表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/245

マッサ、入城する

《魔女たちの都》の中の様子は、マッサが噂をきいて想像していたよりも、遥かに立派だった。

 家々の壁は真っ白で、色とりどりの屋根が太陽の光に輝いている。

 マッサたちが今、踏んで歩いている道は、全面が、宝石みたいなつやつやの石をはめ込んで作られたモザイク模様だ。

 その広いまっすぐな道は、ずっと向こうに見えている、白いお城に向かっていた。


「あれが、おばあちゃんが住んでいるお城ですか?」


 マッサは、隊長に近づいて、少し大きめのひそひそ声で言った。

 声が、少し大きめなのは、魔法使いたちが、マッサたちのまわりで、魔法の音楽を流しながら行進しているからだった。

 あたりは、もう、スポーツ選手の優勝パレードみたいになっている。


「そうですよ!」


 と、隊長も、少し大きめのひそひそ声で答えた。


「魔女たちの女王は、代々、あの城に住むのです。……おい、セラック! もう、女王陛下に、しらせは届いているんだろうな?」


「もちろんだ!」


 空を飛んでいたセラックが、隊長に呼びかけられて、ひゅーんと側まで降りてきた。


「王子さまの《守り石》を見てすぐに、報告のために、仲間をお城へ行かせたからな。今ごろ、お城の中も、大騒ぎになってるぞ!

 いや、それにしても、おまえが、王子さまを連れて、この都に戻ってくるとはなあ。俺は、びっくりして、目玉が飛び出すかと思ったぞ! いったい、どうやって、王子さまを探し出したんだ?」


「それは、話せば長くなる。後で、ゆっくりできるときに、詳しく話そう。……それよりも、」


 ガーベラ隊長はそう言い、腕を振って、目の前の様子を示した。


「道の混雑が、ものすごいことになってきたが……前をあけて、通してもらえるように、言ってくれないか。」


 隊長が言うとおり、マッサたちのまわりには、うわさを聞きつけた街じゅうの人たちが、どんどん押し寄せてきて、大変な人ごみになっていた。

 みんな、帰ってきた王子さまの姿を一目見ようと、近づいてくるから、道の上でも、空中でも、人が、ぎゅうぎゅうに詰まって、ものすごいことになっている。


「ああ、分かった! ……おい、みんな、道をあけろ! ちょっと離れて! 王子さまたちに、道をあけろー!」


 セラックたちに、ガードされながら、マッサたちは、ゆっくりと道を進んでいく。


『いっぱい! ひとが、いっぱい! こわい!』


 ブルーは、あんまり人が多すぎるので、踏んづけられるのがこわくて、マッサの頭の上によじ登ってしまった。


「わあ、見て! 王子さまの頭の上!」


「何、あれ? 大きなねずみ?」


「王子さまの頭の上に、白いもじゃもじゃが乗ってるー!」


 空の上に集まって、もりあがっている魔法使いの子供たちに、そんなふうに言われて、


『ねずみじゃない! もじゃもじゃじゃない! ブルー!』


 ブルーは、やっぱり、かんかんに怒っていた。


「ほら、ブルー、ここにおいで! だっこしてあげるよ。」


 マッサが言うと、ブルーは、マッサの腕の中におりてきて、丸くなって、すぽんとおさまった。


『マッサ!』


「なに?」


『あそこに、マッサのおばあちゃん、いる?』


「あそこって、お城のこと? うん、そうらしいよ! やっと会えるんだ。すごくどきどきするし、楽しみだなあ。」


『おばあちゃんって、なに? おいしいの!?』


 ブルーの、そのせりふを、久しぶりに聞いて、マッサは、どたっと倒れそうになった。


「違うよ! おばあちゃんは、食べ物じゃないよ。おばあちゃんっていうのは……おかあさんの、おかあさんのことだよ。」


『おかあさんって、なに? おいしいの!?』


 ああ、そうだった。ブルーは、家族がいないから、おかあさんも、おとうさんも、知らないんだった。


「お母さんは、ぼくを生んでくれた人で、おばあちゃんは、そのお母さんを、生んでくれた人だよ。これから、会うから、会ったら、この人がおばあちゃんだよって、教えてあげるね。」


『フフーン。』


 と、ブルーは言ったけど、あんまり、分かっているようには見えなかった。


 それにしても、いよいよ、本当に、おばあちゃんと会うんだ!

 もう、マッサたちの行列は、お城のすぐ下まで来ている。

 マッサは、みんなの前に立って演説したときよりも、ずっとずっと緊張してきた。

 赤ちゃんの頃には、会っていたのかもしれないけど、全然、覚えていないから、実際には、初めて会うのと同じだ。


 おばあちゃんは、どんな人なんだろう。

 隊長は、すごく強い力を持った魔女だって言っていたけど……

 どんな顔をしているのかな?

 ぼくと、ちょっと似ているのかな。

 優しい人なのかな?

 友だちのおばあちゃんは、友だちが泊まりにいくと、おいしい料理を作ってくれたり、おこづかいをくれたりするって言っていた。

 ぼくのおばあちゃんも、そういうことを、してくれるのかな。

 いや、それよりも、まず、ぼくと会えて、喜んでくれるかな。

 抱きしめてくれたり、頭を撫でてくれたり、するのかな……


「王子さまの、到着!」


 急に、パラララーン! と、トランペットみたいな音がして、マッサは、はっと我に返った。

 行列は、いつのまにか、お城のすぐ目の前についている。


 目の前には、都に入ってくるときにあった門よりも、もっと立派な門が、開いていた。

 真っ白なお城は、見上げると首が痛くなって、後ろに引っくり返りそうになるくらい、大きかった。

 いくつもの太い塔があり、細い塔があり、空中にかかった橋が、それぞれをつないでいる。

 でも、魔法使いたちはみんな、橋を使わずに、飛んで行ったり来たりしていた。


『お帰りなさい、王子さま! マッサファール王子さま、ばんざーい!』


 空中の魔法使いたちが、口々に言って、色とりどりの布を振り、魔法の花を振らせて歓迎してくれている。


「お帰りさないませ、王子さま!」


 紺色の服を来た、えらそうなおじさんやおばさんたちが、門の内側に、ずらっと並んで、うやうやしく頭を下げた。

 きっと、このお城の、大臣たちだ。


「どうぞ、こちらへ。」


 大臣たちに案内されて、マッサたちは、いよいよ、お城の中へと踏みこんでいった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