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第二十三話 お買い物


「それじゃあ、今日はどこに行きますか先輩?」


 いきなりの質問に俺は硬直した。

 玄関のチャイムがなったので、とりあえず出るとおしゃれをした藤村がそこにいた。

 

 思っていたよりも派手さはない。白のトップスに、膝より少し上にしたスカート。もっとこうギャルギャルしい恰好でもしてくるんかと思っていたぜ。

 それでも、彼女には良く似合っている。まさに天使のようだな。過剰に煌びやかではなく、安定したかわいらしさがそこには存在していた。


 休日に遊びに来たこともあったが、そのときよりいくらか気合の入った服装である。

 そのまま街に一人で繰り出してくれれば、きっと積極的な男たちに声をかけてもらえることだろう。


「楽しんでくるといいさ」


 扉を閉めようとすると、がっと足を割り込まれた。

 その根性は将来営業職についてから発揮してほしいものだ。


「なんで閉めようとしているんですか? ていうか、先輩。出かける気ゼロの服装じゃないですか!」

「そりゃそうだ。さっき起きたんだからな」

「寝ぐせ! なんでまったく用意していないんですか!」


 ぷんぷんと怒り心頭の彼女は、体をねじ込むようにして扉を開けた。

 このまま怪我でもされたら問題になるので、抵抗もそこそこに彼女を部屋にあげる。


「たまには、部屋で遊ばないか?」

「いつもですよっ。せっかくいい天気なんですから外に出ますよ!」


 ……いい天気っていっても別に運動しにいくわけじゃないだろう。

 どこかの店にいって、ウィンドウショッピングでもして帰ってくるんじゃないか? それって天候関係ある?


「確か、こっちが先輩のタンスでしたよね」

「おいこら、勝手にあさるな」

「……って、なんで同じ服しかないんですか! 先輩はアニメのキャラクターですか!」

「休日、外でないのに服いるか?」

「な、なんて説得力……」


 必要なものがあれば、金曜日の放課後に買ってあと二日は寮内で生活するだけだ。

 寮内であればだいたいみんなジャージだ。まあ、数パーセントは寮内でもぴしっと着ている人たちもいるが、それらは少数派だ。

 

「とりあえず先輩、買いものに行きましょう」

「ゲームか? 確かに、対人ゲームがほしいな。おまえをボコボコにしてやるぜ」

「先輩の服です。今時、高校生なんですからもっとまともなもの持っていてください。ママにでも買ってもらったんですか?」

「服なんて動きやすさ重視でいいだろ? 別に誰かに見せるわけでもないんだし」


 第一、休日に外でないのに服いるか?


