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第十四話 カレー



 俺がこの場に2人を誘ったのは単なる好奇心だ。

 ただ、現在猛烈に後悔中。理由は簡単、周囲の目が痛いからだ。

 

 男子寮、二階にある俺の部屋を目指していたのだが、それはもう周りからみられる。

 切れ味抜群の視線で、男子生徒たちがこちらを見てくる。

 

 隣を歩く浅沼は少し緊張している様子だ。男子の巣窟に来ているんだから当然か。

 藤村は満足げである。結果を見れば、俺が注目されることになり、藤村と俺の関係もより伝わるってわけだからな。


「……あれが、金剛寺って、奴か」

「初めてみたが、なんであんな奴が浅沼さんと藤村さんを引き連れているんだ?」

「ま、まさか……二人と付き合っているのか!?」


 藤村はそんな会話が聞こえ、少しばかり表情を険しくする。

 ……まあ、藤村としてはその発想は行き過ぎというところか。


「恭介先輩、早く行きましょう」


 藤村がアピールするように俺の腕に抱きついてくる。

 そうして、俺は自分の部屋にたどり着き――二人のジト目にさらされることになる。


「凄い部屋ね」

「……先輩、ゴミ増えてません?」

「どっかの誰かさんがお菓子を買ったせいでな!」

「勝手に食べた先輩が原因ですね」


 ごもっともで。


「ゴミ自体はまとめてあるし、捨ててくるわ。二人は先にカレーを作って俺の帰りを待っててくれ」

「できるまで外にいるつもりですか?」

「そんなことないです」


 作るのが面倒だから二人に任せようと思ったのだが、藤村はあっさりと見抜いてきやがった。

 

「まあ、いいですか。料理できない人がいても邪魔ですから」

「何を馬鹿にするなよ。野菜洗ったり、食器、洗ったりくらいはできるぞ!」

「出番は食後ですね」

「そうね。それじゃあ、藤村さん。作りましょうか」


 とりあえず、玄関近くのゴミを廊下に引っ張りだす。ゴミ袋は合計6つ。少ないな。まだ二か月くらいしかゴミをためていなかったしこんなもんか。


 二人が部屋に入り、俺は外廊下に並べたゴミ袋を睨む。ゴミ捨て場は寮の入り口――つまりは一階にある。

 毎日登校時に捨てていれば、こんなに溜まることはないのだが、そこは怠け者代表の俺だ。そんなマメなことするはずもない。


 廊下にいた男子生徒たちの視線は相変わらずだ。

 二人が部屋に入っていったところまで、ばっちりとみて、取り出したスマホを慌てた様子でいじっている。

 友達に報告とか、トイッターで呟いていたりしてんだろうな。


 まあ、学校内のアイドルのような二人が地味ぃな俺と一緒にいるんだから、そりゃあ気になるってもんか。

 

 この外廊下から、階下にゴミ袋をすべて投げ捨て、下で回収すれば滅茶苦茶楽ではなかろうか?

 ゴミ袋が破け、中身が出てくる可能性もあるが、賭ける価値は十分あるだろう。


「……おい、おまえ。金剛寺、でいいんだよな?」


 首を傾げるように、一人の男子生徒が声をかけてきた。

 二人組の男子生徒、どちらかといえば地味めな容姿だ。


 それにしても、まさか苗字で呼ばれるとは。

 これもリア充力があがってしまったからなのかもしれないな。


「なんだ?」

「お、おまえ……あの二人と一体どういう関係なんだ?」

「あー、なるほどな……それが気になるってわけか」


 俺はにやりと口元を緩める。

 彼らは何やら突飛な考えでもしているようで、表情を二転三転させる。

 別にただの友人でしかないのだが、今の彼らにその発想はないのだろう。

 

