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第二十二話 お気に入り


 昼休み。

 俺はお気に入りの場所に足を運んでいた。最近の昼休みは藤村に襲撃されていたから、なかなかこれなかった。


 場所はにっくき体育館裏から少し離れた場所。木々が生い茂った場所があるのだが、その中を入っていくと、ぽつんと空間が広がっている。何があったか知らんが、一画だけ木がはえていないスペースがあるのだ。


 誰も知らないと思われる俺だけの場所だ。少なくとも、この一年。ここで食事をしていて誰かが来たことはない。

 まさに、平穏の地だ。

 夏や冬はさすがに厳しいが、春や秋くらいであれば、程よい温度で過ごしやすい。今は五月だし、今月一杯が限界だろう。これ以上はジメジメしてたり、暑かったり、虫が湧いたり最悪だからな。


 俺はカバンから取り出したレジャーシートをしいて、そこで横になる。

 目を閉じて休もうとしたとき、木々が揺れた。風じゃない。ざっざっと土を踏みしめる音がした。


 ……誰かがこちらへと近づいてくる。

 やがてがさりと草木が揺れ、俺の近くに誰かが立つ。薄目を開けると、藤村だった。なぜ……? まさか、つけられていたのか?

 このまま寝たふりしておこう。そのうち諦めて帰るだろう。


「先輩って、本当ぼっちが好きですよね」


 その先輩は今おねむだから、ほらさっさと帰れ。

 

「先輩、今入ったばっかりなんですからそんなすぐ寝てないですよね」


 寝てます。

 無言を貫き通すと、藤村が俺の体に触れた。

 それから、レジャーシートが引っ張られ、テーブルクロス引きの要領で転がされた。


 そして、レジャーシートに藤村が座った。

 俺はレジャーシートからはじき出された。こ、この野郎……っ。


「ほら、お弁当持ってきましたよ。一緒に食べましょうか」

「寝てるんですけど」

「起きてるじゃないですか。はい、どうぞ」


 そういって藤村が弁当を腹の上にのせてきた。

 俺は弁当を受け取りながら、体を起こす。

 藤村も弁当を持ってきているようだ。お互い向き合って、いただきますと蓋をあけた。


 おお、おいしそうだ。市販の弁当でも買って詰め替えたんじゃないかというほどに整っている。

 藤村の弁当もメニューは同じだが、白米の量が少ない。わざわざ俺の分だけ量を増やしたんだろう。


「一年のときからこんな場所見つけて昼休みを過ごしていたんですか?」

「ああ。一人になるにはうってつけの場所だろ?」

「ほんと、ぼっちが好きなんですね」

「ぼっちが好きっていうとなんか聞こえが悪いから、せめて一人が好きくらいにしてくれないか?」

「そうですか。……ぼっちが好きなんですね」


 いちいち俺をいじめるのが好きだな、こいつは。

 パクパクと食事をしていく。

 ……うまいな。藤村が感想を求めるようにこちらを見てくる。何も聞かれないなら、何も答えない。

 俺にそんな察する能力を求めるな。


「味の感想くらいは言ってくれませんか」

「そうだな。普通の高校生ならうまいと思うんじゃないか?」

「それで、先輩は?」

「俺は普通の高校生だ」

「素直じゃないですね」


 そういうと、藤村がにやりと笑った。

 

「先輩、私と出会う前はいつもここに来てたんですか?」

「まあ、それなりには来てるが、いつもってわけじゃないな」

「だから、ぼっちになっちゃったんじゃないですか」

「なっちゃった、じゃなくてむしろ望んでるんだが」

「誰かと一緒のほうが楽しくないですか?」

「そうか? すげぇなおまえ」

「え、なんでですか?」

「俺は場の空気を読んだり、周りに合わせたり……そういうのが嫌いだ。だから、基本的に関わりたくないの」


 だから、見ている分には構わない。あるいは、グループの中で置物でいられるなら構わない。

 自分で好き勝手に話すのは得意だ。つまり、自己中ってやつだな。


「ま、大変ではありますけど。生きていくうえでは必要じゃないですか?」

「なんとかなるんじゃないか?」

「かも、しれないですけどね。先輩は、これからも今のようにぼっち道を貫くというわけですか?」

「たぶんそうなるんじゃないか? 気兼ねなく話ができる相手がいれば、違うかもしれんが」


 親友とかまでいけば、そんな風になれるんだろうか。

 ……そこまで仲を深めるのが面倒そうだ。うん、やっぱダメそうだ。


「それじゃあ、私とはいまのところ気にして話したりとはしてない感じですかね?」

「もうめっちゃ気にしてる。いつあの悪魔を目覚めさせるかわからんし……」

「誰が悪魔ですか?」


 にこりと笑顔だけは天使だが、彼女から漏れ出るオーラはどす黒い。

 一瞬でこれだけの変化を起こせるのだから、恐ろしいものだ。


 藤村と、あとは浅沼とも特に考えず話していたな。人の裏を知っているというのもあるのかもしれない。

 先に、向こうがそんな風に自らを見せてきたから、俺も脊髄反射なトークができるんだろう。


 気楽、といえば気楽だな。

 気づけば、弁当が終わっていた。……うーむ、もっと食べたいと思わされたな。


「先輩、食べるの早すぎますよ。そんなにおいしかったですか?」

「そんなんじゃねぇよ。寝る時間を邪魔されたからな。さっさと食べて寝たいんだ。ま、弁当はありがとな」


 一応感謝は伝えないとな。昼飯代が浮いたんだからな。

 藤村に弁当箱を渡すと、彼女は満足そうにうなずいた。


「ここはいいですね。学校内なのに、なんだか落ち着きます」

「だろ。それに毎週金曜日の午後一は俺授業とってないんでな。このまま寝ていられるってわけだ」

「え、ないんですか? とってないんですか?」

「ああ」


 午後の授業は、基本的には自分で選択した科目の授業を受けられる。

 まあ、日にちによって、基本の五科目が入っている場合もあるけど。

 俺は卒業に必要な授業以外は一切入れていない。


「でも、先輩。それってつまりこの学校の利点をまったくいかせてないってことじゃないですか! せっかく、入ったのにもったないですよ」

「いいんだよ」


 午後の授業は専門分野の教師たちによる授業がほとんどで、学年関係なく受けられる。

 