「今ここに見せる相手がいるんですから。これ着ていきますよ」


 彼女が取り出したのは、ジャージではない唯一の服である。

 仕方なくそれに袖を通した。


「お金、いくら持ってますか?」

「それなりに持っているが……カツアゲに払う金はないぞ」

「先輩の服買うんです、一万もあれば足りますから」

「ゲーム一本……いや二本買えるぞ!」

「とりあえず春服一着くらい持っておくくらいいいじゃないですか! これから何回も着れば安いもんですよ!」

「もう春というか夏が近いぞ? 夏なんて、半袖に短パンで十分なんだぞ?」

「部屋着ですか? 夏はまた夏で別のものが必要になりそうですね」

「そこまで関係が続いていたらな」

「先輩に夏のご予定が?」

「俺になくてもおまえにはあるんじゃないのか?」

「まあ、いくつか候補はありますね」


 おお、さすがだな。


「ただ、面倒なんで断るかもです」

「……おまえも、ちゃんとした相手は探す気はないのか?」

「別に探す必要もなさそうですし?」

「……そうですか」


 夏といえば高校生にとっては大事な時期だろう。

 俺は別に彼女ができないとかではない。

 もう来年に受験を控えているからな。だから夏休みは部屋に引きこもるのだ。


「とにかく、出かけますよ」

「わかったわかった。いいもの一つ買っておけば長く着れるしな」


 安物を一つ買うより、それなりにいいもののほうが長持ちするしな。


「……何年着るつもりですか?」

「死ぬまで持つなら、死ぬまで」

「色落ちとか考えたことあります?」

「なんだそれ? ペンキでも塗れば直るか?」

「やってみます?」

「まずは見本がみたいな」

「やってあげますよ」

「……遠慮します」


 藤村の笑顔がそろそろ怖くなってきたので、俺は視線をさっと外した。

 店を目指して歩いていたのだが……休日だというのに人がたくさんだな。


「今日は祭りでもあるのか? なんだこの人の数は……」

「普段からこのくらい賑わってますよ。外でないからわからないんですよ」


 今歩いている中央通りには、たくさんの人がいた。ここで、ゾンビでも出てみろ。一斉感染だぞ。危機感が足りないな……。


 俺たちのように男女で出かけている人もいれば、家族連れも。

 あまり子連れはいないように見える。少子化改善のために頑張って欲しいものだ。


「休日は家から出ないからな。唯一、こっちに越してからの春休みだけは、必要なものを買いに行ったが」

「……服とかは?」

「そのときに買ったものだけだな。物を大事にするんだ」

「私の想像以上に、自堕落でしたね。もう少し、外に興味を持ちましょう先輩」


 俺の趣味なんて室内だけで足りるからな。

 一応体自体は暇を見て動かしているが、あくまで健康を維持する程度だ。

 たどり着いたのは、ショッピングモールだ。


「今日はここで遊ぼうと思っていたんです。せっかく荷物持ちがいますしね! 先輩来たことありますか?」

「馬鹿にするなよ。一度だけな」

「やっぱり全然来てないんですね」


 迷子になったので二度と行きたくないと思っていた場所だ。

 そうして、男性用の服がある店についたので、近くのベンチに腰掛けた。


「俺はここで待ってるからあとは任せた」


 がしっと、俺の肘を抱え込む藤村。

 他者からみたらカップルが腕を組んでいるようにしか見えないだろう。


「知ってるか夏樹。俺の肘はそっちに曲がらないんだぜ?」


 藤村はいつでも俺の肘を折ることができる状態だ。


「誰の服を選びに来たと思っているんですか? 実際に着てもらわないと駄目に決まってるでしょ?」

「じゃあその辺のマネキンにお願いするのは……? 俺もう疲れたんだけど……」


 体力には自信があるほうだ。ただ、人ごみに酔った。


「まだ、一軒目も見始めてもないんですけど?」

「二軒目の予定なんてないんだが?」

「先輩に合う服が見つかるまでは周ります。ほら、さっさとしてください」


 無理やり引っ張られる。親の買い物につれまわされる子どもの気分がよく分かる。


「ママー、もう飽きたよー、足痛いよー、帰りたいよー」

「腕も痛くなりたいですか?」


 このママ怖い。俺は黙って彼女の着せ替え人形になることにした。

 彼女のいうがままに服を着ていく。はいはい、黙って着ますよ、っと。


「うーん……なんですかね。先輩、微妙に似合いませんね。あと、地味に身長高いせいで、おいてある服だと微妙に合わないものがありますし」

「そうか。俺これ気にいったぞ!」

「帰りたいだけですよね。次行きましょう」


 くそ、俺の見事な作戦が。

 藤村は楽しそうに笑って俺の腕を引っ張っていく。


 人がいなかったら首根っこでも掴まれてそうだな……。

 そして、店をいくつか回り。あっちの服とこっちの服を合わせたら、とかなんとか色々藤村がつぶやき始めた。


「先輩はどう思いますか? さっきの服とこっちの、どっちがよかったですか?」

「一つ前のほうが動きやすかったな。こう、いざってときに動けそうだ」

「いざってなんですか?」

「異世界に召喚されたときとか?」

「先輩なんかを召喚した異世界に同情しますね。それじゃあ……うん、たぶんこれでいいですね」


 藤村は一人納得したようだ。

 2つの店で上と、下、そして羽織れる上着を購入した。


「それじゃあ、ここで全部着替えてください」

「……えぇ」


 店の更衣室を貸してもらって、そのまま全部着替えることに。

 服は洗ってから着たいのだが、仕方ない。

 その場でさっと着替えて外に出ると、藤村が目を輝かせた。


「別人じゃないですか! やっぱり素材はよかったんですね!」

「そりゃあもちろんだ」

「あっ、喋ると駄目です先輩。クールっぽさを出すように黙っててください」

「ざけんな」


 背筋を伸ばせと言われていたので、登場時だけは従っていたがそれも解除。

 首をひねり、腕を伸ばす。


「これで私と並んで歩いてもまあ、問題ないですね?」

「そうなのか? とりあえず俺はゲームショップに行きたいんだが……」

「そういえば、二人でできる新作がありましたよね。その前に、ご飯たべに行きましょう! レストラン通りがあるんですよ!」

「確かに、腹は減ったな。行くとするか」

「はい、行きましょう!」


 藤村が俺の手を掴み、歩きだした。

 その後は、藤村の買い物という名のウィンドウショッピングに付き合わされた。

 結局何も買わないのになんであちこち見て回るんだろう? そんなに足を酷使して楽しいか?


 ただ、藤村は楽しそうに俺の手を引っ張っている。

 ……まあ、もう少し付き合ってやるとするか。

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