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第十七話 金閣寺


 寮を出て平坦な道をしばらく歩くと、俺たちが通う鳩船高校が見えてくる。

 その道を特に意識せず歩いていると、だ。


 同じく高校を目指して歩く生徒たちがちらちらとこちらを見てくる。

 背中に張り紙とかはされていないはずだ。


 つまり、単純に注目されているわけだ。

 最近多くなった、と思う。


 昨日、浅沼と一緒にカレー食ったからだろうか? だとしても、顔まで知れ渡ったのには、何か理由があるだろう。


 昨日話した男子生徒とかか? あとは、こう毎日行っていた藤村の活動がようやく実を結んだ、とかだろうか。

 在籍する生徒数が多いうちの高校で、顔が知れ渡るというのはとてつもなく凄いことだ。


 コミュ力のある人だって、さすがに全生徒の顔と名前が一致しないくらいだからな。……まあ、浅沼は記憶力いいし、藤村はなんかわかりそうな気もするんだが。


 俺としてはとても面倒だ。これから話しかけられることも増えるかもしれない。

 ま、仕方ないか。しばらくはこの関係を楽しんでみようじゃないか。


 校門近くまで歩いたところで、俺は藤村と友人たちが歩いている姿を見かけた。

 ちょうど後ろ姿で助かったな。藤村が普段友達とどんな会話をしているのか気になった。


 俺は気配をたち、気づいていないふりをして彼女らの後ろに近づく。そして、聞き耳を立てる。

 ……まるでストーカーのようだ。いやいや、ただ彼女の普段の様子を知りたいだけなんだ。

 仮に、彼女の友人たちに変態と突き出されても、きっと藤村が助けてくれるはずだ。


 ……いや、藤村の場合そのまま突き出しそうな気がしないでもなかった。大丈夫だよな? ダメなときは全力で逃げよう。


「夏樹、本当に付き合ってるなんて思わなかったよ」

「ほんとほんと。遊びだとばっかり思ってた」


 藤村は女子二人と一緒にいた。なんと酷いことを言うのだか。

 そんな彼女たちに、藤村は笑顔を返す。


「えー、酷い」


 本当に思ってるのかこいつは。

 女子二人も笑みを浮かべていた。


「だって、どうみても夏樹と釣り合ってないじゃん。もっと夏樹って上の人狙ってるんだと思ってた」

「そうそう。ほら、夏樹に告白した人たちってもっと良い人いなかった?」


 彼氏バカにされてるぞ! 否定するんだ藤村!


「うーん、そうだけど……」


 認めんな!


「けど、一緒にいてある意味気遣わなくていいしね。やっぱり、今まで告白してきた人たちだとほら、私より上って感じじゃない?」


 俺は同等ではないと?

 なるほど、ペットか何かだと思われているのかもしれない。


「あー、わかる。相手に合わせようとすると大変そうだよねぇ。でも、私もそういう人と付き合ってみたーい」

「夏樹、誰か紹介できないの?」

「いやいや、さすがに私に告白してきた相手を紹介するって難易度高すぎだから」


 藤村がぶんぶんと首を振る。

 俺と藤村が付き合う理由としては妥当なところだよな。

 

 気が合うから、ってぱっと見不釣り合いなカップルの理由でも納得できるものがあるだろう。


「けど、あの……藤村の彼氏、なんだっけ? 金閣寺さんだっけ?」


 誰が世界遺産だ。


「金剛寺先輩ね」

「そうそう。なんか昨日聞いたんだけど、浅沼先輩と一緒にいたって」

「恭介先輩、なんか浅沼先輩と知り合いみたいで。私が『優秀生』について聞きたいってお願いしたら、誘ってくれたんだよね」


 白々しい奴め。仲良くなるように言ってきたのはおまえじゃないか。

 まあ、誘った理由は彼女の言葉そのままだ。うまく、嘘と真実を織り交ぜるな……手慣れた犯行だ。


「……なんで知り合いなんだろう? もう格が違うじゃない? ほら、なんか見た目からぼっちって感じだし」


 見た目でぼっちって判断できるものなのか? オタクっぽい、と言われるのならわからんでもないが。


「あー確かに」


 本当この彼女は良い奴だ。友達の言葉をまったく否定しないんだから!

