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「タカのように速く ヒバリのように高く」

「えっ!?」


 マッサは、びっくりした。


「呪文を唱えたら、空を飛べるんですか!? ……でも、セラックさんも、さっきの女の子も、呪文なんか、唱えてなかったですよ!?」


「心の中で、唱えていたんです。この呪文を唱えれば、絶対に飛べる!」


「でも、でも、……隊長は、飛べなかったんでしょう!?」


「私には、魔法の素質がなかった。だが、あなたにはあるんです! 赤ん坊の頃、飛んでいたのなら、絶対に大丈夫!」


「……さっきから、なにを、ごちゃごちゃ言っておるんじゃ!? もうよいのか!?」


「陛下、あと、ちょっとだけ! ……さあ、王子、時間がありません。私の後に続いて、呪文を繰り返して、覚えてください。いいですね!?」


「う……は、はい!」


「タカのように、速く――」


「た、た、タカのように速く……」


「ヒバリのように、高く――」


「ヒバリのように高く……」


「竜のように、強く――」


「竜のように強く……」


「飛べ! と、唱えれば、あなたは飛べる! 分かりましたね!?」


「えっ、はい、えっ……あれ、何だっけ!? タカのように……」


「そこまで!」


 女王が叫んだ。


「おしゃべりの時間は終わりじゃ。あと、五秒!」


 のそり、のそりと、ソラトビライオンが再び近づきはじめた。


「うわ……うわうわうわ!」


 本当に、食べられる!

 そう思った瞬間、抜けていた腰が、急に元に戻って、マッサは必死に立ち上がり、後ろ向きに下がっていった。


 下がるマッサを、ソラトビライオンは、グルルルルと唸りながら、ゆっくりと追いかけてくる。

 ソラトビライオンが、マッサを逃がさないように、円を描いて回り込んでくるせいで、マッサも、円を描くように、後ろ向きに後ずさる。

 マッサとソラトビライオンが近づいてくると、魔法使いたちは、さっと空中に飛び上がってよけ、どういうことになるかと、見守っていた。


「あと、三秒!」


 マッサは、後ずさりながら、必死に呪文の言葉を思い出そうとしていた。


「た、た、た、タカのように……タカのように……」


 ソラトビライオンの口の端から、だらっと、よだれが垂れるのが見えた。

 膝が、がくがく震えてくる。

 だめだ、怖すぎて、ちゃんと思い出せない!


「王子、落ち着いて!」


 ガーベラ隊長の叫び声が、聞こえた。


「あなたは飛べる! 必ず飛べる! さあ、唱えて! タカのように、速く!」


 ああ、そう、そうだ、そうだった……!


「タカのように、速く――」


 呟いたマッサの背中が、どん! と何かにぶつかった。

 マッサは、いつのまにか、広間の横に開いた、大きな窓のところまで、追い詰められていた。

 ここは、高層ビルのように高い、お城の塔の上だ。

 ここから落ちたら、命はない。


「あと、二秒!」


「ひ、ヒバリのように……高く……」


「あと、一秒!」


 目の前まで来たソラトビライオンが、ぐわああああっと、口を開ける。

 なまぬるい息がかかった。


「竜のように、強く!」


 マッサは、覚悟を決めて、窓枠の上に飛び乗り、


「飛べーっ!!」


 と叫びながら、そこから、飛び出した!


 ひゅーんと、体が、石のように落ちていく。


(ああ……だめだ!)


 ぎゅっと目をつぶって落ちながら、マッサは泣いた。


(やっぱり、だめだった。ぼくは、王子じゃなかったんだ……さよなら、ブルー、隊長、みんな……さよなら、おじいちゃん……! いやだ、いやだ! ぼく、死にたくないよう!)


 耳元で、ひゅーんひゅーんと、風の音がする。

 塔が高すぎて、落ちるのに、時間がかかってるのかな。

 いつ、地面に激突するんだろう。

 すごく痛いのかな。

 どうせなら、一瞬でぺっちゃんこになって、何も感じなかったらいいのに――


 あんまり、時間がかかるから、そうしないほうがいい、と思いながらも、マッサは、片方の目を、薄く開けてしまった。


「……あれ?」


 それから、両方の目を、薄く開けた。


「……あれ、あれ?」


 それから、両方の目を、しっかり、大きく開けた。


「ええええええーっ!?」


 マッサは叫んだ。

 自分の体が、ひゅーんひゅーんと風を切って、まっすぐに向かって、空を飛んでいる!


 まるでロケットみたいな速さで、ぐんぐんと力強く、どこまでも上がっていく。

 魔法だ。

 本当に、ぼくは、魔法を使ったんだ!


「タカのように速く

 ヒバリのように高く

 竜のように強く」


 という、あの呪文のとおりだ。

 もう、お城が、ずっと下のほうで、おもちゃみたいに見える。


「すごい、すごい、すごい! やったあー! ……あれ?」


 ちょっと、待てよ。

 これ、どうやって止まるんだ!?


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