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第十九話 図書室


 図書室の個室。そこはカップルたちがよく利用しているといわれる勉強部屋だ。

 ただ、外から中を見ることはできないような造りになっている。隣の部屋の奴らがいちゃついてても見えないのだ。

 だから俺は隣の壁に耳を当ててみた。


「何やってるんですか先輩」

「いや、ほら。ここってマジックミラーで外から中が見えないようになってるだろ?」


 図書室側につながる扉には、小窓があるがそこはマジックミラーとなっている。


「なってますね」

「外から中を見ることはできない。なら、内側から攻めるしかあるまい?」

「攻める必要なんてまったくないじゃないですか」

「暴いてほら、あとでこうなんだ。ゆするのに使えないか?」

「最低ですね。ていうか、先輩……私たちもいまそういうふうに見られてるんじゃないですか?」

「なんでだ?」

「ほら、一応付き合ってるじゃないですか」


 他人から見たらそうかもしれないがな。

 

「俺たちは別に何もないだろ」

「そうですね」


 そういうと彼女は少しだけむっとしたような顔をする。こいつ、自分に魅力があることを理解しているからな。正直に否定されると気に食わないんだろう。


 けど、そういうものなのだろうか? どうでもいい相手が興味ないといっているのだから、そのまま終わりでいいのでは? 

 ナルシストの場合は違うのかもしれない。


「怒ってます?」

「怒ってないですけど?」


 いや怒ってんじゃん。最近藤村がよーわからん。

 藤村は備え付けられた椅子に腰かける。俺もその隣に座った。


 壁に貼り付けるように設置された机にはパソコンもある。調べ学習も可能というわけだ。

 椅子は2つのみ、まさに男女で肩を並べて勉強するにはぴったりだ。天才の育成をする学校としては、やはり学生同士で結婚してもらいたいのかもしれない。向上心のある生徒同士でくっつけば、その子どももきっと優秀だからな。


 勉強の準備をしている藤村を見ながら思うのは、部屋が狭いということだ。

 ここの存在自体は知っていたが、俺は一度も使ったことがない。一人でも使用できるのだが、わざわざ図書室にこもって勉強するような真面目さは持ち合わせていない。


 図書室自体はよく来るんだけどな。

 昼寝とかでだ。昼休み、トイレから戻ってきたら俺の席がリア充グループに占領されていることとかあったからな。

 仕方なく、図書室に来るというわけだ。


「やっぱり、この学校の施設っていいですよね」

「そりゃあな。天才を造りだすために、金かけてんだからな」

「先輩ってここ借りたことないですよね?」

「なぜ知っている」

「いや、だってここってだいたいカップルで借りるじゃないですかぁ。先輩今までにいないですよね、そういう相手」

「笑顔で言うな」

「もったいないですね。でも、よかったじゃないですか先輩。かわいい彼女ができたおかげで、いつもなら絶対できないこともできるようになったんですからっ!」


 いや一人でも借りられるっての。


「おかげで、放課後という貴重な時間を失っているんだが?」

「そこはそこですよ。犠牲としては安いもんじゃないですか」

「はあ……ったく」


 彼氏アピールの一環なんだろ? ま、別にいいけどな。どうせやることなんて、部屋にいてもたいして変わらない。

 俺はパソコンの電源をつけながら、スマホを取り出す。

 

