女王、マッサを試す
「ええ、いいですよ!」
なんと、女王は、この《守り石》まで、作り物じゃないかと疑っているらしい。
用心深いことは、大切だけど、さすがに、ここまでくると、用心深いというより、疑い深すぎる。
マッサは、さすがにちょっと嫌な気持ちになりながら、言われた通りに《守り石》を首から外して、女王に向かって、ずいっと突き出した。
「どれだけ、よーく見られても、ぼくは、かまいません。どうぞ、納得がいくまで、よーく見てください。」
すると、その瞬間!
ぐいっと、強く引っ張られるような感覚があったかと思うと、マッサの手から《守り石》が離れて、びゅーんと、女王のところまで、飛んでいってしまった!
目に見えない、魔法の力で、女王が《守り石》を引っ張ったんだ。
女王は、飛んできた《守り石》をつかむと、裏返したり、表に向けたりしながら、じろじろ、眺めはじめた。
「……おいっ!?」
マッサもびっくりしたけど、それ以上に、びっくりして、腹を立てていたのは、ディールだ。
「こら、おい! あんた! 女王だか、何だか知らねえが、さっきから、何様のつもりだっ!? マッサは、あんたに会うために、ここまで、大変な旅をしてきたんだぞ!
マッサだけじゃねえ、俺たちや、俺たちの仲間も、怪我をしたり、色々と苦労して、ここまで来た! それを、何だ、あんたは? 偽物だとか、何だとか、わけのわからねえ文句をつけやがって!
よく見ろ! どうだ、その《守り石》をよく見ろよ! 本物だろ! さっさと、それをマッサに返せ!」
「ディール!」
「ディールさん、落ち着いて!」
さすがに慌てて、隊長と、マッサが、同時にディールを止めた。
怒ってくれる気持ちはありがたいけど、女王に対して、この言い方は、さすがに失礼すぎる。
でも、女王は、別に、怒りだしたりはしなかった。
「ふん!」
と、馬鹿にしたように、言った。
「この《守り石》が、本物であることくらい、わしには、とっくに分かっておったわ。かつて、ずっと身に着けておったものを、見忘れたりするものか。
『返せ』じゃと? ふん! ばかめ。これは、もともとは、わしの持ち物だったのじゃ。わしが、これを娘に与えて、娘は、これを、自分の赤ん坊に与えた。」
「お……おう、そうだろう? だから、その石が本物だってことは、つまり、マッサも、本物なんだよ。簡単なことじゃねえか。」
ディールがそう言い、ブルーも、隊長も、タータさんも、みんながうんうんと頷いた。
でも、女王は、うなずかなかった。
「この《守り石》は、確かに本物じゃ。……じゃが、そこの男の子までが、本物のわしの孫じゃと、どうして言える? のう、男の子よ。」
女王は、鋭い目でマッサをにらんだ。
「おまえは、この《守り石》を、どこで、どうやって手に入れた? 落ちていたのを、拾ったのかえ? それとも、どこかから、盗んできたのかえ?」
「こ、こ、この、ばばあ! 疑い深すぎるのも、いい加減にしやがれ! マッサが、泥棒だって言うのかよっ!?」
とうとうディールが暴れ出し、隊長が、彼を後ろからはがいじめにした。
まわりの魔法使いたちが、女王を守ろうと身構えて、空気が、ざわっと動く。
「おい! マッサ! はっきり説明してやれ! おまえが、いつから、どうやって《守り石》を持ってたのか!」
隊長に止められながら、ディールが叫ぶ。
『マッサ!』
と、ブルーも叫んだ。
――でも、マッサは、すぐには、口を開くことができなかった。
いつから、どうやって、この《守り石》を持っていたのか。
おじいちゃんの家の「あかずの部屋」の、宝箱に入っていたのを見つけたんだ。
それを、気に入ったから、そのまま着けて、こっちの世界に来てしまった。
でも、こっちの世界への入口だった、ふしぎな《穴》は、もう消えてしまって、はっきり見せられる証拠は、何もない……
「ほれ、どうした、どうした。言えぬのか?」
「ぼ、ぼ、ぼくは……」
女王に、意地悪そうに急かされて、マッサは、必死に言った。
「ぼくは……その石を、自分の……おじいちゃんの家の、入っちゃいけない部屋の中で、見つけました! 宝箱に入れて、大事に、しまってありました!」
「ほほーう。」
女王は、ますます意地悪そうに言った。
「そうか、そうか。入ってはいけない部屋にな。……つまり、それは、隠してあったわけじゃ。ということは、おまえの祖父が、《守り石》を盗んできたのかもしれんのう。」
「ぬっ……」
その言葉を聞いた瞬間、さすがのマッサも、怒りで、目の前が真っ赤になった。
「盗んできた、ですって!? 違うっ! おじいちゃんは、めちゃくちゃ怖いけど、めちゃくちゃまじめで、絶対絶対、泥棒なんか、する人じゃないよっ!
あなたなんか、ぼくのおじいちゃんに、会ったこともないくせに! 今の言い方、失礼すぎる! 謝ってよ! 謝れ! ぼくのおじいちゃんに、謝れっ!!」
あんまり怒りすぎて、怒鳴っているうちに、涙まで出てきた。
マッサが、泣きながら怒っていると、
「そうか。」
と、急に、女王が、これまでとは違う静かな声で言った。
いったい何が「そうか。」なのか、マッサには、分からなかった。
もしかしたら、マッサが、真剣に怒ったから、とうとう、信じてくれたんだろうか?
「そこまで、真剣に言うのならば、お前の言うことは、本当なのかもしれんのう。……じゃが、はっきりした証拠がないことには、何事も、信じることはできぬ。」
「しょ……証拠?」
マッサは、いやな予感がした。
「おじいちゃんに会わせろ」とか、「《守り石》を見つけた部屋に案内しろ」とか言われたら、どうしよう?
もう、あの部屋に戻る方法はないのに――
でも、女王が次に言った言葉は、そんなマッサの心配を、遥かに通り越すものだった。
「おまえが、本当にわしの孫であるというのならば、おまえは、わしと、わしの娘の血の血を引いておるはず。すなわち、最高の力を持った魔女たちの血をな。魔法の力は、よくその一族の血によって受け継がれるものじゃ。
少年よ。おまえが、わしの前ですばらしい魔法を使ってみせたなら、わしは、おまえを、わしの孫であると認めよう!」