気づき
トントントンーー
物音で目が覚める。
「はぁ…」
周りを見て、昨日の出来事が夢ではないことを改めて思い、思わずため息をつく。
「ナンシーさん、おはようございます」
とりあえず、パジャマのままキッチンに行きナンシーさんに挨拶をする。
「あぁ、まり!おはよう!よく眠れたかい?」
「はい、おかげさまでぐっすりでした!」
ナンシーさんの顔を見て、にっこり笑う。
「それはよかった!今、朝ごはんの準備をしているからもう少し待っててくれ」
「ごはんの準備手伝いますよ」
「それは助かる!ありがとさん!」
「まり!おはよう!遅かったな!」
ジークが額の汗を拭いながら、席に着く。
外で一仕事終えて来たようだ。
「そんなこと言わないの、ごめんね。無神経な息子で」
「いえ、おはようございます。みなさん、朝はいつもこんな時間に?」
「そうだね、夏は暑くて昼間に外作業ができないから朝に粗方してしまうんだ。最近は朝でも暑いから参ってるけどな」
「なるほど」
「まり!今日はご飯を食べたら、村に行ってみようか、みんなにまりの家を聞いてみよう」
「ナンシーさん!ありがとうございます!」
「ほら!朝ごはんだよ!」
少し遅れて、ゴートンさんも合流してみんなで朝ごはんを食べる。
*****
「疲れた〜〜…」
「まり、お疲れさま」
ナンシーさんが苦笑いで水を勧めてくる。
朝ごはんの後、村のみんなに会ってみたが、こちらが質問する前に質問攻めだったのだ。
質問に回答しながら、こちらも質問してみるがみんな「知らない」「わからない」口裏を合わせているかのようにみんな、同じ返答であった。
家の情報が出て一切出て来ず、なんなら滝の場所も分からず…。
「まり!あれ食べてみるかい?」
暗い顔をしていると、ナンシーさんが出店を指して聞いてくる。
「あれはなんですか?」
「え!あれはシプシージュースだよ!」
「シプシージュース…?」
「飲んだ事ないのかい?ちょっと待ってておくれ」
ナンシーさんが出店に向かっていき、しばらくするとコップを一つ持って来た。
「ほら、甘くて子供に人気なジュースだよ!飲んでみな!」
渡されたコップにゆっくり口をつける。
「…!!おいしい!」
爽やかなリンゴのような桃のような味わいで、すごく美味しい!
夢中で飲んでいると、視線を感じて顔を上げてみる。
道ゆく人が、チラチラこちらを見てくるのだ。
???
「くすくす。まりの反応が良すぎて、みんなが気になってるんだよ」
ナンシーさんが笑いながら教えてくれた。
「とりあえず、これを飲み終わったら一度家に帰ろうか」
「わかりました。これすごく美味しいです。ありがとうございます」
*****
家に帰るとナンシーさんは、ゴートンさんの手伝いに行ってしまった。
なんでも、ゴートンさんは家具を作ったり、修理したり、家を作ったりしているのだとか。
そして、ナンシーさんも簡単な作業や細かい部分の彫刻などは手伝っているらしい。
ジークも今、ゴートンさんの元で色々勉強中って事だった。
リビングでぼんやりと思考に浸る。
やはり、村のみんなも異国風で日本をどこにも感じなかった。
そして、村のどこにも車や電車、汽車すらなかった…。
それどころか、移動は徒歩か馬車だという。
考えたくなかったが、ここは日本ではないのかもしれない…。
しかも、地球でもないのかも…。
だって、異国風で日本語を話す国なんて聞いた事ない。
どうしよう…。
何も分からない、家にも帰れない、ひとりぼっち。
「うぅ…ひっく…ひっ…」
*****
散々、泣いた後涙が枯れたのか、ちょっと落ち着いた。
たぶん、目がぱんぱんに腫れていると思う。みんなに心配をかけないように、そっと外に出る。
近くに小川があるからそこで顔を洗おうと思ったのだ。
パシャパシャ
小川が冷たくて気持ちいい。
少し、目の腫れもマシになってることを願う。
あたりを見渡すと、夕陽が沈みつつ小川のせせらぎが聞こえ、ノスタルジックな風景だった。
なんとなく、歌を歌いたくなった。
~♪♪♪~♪♪~
ゆったりとした曲調で、のびやかに歌う。
故郷を思う歌だ。
「ふぅ…」
最後のフレーズを歌い終わり、息を整える。
「パチパチパチ」
後ろから拍手が聞こえた。
びっくりして振り返ると、ゴートンさんがいた。
「歌、すごく上手いな」
「ありがとうございます」
「歌は誰に習ったんだ?」
「お母さんとか、歌の先生に教えてもらってました」
「そうか… 歌を習っていたのか、それはうまいはずだ…」
「あ、すみません、勝手に外に出てしまって」
「大丈夫だ、作業場から外に行くのは見えていたから」
こっそり出たつもりだったが、バレていたみたいだ。ちょっぴり恥ずかしい。
「そろそろ戻ろうか。ナンシーが心配する」
「はい」