 俺にはよく突っかかってくるくせによぉ。


「同じクラスの人だから、とかじゃない?」

「そうなのかな? もっと交友関係が広いなら、私に男子紹介してほしかったのに! 前田先輩とか!」

「あー、そういう人は知らないと思うかな? 一応聞いてみるよ」


 今ここで飛び出してそんな知り合いいません、と言ってもよかったんだがな。

 彼氏ということであれこれ聞かれても面倒くさそうなので、やめた。


 俺は彼女らが生徒用玄関を過ぎるのを見送る。あれ以上話を聞いていても、俺の心が傷つくだけだ。ぐすん。


 上履きに履き替え、教室を目指す。俺たち二年生は二階だ。がらりと2-1の扉を開けると、すぐ近くにいた浅沼と目が合った。


「あっ、おはよう金剛寺くん」

「おう、おはよう。昨日は問題なく帰れたか?」

「ええ、そうね。多少、女子寮に戻ってから声をかけられた、くらいかしら」


 ちょっと表情が引きつっていたのは、声をかけられるのが予想外だったようだ。


「そうか。変なこと言われなかったか?」

「い、言われていないわ」

「言われたんだな?」

「……え、ええ少し」


 少し頬を染めていた。あれか、男女の関係でも疑われたのかもしれない。

 

「ま、なんかあったら言ってくれ。力になれるところはなってやる」

「ありがとう」

「まあ、力になれることがそんなにないから、期待はするな」

「そう……。昨日はごめんなさい」

「え、なんだ?」

「い、いえその……ごゆっくりなんて、言ってしまって。……不快な思いをさせてしまったのでは、と部屋に戻ってからずっと悩んでいて」


 ……そんなこと言っていたか? 記憶を掘り返してみる。おお、確かに言っていたな。

 あれは帰るときだったな。浅沼は大変申し訳なさそうであった。

 

「そんな言葉の一つ一つ気にするほど繊細じゃないからな俺たち。気にしなくても大丈夫だ」

「そ、そうかしら? それなら、よかったわ」


 ほっとしたように息を吐いて彼女は席についた。

 席につこうとしたら、周囲が俺に注目していた。


 俺の溢れんばかりのオーラに、というわけではないようだ。

 藤村だけではなく浅沼とも話しているんだからな。それに、浅沼は基本自分から声をかけることがない。


 それがわざわざ声をかけたのだから、驚くか。

 まあ、もうこれ以上話すこともないからな。あとは平和に一日が過ぎるのを待つだけだ。


 そう思っていた時だった。俺の前に五塚ちさとが座った。

 我がクラスのもう一人の『優秀生』だ。茶髪で、少し制服を着崩しているその姿は、わかりやすく言えばギャルっぽい奴だ。


「ねぇ、確か金閣寺だったっけ?」


 あれ、俺金閣寺だったっけ? 生徒手帳を見る。いや、俺は金剛寺。


「金剛寺だ」

「まあ、どっちでもいんだけど」


 よくねぇよ。まるで別物だからな。

 彼女は気だるそうにこちらに視線をやってきた。


「ねぇ、あんた……藤村と付き合ってるんだって?」

「ああ、そうだが」

「ふーん。なるほどね」


 こちらを疑うように見てきた。まさか、俺たちが嘘で付き合っているのがばれたか? 

 俺は出来る限り澄ました態度で彼女の視線に答える。


 五塚は何かを探るように見ている。五塚の友人たちも近くにいた。

 五塚の友人たちは、多少の不満を抱えている様子だった。


 五塚はどうなんだろう。ちょっとよくわからない。さして、興味なさそうである。


「付き合っているが、それがどうしたんだ?」

「別に。みんな、いこ」


 一方的に聞いてそれはないんじゃないかね? 

 すでに五塚は友人たちを連れ、教室を出ていった。五塚と友人たち。目的が違うように感じた。


 ……五塚の目的は、俺が付き合っているのかどうか。その情報を引き出したい様子だった。

 じゃあ、周りの女子たちはなんだ? 未だにどこか気に食わなさそうな雰囲気がある。


 藤村が言っていたモテすぎて、女子に嫉妬されるというのが、五塚の友人たちにも適応されているように感じた。

 五塚が代表して聞いてきた、といったところか?


 何か他に情報が得られないかと耳を澄ますと、


「……あいつが、藤村さんとつきあっているっていう」

「らしいぜ。なんであんな冴えない奴が……」

「おまけに、浅沼さんと、今五塚さんにも声をかけられたぞ?」

「一体、あいつは何者なんだ……?」


 ぼそぼそと、クラスメートが呟いている。

 ある意味、藤村の思い通りってか。


 浅沼と五塚は敵対関係にあるといっても過言ではない。

 ただ、クラス全体の動きについては、浅沼は俺よりも情報を持っているだろう。


 自分の身を守るためにも、何かないかあとで聞いてみようか。

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