表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
99/245

マッサと、二人のけんか

「おや。」


 マッサがじーっと見つめているのに気がついて、フレイオが言った。


「どうなさいました、王子。私の食事風景が、珍しいですか?」


「えっ……ああ……はい。」


 マッサは、正直にうなずいた。


「じろじろ見ちゃって、ごめんなさい。でも、ぼく、火を食べる人なんて、これまで見たことがなかったんです。熱くないんですか?」


「ええ、ちっとも。」


「火って、おいしいんですか?」


「ええ。」


 言って、フレイオは長いスプーンでまたひとすくい、炎をすくって食べた。


「おいしいですよ。時間が経つと、味と香りが少しずつ変わるのも、楽しみのひとつです。」


 言われてみれば、最初は、ピンクとオレンジがまざったような色だった炎が、だんだん、赤と金色に変わってきている。

 マッサが見ているうちに、フレイオはどんどん炎を口に運んでいった。

 やがて、赤と金色だった炎は、しだいに金色だけになり、少しずつ光が弱くなり、ぽっと白い煙をあげて消えた。


「へえ……!」


 マッサは、すっかり感心してしまった。

 色だけじゃなくて、味や香りも変わっていくのか。

 それだと飽きないし、食べていて楽しそうだ。


「ぼくも、ちょっとだけ、味見させてもらってもいいですか?」


 マッサがそう言うと、横で聞いていたガーベラ隊長が、飲んでいたワインを噴き出しそうになって、ゴホゴホと激しく咳き込んだ。


「味見ですって?」


 フレイオは、ルビーみたいに光る目を大きく見開いて、言った。


「いや、それは、やめた方がいいでしょうね。普通の人間が、火を食べたら、口にひどいやけどをしますよ。飲み込んだりすれば、死んでしまうかもしれない。」


「いや、大丈夫です。」


 マッサは、襟元から《守り石》のメダルを引っぱり出して、フレイオに、ちらっと見せた。


「ほら、ぼく、この《守り石》を持ってますから、やけどもしないし、死んじゃったりもしません! 地面の下に住んでる、巨大なドラゴンさんの唾がかかっても、ぼく、大丈夫でしたから。」


「おお……」


 フレイオは、マッサが《守り石》をシャツの下にしまった後も、じっとマッサの胸元を見つめたまま、呟くように言った。


「なるほど。それが、伝説の《守り石》……それを身に着けている者は、怪我も負わず、病気にもかからず、定められた寿命が来るまでは、決して死ぬことがない……」


「そう、それです! だから、大丈夫なんです。ぼく、火がどんな味をしてるのか、すごく知りたいんで、一口だけ、分けてもらってもいいですか?」


「そういうことなら、どうぞ……と、言いたいところですが。」


 フレイオは、困ったように笑って、言った。


「私は《炎食い》ですから、普通の食べ物を食べることはできません。この油を燃やした炎が、私の食べ物なんです。これから、長い旅に出るのですから、今は、この油を、できるかぎり節約しておきたいのですよ。」


「あっ、そういうことですか……無理なこと言って、ごめんなさい。」


「いいえ。」


 マッサが謝って、フレイオも気持ちよくゆるしてくれた、そのときだ。


「何だよ、けちな野郎だなあ!」


 会話を聞いていたディールが、大きな声で言った。

 ディールは、もう、フレイオを目のかたきにしているから、フレイオが言うことには、何でも、文句をつけたくなってしまうらしい。


「ほんの一口じゃねえか。マッサに分けてやれよ。油がなくなったら、そのへんの枝でも落ち葉でも、集めてきて、燃やしゃいいだろ。どうせ、同じ火なんだからよ。」


「ディール!」


 ガーベラ隊長が、小さな声で叱った。

 また、言い合いがはじまりそうだと思ったんだろう。

 でも、フレイオは、言い返さなかった。

 フレイオが何も言わずに、じろっとディールのお皿をにらむと、

 ボッ!


「うおおっ!?」


 急に、ディールの前に置かれたお皿の上に、真っ赤な炎が立ち昇った。


「あぢいッ!? あっちちち!」


 幻じゃない、本当の炎だ。

 そのお皿の上にのっていたディールのパンは、全部、真っ黒焦げの、炭のかたまりになってしまった。

 

「おやおや。」


 フレイオが、せせら笑うように言った。


「どうしました? そんなに驚いたりして。さあ、それを食べればいいじゃないですか。焦げていたって、どうせ同じパンなんですから。」


「この野郎!」


 ディールが怒鳴って飛びかかろうとしたけど、


「馬鹿もの、座れ!」


 とガーベラ隊長が横からディールの肩を引っつかんで、何とか座らせた。


「隊長、離してくださいや! 俺は、あの野郎を一発ぶん殴らなきゃ、気がおさまらねえ!」


「落ち着け、王子と女王陛下の前で、第一、食事中だぞ!? それに、今、余計なことを最初に言ったのはお前だ。黙って座れ!」


「いや、まあ、確かにそうですが……それにしたって!」


「けんかが多い二人ですねえ。」


 タータさんが、四本の手で器用にパンを小さくちぎって口に運びながら、あきれたように言った。


「うん……大丈夫かなあ。」


 マッサは、大きくため息をついた。

《王子と七人の仲間》のうち、今で、五人までが集まったことになる。

 でも、こんな調子で、ほんとに、大丈夫なんだろうか……?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