける。


 小学生たちがおびえた様子でこっちを見ていた。

 多少機嫌が悪かったのが顔に出ていたかもしれない。


 俺はその空気を取り除くため、立ち上がる。

 それから、バスケットボールを蹴り飛ばした。

 ボールは一寸の狂いもなくすっとバスケットゴールを揺らした。

 軽いパフォーマンス。運動や勉強、それらすべては家に教えられたものだ。……家事全般に関しては、金剛寺家の古い考えもあり、教えられていない。家事全般は女がやるもの。それが金剛寺家の教えである。


「周りに気を付けて遊べよ」


 それだけ言い残して、俺は公園をあとにした。

 家に戻ると、夏樹が案の定玄関で待っていた。むくれた顔をしている。


「先輩、どこ行っていたんですか? 一緒に帰る約束していましたよね」

「あれ? そうだったか? 知らんな」

「もう、先輩は……先輩、どうしたんですか?」


 夏樹が首をかしげる。珍しい反応だった。


「なんだ?」

「いつもと雰囲気が違うような……」

「俺のかっこよさにとうとう気づいてしまったか……」

「あっ、そういうのじゃなくて、ちょっと不機嫌ですか?」

「……まあな。家に帰ったらうるさい人形がいたもんでな」

「捨ててもすぐ戻ってきますから安心してくださいね」

「呪われてんな……」


 俺は鍵を開け、中へと入る。

 金剛寺家では、こんな風に他人と接しろとは教わらなかった。


 ……だからきっと、俺が夏樹と仲良くなれたのは、俺自身の力、なんだと思う。

 さっと夏樹は振り返り、


「何かあったら言ってくださいね。今は、彼女ですから」

「……ああ、いつかな」


 俺はそれだけを伝え、彼女とともに歩いていく。

 難しいことは知らん。


 ただ今は、どこにでもいる普通の高校生として楽しむことに全力を尽くそうと思った。

想定だった30話ぴったりで完結にさせてもらいました。

続きについては、いずれ書こうかなと思っていますが、しばらく予定もなかったので、とりあえず完結設定にさせてもらいました。


ここまで読んでくださってありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] めっちゃ好きな作品なので、いつか続編待ってます。
[一言] 何卒、何卒続きをお願いします!
[良い点] 何度も読み返してしまうぐらい大好きな作品です。 続編があれば楽しみにしてます。
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