 だからこそ、利用価値がある。


「教えてほしかったら、ゴミ袋運びを手伝ってくれるか?」

「え? お、おう……そんくらいは」


 二人が両手にゴミ袋を持つ。


「二個余ってんぞ」

「その二個はおまえが持てるだろ!?」

「えっ?」

「なんだその『え、俺が持つの?』みたいな顔は!」

「え、俺が持つの?」

「そのまんま返してくるんじゃない! ほら、さっさと運ぼうぜ!」

「まったく……わかったわかった」

「なにその、仕方なく手伝ってやる、みたいな雰囲気は……」


 不服そうであるが、彼らは一緒にゴミ捨て場まで運んでくれた。


「……おまえ、あのゴミずっと部屋に置いていたのか?」

「まあな」

「もっとこまめに捨てろよな……それで?」

「ああ、手伝ってくれてありがとな。また今度頼むわ」

「次がないように、ちゃんと捨てろよなーたくよぉー」


 それじゃ、と手を挙げたところで、彼が首を振った。


「じゃねぇよ! 浅沼さんたちとの関係は!?」

「なんだ、そんなことか? 浅沼とはただの友人、夏樹とは付き合っている。それがなんだ?」

「ふ、藤村さんと本当に付き合ってるのか……よ。な、なんでおまえみたいな地味な奴が!」

「案外そういう地味な奴が好きだったのかもな」

「オレだっておまえに負けないくらい地味だぞ!」

「それ何の自慢にもならないが?」

「う、うるせぇ! おまえだけずるいぞ!」

「まあ、たまたま運が良かったんだろ。お前らもきっとそのうち会えるさ。からかってて楽しいしな」

「うるせー!」


 二人はべーと舌を出して寮へと走っていった。

 うむ、いいやつらだな。

 ゴミ袋を片付けるという大仕事を終えた俺は、そのまま部屋に戻る。

 おっ、野菜たちが煮えた香りが部屋に充満していた。これは空腹を刺激されるな。


「もうできるのか?」

「あとはルーをいれればできますが……先輩、大問題です」

「なんだ? まさか、ルーを買い忘れたなんてそんなボケをかましたのか? 馬鹿だなぁ」

「先輩って自分の家に皿を買った記憶はありますか?」

「ございません」

「はい、大問題です」

「……浅沼、確か百均が近くにあったな? 買ってきてくれるか?」

「え、私?」

「先輩、行ってきてくださいね」

「……うへぇ、面倒くせぇ」

「いいから行ってきてください。なんで、きちんとした鍋とかとても一人暮らしで使わないようなサイズの炊飯器とかはあるのに、皿が一切ないんですか!」

「いや、一人暮らしの豆知識、みたいなので、料理は鍋のまま食べれば洗う食器が減るとかあってな。炊飯器は、一度にたくさん炊いて冷凍にしておけば便利だって聞いたからな」

「そうですか。それで、炊飯器を使ったことは? 鍋を使ったことは?」

「ゼロだな」

「素晴らしい知識ですね」

「ありがと、照れちゃう」

「行ってきてください」

「……はい」


 仕方ない。皿以外も色々買ってこないといけないだろう。一応誘ったのは俺だしな。

 皿とか紙コップとか買って戻ってきたら、カレーのいい匂いが部屋に充満していた。


「先輩、やっと戻ってきたんですね」


 二人はリビングでくつろいでいやがった。


「ほら、買ってきてやったよ」

「はい、ありがとうございます。って、なんで箸ですか!」


 現れた割りばしたちを見て、藤村が声を荒げた。

 その反応を見るためだけに割りばしを買ってきてよかったぜ。


「ちゃんとスプーンも買ってきてるって。さすがにそこまで馬鹿じゃねぇよ」


 プラスチックのスプーンも一緒に購入してきている。

 

「はぁ……まったく。先輩だから本気で買ってきたのかと思いましたよ」

「そんなわけないだろ」


 とりあえず、カレーは出来上がり、あとはご飯が炊けるのを待つだけのようだ。

 リビングのテレビをつけ、三人でしばらく見ていた。


「あっ、このCMに出てる人、先輩に似てますね」

「まあ、俺も芸能人並のオーラがあるしな」

「いえ違います。こっちの後ろにいるエキストラの人です」

「そんなわけないだろ」

「似てます。この猫背っぷり、完璧です」


 楽しそうに藤村が笑い、それを見ていた浅沼が表情を緩めた。


「藤村さん、そういう風にも笑えるのね」

「……え?」


 それに驚いたように藤村が反応した。

 まさか、浅沼気づいたのか?

 藤村の裏の顔に。


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