「先輩、勉強しにきたんですけど」

「別にパソコンでできることなんてネットサーフィンくらいだ。わからないところは調べてやるぜ? 古文の訳とか、ネットで調べるぜ?」

「今日は数学ですから」


 藤村はプリントを取り出し、問題を解き始めた。

 数学か。公式使って計算するだけの問題だけだ。どうしてそのような公式になるかは知らんが、公式はすべて丸暗記しているから教えられないこともない。


「そういえば先輩って勉強できるんですか? できるんだったら教えて欲しいんですけど」


 でも教えない。 

 決して意地悪ではない。勉強は自分で考えてこそだからだっ。


「全教科平均点位ならな」

「平均点ですか……けど結構とれてるほうですよね」


 確かにな。

 全教科平均点を取るのが今の俺の夢といっても過言ではない。それ以上を目指すつもりはない。


 点数のいい奴らが平均をあげているわけで、平均点さえとれれば真ん中よりも上の順位になるからだ。


「日夜平均点をとるために頑張っているわけだ」

「……なんていうか。もう少し上の点数をとれるように勉強とかしようとは思わないんですか?」

「そこまでするのは面倒だ」

「先輩らしいですね」


 くすと藤村が笑った。ほどほどに頑張るが俺のモットーである。

 藤村が取り出した課題のプリントを解いていく。確かに、いくつかは俺でもとけそうな問題だ。

 藤村のためにならないから教えないが。眉間を八の字にして、悩む藤村をあざ笑いながら、俺も課題を取りだす。


「先輩」

「静かに勉強できないのか?」

「教えてくださいよー」

「俺に教えられるもんなんて大してないぞ。教えてほしかったら浅沼を呼んできたほうがいいぞ」

「浅沼先輩に迷惑はかけられませんから」

「俺ならいいのか?」

「はい」

「泣いていいか?」

「泣きながら教えられるのなら」


 ひどい奴だ。

 さすがに答えを教えるのはアレなので、つまずいている場所をかいつまんで説明してやる。

 すると、藤村は目を見開いた。


「……先輩、結構頭いいんですね」

「当たり前だろ。それ以上聞きたかったら浅沼にでも聞いてくれ」

「……浅沼先輩の名前ばっかり出しますね」

「あいつのほうが頭いいし」

「今、一緒にいる相手の名前は誰ですか?」

「藤村」

「先輩。私のことは名前で呼ぶように言いませんでした?」

「人前では呼んでるだろ」

「普段から呼んでください」

「えー、なんで?」

「別になんでもいいですから」


 なにをこいつムキになってるんだ? 藤村が露骨に変わったのは、浅沼と出会ってからだ。

 浅沼に多少の嫉妬を覚えている、というのはなんとなくわかっている。

 だが、それはあくまで多少、だと思っていたんだが――。


 改めて藤村を見る。凄い不服そうに頬を膨らませている。

 ……もしかして、多少じゃない?


「藤村さん、ちょっといいですか?」

「……」


 なぜか無視された。ただ、未だにこちらを睨んでいる。


「……夏樹?」

「なんですか?」

「……藤村?」

「……」


 名前で呼べということらしい。


「夏樹、おまえ浅沼に嫉妬してんのか?」

「……はぁぁあ!?」

 

 藤村は顔を真っ赤になって、それから首をぶんぶんと振り回した。


「ち、ちが……っ! そ、そういうのじゃないですよ! なに言ってるんですか先輩は!」

「なんだ、違ったのか? まあ、ならあんまり浅沼に強く当たるなよ?」


 これ以上、コミュニケーションが苦手になったらかわいそうだからな。

 藤村はしばらく考えるように手元のプリントを見つめていた。


「……優しいですよね、浅沼先輩に対してはっ」

「基本誰にでも優しいだろ?」

「そ、それは――あれ? 案外そうかも?」

「だろ?」


 まさか同意されるとは思わなかったが、調子に乗ってみた。


「うわ、殴りたくなるほどのドヤ顔……。ですけど、確かにそうですよね。私にも面倒くさがりながらも付き合ってくれてますし……」

「そうだそうだ。ま、なんだかんだ楽しんでいる部分もあるからな。ほら、さっさと勉強終わらせて帰ろうぜ」

「……そうですね」


 そういうと、少し藤村の機嫌がよくなった。今日の藤村はなんだかおかしいな。

 俺はネットサーフィンしながら、ソシャゲをポチポチいじっていると。


「浅沼先輩、カワイイですか?」

「カワイイんじゃないか?」

「……」

「なんだ?」

「私はどうですか?」

「カワイイんじゃないか?」

「……まあ、当然ですよねっ」


 藤村の頬は赤い。

 ……なんだこいつ? そんくらいで顔を赤らめるようなピュアさを持っていたのか?

 俺は彼女の言葉で、第一回カレーパーティーを思い出す。


 そういや、浅沼が可愛いとかなんとか言ったような。あのとき、藤村がちょっと不機嫌になったような――。

 まさかこいつ、それ気にして今日俺を図書室に呼び出したのか!?


 そ、そんなこと気にするような繊細な奴だったのか? ……よくわからんが、指摘したらしたでうるさそうだ。 

 図書室は静かにする場所だ。だから俺は静かにスマホを弄るだけにしてみた。


「先輩、それじゃあ帰りはどこかで食べにいませんか?」

「まあべつにいいが」


 勉強が終わるころには、藤村の機嫌もすっかり治っていた。

 今日わかったのは、藤村の独占欲がかなりのものであるということだな。


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