マッサ、入城する
《魔女たちの都》の中の様子は、マッサが噂をきいて想像していたよりも、遥かに立派だった。
家々の壁は真っ白で、色とりどりの屋根が太陽の光に輝いている。
マッサたちが今、踏んで歩いている道は、全面が、宝石みたいなつやつやの石をはめ込んで作られたモザイク模様だ。
その広いまっすぐな道は、ずっと向こうに見えている、白いお城に向かっていた。
「あれが、おばあちゃんが住んでいるお城ですか?」
マッサは、隊長に近づいて、少し大きめのひそひそ声で言った。
声が、少し大きめなのは、魔法使いたちが、マッサたちのまわりで、魔法の音楽を流しながら行進しているからだった。
あたりは、もう、スポーツ選手の優勝パレードみたいになっている。
「そうですよ!」
と、隊長も、少し大きめのひそひそ声で答えた。
「魔女たちの女王は、代々、あの城に住むのです。……おい、セラック! もう、女王陛下に、しらせは届いているんだろうな?」
「もちろんだ!」
空を飛んでいたセラックが、隊長に呼びかけられて、ひゅーんと側まで降りてきた。
「王子さまの《守り石》を見てすぐに、報告のために、仲間をお城へ行かせたからな。今ごろ、お城の中も、大騒ぎになってるぞ!
いや、それにしても、おまえが、王子さまを連れて、この都に戻ってくるとはなあ。俺は、びっくりして、目玉が飛び出すかと思ったぞ! いったい、どうやって、王子さまを探し出したんだ?」
「それは、話せば長くなる。後で、ゆっくりできるときに、詳しく話そう。……それよりも、」
ガーベラ隊長はそう言い、腕を振って、目の前の様子を示した。
「道の混雑が、ものすごいことになってきたが……前をあけて、通してもらえるように、言ってくれないか。」
隊長が言うとおり、マッサたちのまわりには、うわさを聞きつけた街じゅうの人たちが、どんどん押し寄せてきて、大変な人ごみになっていた。
みんな、帰ってきた王子さまの姿を一目見ようと、近づいてくるから、道の上でも、空中でも、人が、ぎゅうぎゅうに詰まって、ものすごいことになっている。
「ああ、分かった! ……おい、みんな、道をあけろ! ちょっと離れて! 王子さまたちに、道をあけろー!」
セラックたちに、ガードされながら、マッサたちは、ゆっくりと道を進んでいく。
『いっぱい! ひとが、いっぱい! こわい!』
ブルーは、あんまり人が多すぎるので、踏んづけられるのがこわくて、マッサの頭の上によじ登ってしまった。
「わあ、見て! 王子さまの頭の上!」
「何、あれ? 大きなねずみ?」
「王子さまの頭の上に、白いもじゃもじゃが乗ってるー!」
空の上に集まって、もりあがっている魔法使いの子供たちに、そんなふうに言われて、
『ねずみじゃない! もじゃもじゃじゃない! ブルー!』
ブルーは、やっぱり、かんかんに怒っていた。
「ほら、ブルー、ここにおいで! だっこしてあげるよ。」
マッサが言うと、ブルーは、マッサの腕の中におりてきて、丸くなって、すぽんとおさまった。
『マッサ!』
「なに?」
『あそこに、マッサのおばあちゃん、いる?』
「あそこって、お城のこと? うん、そうらしいよ! やっと会えるんだ。すごくどきどきするし、楽しみだなあ。」
『おばあちゃんって、なに? おいしいの!?』
ブルーの、そのせりふを、久しぶりに聞いて、マッサは、どたっと倒れそうになった。
「違うよ! おばあちゃんは、食べ物じゃないよ。おばあちゃんっていうのは……おかあさんの、おかあさんのことだよ。」
『おかあさんって、なに? おいしいの!?』
ああ、そうだった。ブルーは、家族がいないから、おかあさんも、おとうさんも、知らないんだった。
「お母さんは、ぼくを生んでくれた人で、おばあちゃんは、そのお母さんを、生んでくれた人だよ。これから、会うから、会ったら、この人がおばあちゃんだよって、教えてあげるね。」
『フフーン。』
と、ブルーは言ったけど、あんまり、分かっているようには見えなかった。
それにしても、いよいよ、本当に、おばあちゃんと会うんだ!
もう、マッサたちの行列は、お城のすぐ下まで来ている。
マッサは、みんなの前に立って演説したときよりも、ずっとずっと緊張してきた。
赤ちゃんの頃には、会っていたのかもしれないけど、全然、覚えていないから、実際には、初めて会うのと同じだ。
おばあちゃんは、どんな人なんだろう。
隊長は、すごく強い力を持った魔女だって言っていたけど……
どんな顔をしているのかな?
ぼくと、ちょっと似ているのかな。
優しい人なのかな?
友だちのおばあちゃんは、友だちが泊まりにいくと、おいしい料理を作ってくれたり、おこづかいをくれたりするって言っていた。
ぼくのおばあちゃんも、そういうことを、してくれるのかな。
いや、それよりも、まず、ぼくと会えて、喜んでくれるかな。
抱きしめてくれたり、頭を撫でてくれたり、するのかな……
「王子さまの、到着!」
急に、パラララーン! と、トランペットみたいな音がして、マッサは、はっと我に返った。
行列は、いつのまにか、お城のすぐ目の前についている。
目の前には、都に入ってくるときにあった門よりも、もっと立派な門が、開いていた。
真っ白なお城は、見上げると首が痛くなって、後ろに引っくり返りそうになるくらい、大きかった。
いくつもの太い塔があり、細い塔があり、空中にかかった橋が、それぞれをつないでいる。
でも、魔法使いたちはみんな、橋を使わずに、飛んで行ったり来たりしていた。
『お帰りなさい、王子さま! マッサファール王子さま、ばんざーい!』
空中の魔法使いたちが、口々に言って、色とりどりの布を振り、魔法の花を振らせて歓迎してくれている。
「お帰りさないませ、王子さま!」
紺色の服を来た、えらそうなおじさんやおばさんたちが、門の内側に、ずらっと並んで、うやうやしく頭を下げた。
きっと、このお城の、大臣たちだ。
「どうぞ、こちらへ。」
大臣たちに案内されて、マッサたちは、いよいよ、お城の中へと踏みこんでいった。