家族
森から帰って何食わぬ顔で畑に戻り、仕事をしているふりをする。
今日の仕事が終わってから歌いに行ったからほとんどやる事は終わっているのだ。
少し明日の仕事までしたら、家に戻る。
「ただいまー!」
「まり、おかえり!畑の調子はどうかい?」
「今日もいくつかとれましたよ〜!」
と言いながらカゴの中の野菜を見せる。
「おや!色艶ばっちりだね!いつもありがとうね!」
「いえ!こちらこそいつも美味しいごはんありがとうございます!」
「ありがとうってまりもいつも手伝ってくれてるじゃないか!」
「私は切ったり洗ったりできることをしているだけなので… 大したことしてないですよ」
なんてナンシーさんと話しながらとれた野菜をいつもの所に置き、ごはんの下準備していく。
最近はご飯の作り方を教えてもらっているのだ。
知らない食材の扱い方を教えてもらいつつ、知らない料理を作るから楽しい。
お母さんともこんな風に料理していたな〜と思い出して、少し鼻の奥がツンとする事もあるけど気付かないふりをしながら生活している。
ナンシーさんたちと暮らすことが日常になりつつある。日本にいた頃の記憶が薄れてきている自分が怖い。
戻りたくても戻れないから仕方がない。
そう自分にいつも言い聞かせている。
今日は歌が歌えたからかいつもより少し心が軽い。いつか帰れるよ、と何度も心の中で唱えながら無心で準備をしていく。
「「ただいまー」」
ゴートンさんとジークも帰ってきた。
「2人ともおかえりー!もうすぐごはんできるから木屑を落として、服を着替えてきなー」
2人とも木屑がたくさんついている。おそらく、木材から家材の切り出しをしていたのだろう。
こちらの世界では電動ノコギリなんてないから全部、手でやっている。そのため、結構な重労働だ。
「お腹ぺこぺこー」
ジークも少し疲れた顔をしながら、お腹をさすっているを
「あ、そーいえば!まり!!
「んー?」
「村にすごい行商がくるらしいぜ!!」
「すごい行商?」
「おう!なんでも珍しい動物たちを思い通りにできる芸とか、同じ人間とは思えないような芸をするらしい!!」
「へー!!そんなのあるんだ!」
日本で言うサーカスみたいなのだろうか。
ちょっと見てたい。
「2人で行っておいでよ!そんな珍しい行商なんて次、いつ来るかわからないんだから!」
ありがたいことに、ナンシーさんがそう言ってくれた。
「いいんですか…?」
お世話になっている身だ、置かせてもらってるだけでもありがたいのにそんなのまで行っていいのだろうか…
「行ってこい」
珍しくゴートンさんが会話に入ってきた。
「田舎でやるぐらいだから金額も大したことないだろ。2人分ぐらい大丈夫だ」
「ありがとうございます」
ナンシーさんとゴートンさんに背中を押され、行けることになった。
遠慮をしていたが、正直すごく行ってみたかったから本当に楽しみだ!!
「じゃあ、決まり!!明日から2、3日はステージがあるみたいだから、行く日をまた教えるよ!」
「ありがとうございます!」
ジークは手をひらひらっとさせて奥の部屋に行った。
「ゴートンさん、ナンシーさん!本当にありがとうございます!」
2人に改めてお礼を言い、るんるんでご飯の準備を終わらせる。
「いつもよく働いてくれてるからね〜、たまには息に抜きしないとね」
優しい目でそんなことを言ってくれるナンシーさん、その後ろで深くうなづいてくれてるゴートンさんには感謝しかない。
まるで本当の娘になったみたいだ。