 まだ将来が決まっていない人は、広く浅く、興味のある分野の授業を受ける。

 将来が決まっているなら、さらに知識を深めるために受ければいい。

 教師との関係を築いていくことで、教師からいくつかの進学先や、就職先などの情報が手に入れられることもある。

 

 将来の夢を本気で叶えたい人が叶えられる学校。それが鳩船高校の魅力だ。

 ただ俺はたまたま合格しただけだ。


「確か、今からでも授業ってとれるんですよね? 先輩も一緒に受けませんか?」

「受けねぇよ」


 学年が混ざって行う授業ばかりだから誘ってきたのだろう。授業は途中からでも抜けたり、入ったり可能だ。

 そこは、生徒の自主性を大事にする学校の方針だ。


 途中で、思っていたのと違う、あるいは別のやりたいことが見つかった生徒に勉強を強要しても、その子とその周りにも良い影響は与えないからだとか。

 まあ、だからって……俺が何かするわけではない。


「ほんと、先輩って自由気ままですよね」


 藤村は横になった俺をちらと見てきて、


「先輩って誰か友達が欲しいと思ったことはないんですか?」 

「お前は人付き合いに関して何か考えはあるか」

「考え、というのは何ですか? 先輩みたいな変な屁理屈みたいなものですか?」

「人の真面目な思考を屁理屈呼ばわりすな」

「だって、先輩っていっつもあれこれ難癖つけるじゃないですかー」

「いちいち罵倒しないと気がすまないのか? 泣くぞ」

「先輩別に怒らないじゃないですか。ほんとに嫌ならやめますけどね」

「別に俺はまったく気にはしていないから別にいいといえばいいんだが」

「ドMですか? 好き勝手言いますね!」

「ちょっとは遠慮しやがれ」


 藤村がからかうように笑っている。

 彼女は本気で人が嫌がることは言わない。そして、俺が嫌がることってたぶんない。だって、相手の話ほとんど聞いてないし。


「ま、さっきの話に戻すなら俺は友達はどうでもいいな。関係を作る奴ってのは、自分の心を満たしたいからだろ? 俺は一人でいるほうが満ちるからな」

「骨の髄までぼっちなんですね」


 藤村は笑顔を絶やさない。ただ、その笑顔は人様に見せている天使のそれとは違う。

 いたずらっ子の、悪ガキみたいな笑顔だ。


「俺にもちょっとくらい、天使の笑顔ってやつを見せてもらいたいもんだね」

「なんですか、先輩。そんなに私をみたいんですか?」

「誤解される言い方をするな」

「いいじゃないですかぁ、付き合ってるんですから」

「俺も天使の笑顔を向けられるような距離感のままならよかったんだがな」


 そういうと、藤村はぎゅっと俺の腕をつかんできた。 

 いつものようにそれなりに力のこもった一撃。

 彼女はどこか悲しみを含んだ真剣な目を向けてきていた。


「……先輩も、やっぱりあっちのほうがいいですか?」


 そこは触れてはいけない部分だったようだ。


「ああ、まあな」

「……そう、ですか」

 

 そう返事をすると、藤村は露骨に落ち込んだ。

 どうやら、彼女は今の関係を維持したいようだ。藤村も、ずっと仮面をかぶって生活したくはないのかもしれない。


 ……なんだろうか。よくわからんが、藤村の悲しそうな顔を見ているのはなんだか嫌だった。


「冗談だ。どっちでも俺は構わねぇよ。やりやすいようにやってくれ」

「……先輩のバーカ!」


 いたっ! 俺が叩いた倍くらいの威力で返された。

 藤村が眉間を寄せて腕を組む。


「先輩は今の私たちってどう思います? ちょっとは彼氏彼女っぽくなりましたかね?」


 奴隷とご主人様じゃないのか?

 藤村のわがままに付き合わされる奴隷、それが俺。なんと可哀そうなのだろうか。


「彼氏彼女がどんな関係なのかよく知らんからなんとも言えないな」

「先輩的にはどうですか? 楽しいですか?」

「……騒がしい?」

「確かに。先輩いつもぐちぐちうるさいですもんね」


 おまえだぞ?

 チャイムが鳴り響く。スマホを見ると、もう昼休みが終わりそうだった。……俺の睡眠時間が。


「そろそろ昼休みが終わるけど、おまえどうするんだ?」

「授業がありますので、これで失礼しますね」

「ま、頑張れよ」

「あっ、先輩。明日か明後日デート行きますからね」

「好きな人できたのか?」

「先輩とですよ?」

「俺が予定入れていたらどうするんだ?」

「入れてるんですか?」

「よ、予定が入る予定だ」

「よかったですね、デートの予定が入りましたよ」


 ……ほぼ強制的に俺の休日が決まってしまった。

 

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