表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/245

マッサ、うたがわれる

「だれじゃ、おまえは?」


「……えっ?」


 急に、そんな声が聞こえて、マッサは、一瞬、だれに何を言われたのか分からなかった。


「だれじゃ、おまえは。」


 もう一度、同じ声が、同じことを言った。

 マッサは、おそるおそる、顔を上げてみた。

 高い階段の上の、立派な玉座に、髪の白い、背中の曲がった、しわしわの、怖そうなおばあさんが一人、こしかけている。


「だれなんじゃ、おまえは。……おまえ。そう、おまえじゃよ。」


「えっ?」


 おばあさんに指さされて、マッサは、何がなんだか、分からなくなってしまった。


「だれって、だれって……ぼくは……マッサです! ……えっ? あなたは……ぼくの、おばあちゃんじゃ、ないんですか!?」


 まさか、あの人は、おばあちゃんの偽者なのか?

 でも、まわりの大臣たちも、後ろにいる隊長たちも、だれも騒いでいない。

 だから、やっぱり、あれは、本物の女王、ぼくのおばあちゃんのはずだ。

 それなのに、どうして、おばあちゃんは、あんなことを言うんだろう?


「ぼくの、おばあちゃんじゃ、ないんですか、じゃと?」


 玉座に座った女王は、わざと、嫌な感じで、マッサの言葉を真似した。


「そりゃ、わしのほうが聞きたいわい。おまえが、どうして、わしの孫なんじゃ?」


「……えっ!?」


「わしの孫は、十年前の戦争で、死んでしもうたんじゃ。娘や、娘の婿といっしょにのう。それが、今になって、ひょこひょこ出てくるなどということが、あるものかい。」


 ああ、そうか! と、マッサは思った。

 あんな言い方をされて、最初はすごくショックだったけど、よく考えたら、当たり前のことだ。

 十年間も、死んだと思っていた相手が、いきなり出てきたら、そりゃあ、びっくりするし、疑うのが当たり前だ。


「でも、ぼく、本当は、遠くで生きてたんです! ちゃんと、元気です。それで、ここに帰ってきたんです!」


「おまえは、わしを、馬鹿にしておるのかな。」


 女王は、暗い調子で言った。


「わしが、きちんと確かめなかったとでも、思うておるのか? わしは、十年前の戦争が終わったとき、わしの孫や、娘や、婿たちが生きていないか、そこらじゅうを探し回った。

 じゃが、どれほど必死になって探しても、生きているというしるしは、どこにも見つからなかったのじゃ。……のう、そうじゃったな、大臣?」


「はっ……その通りです、女王陛下。」


 えらそうな大臣たちが、かしこまって、頭を下げた。


「ほれ、見い。一度、いなくなったものが、急に出てくるなど、おかしなことじゃ。わしの孫は、十年前の戦争で、死んでしもうたんじゃ。おまえは、きっと、孫の、偽者に違いない。」


「偽者……!?」


『にせものじゃない!』


 ショックを受けたマッサのかわりに、後ろから、叫び出した声があった。

 ブルーだ。

 ブルーは、かんかんに怒って、いつもの二倍くらいの大きさに、ぶわっと毛をふくらませて、叫んだ。


『にせものじゃない! マッサ、にせものじゃない! マッサは、ほんとの、マッサ! にせものじゃないっ!』


「いったい、何じゃ? そこの、うるさいもじゃもじゃは……」


 そう言いかけて、女王は、急に、はっとした。


「いや、待て。その生き物……まさか、イヌネコネズミウサギリスではないか?」


「えっ!?」


 女王が、急に、おかしな長い名前を言ったので、マッサは、思わず、今までの深刻な会話を忘れそうになった。


「すみませんが、今、何て、おっしゃったんですか? イヌ、ネコ……?」


「イヌネコネズミウサギリスじゃ。」


 女王は、すらすらと言って、首を傾げながら、ブルーをじっと見た。


「イヌネコネズミウサギリスは……本来、この城の庭にしか住んでおらぬ、とても珍しい生き物。生まれたばかりの赤ん坊の友だちにと、わしの娘が、同じ赤ん坊のイヌネコネズミウサギリスを、一匹、世話しておった……いや、しかし……」


 信じられないというように、そこまで一人でぶつぶつと言ってから、女王は、はっとしたように、ぶるぶると白髪頭を振った。


「いや、いや、これは、単なる偶然じゃろうな。ひょっとしたら、城の庭から逃げだしたイヌネコネズミウサギリスが、野生になったものかもしれん。」


「いいえ。おそれながら、申し上げます、陛下! 決して、偶然などではありません。」


 マッサとブルーの後ろから、ガーベラ隊長が進み出て、言った。


「私は、ロックウォール砦の翼の騎士団《夜明けのタカ》隊の隊長、ガーベラと申します。私が、マッサファール王子とはじめてお目にかかった時から、このブルーは、王子といっしょにおりました!」


『いっしょ! ぼく、マッサといっしょ!』


 横から、ブルーも、大きな声で言った。


「そして、証拠は、それだけではございません。……さあ、王子。あれを出してください!」


「……ああ!」


 今度は、マッサも、一度で、何のことか分かった。

 マッサは、襟元から《守り石》を引っぱり出し、その緑色の石がよく見えるように、女王に向けてかかげた。


「これを見てください。《守り石》です! これは、代々、魔女の一族が持つものなんでしょう? ぼくは、これを持っています!」


 マッサは、自信をもって、堂々と言った。

 これまで、誰に、どれだけ疑われたときも、《守り石》を出せば、みんなが信じてくれた。

 きっと、女王も――おばあちゃんも、これでやっと、マッサが本物の孫だということを、信じてくれるだろう。


「ふうむ……?」


 女王は、玉座の上で身を乗り出し、目を細くして、《守り石》をじろじろと見た。


「すまぬが、わしは、年寄りで、目が悪くてのう。もうちょっと、近くに……そう、それを、首から外して……もっと、こう、高く持ち上げて、よーく見せてくれぬか。……もしも、よーく見られて、困ることがないというのならばな。」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