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マッサ、《魔女たちの都》へ

「よし、できました! どうぞ、上がってきてください!」


 天井の割れ目から、タータさんが、顔を逆さまに突き出して、言った。


「おい、それよりも、先に、上の様子を教えてくれよ。」


 ディールが、知りたくてうずうずした様子で言った。


「《魔女たちの都》は、そこから見えてるんだな?」


「ええ、ええ、見えています。すぐ、近くですよ!」


 タータさんの返事を聞いて、マッサも、仲間たちも、やった! と顔を見合わせた。

 ドラゴンの道案内も、モグさんの道案内も、ばっちり、あっていたんだ。


「おい、《魔女たちの都》は、どんなふうなんだ!? もう見えてるんだろ? 教えろよ!」


「すっごいですよ。」


 割れ目から顔を出したタータさんは、いたずらっ子みたいに、ふふふと笑った。


「もう、本当に、すっごいです。すばらしい景色です! 言葉では、とても説明できない。みなさん、はやく上がってきて、自分の目で、確かめたほうがいいですよ!」


 そう言われると、ますます気になってくる。

 話し合った結果、まずは、マッサが登ることになった。


 荷物は、いったん地面に置いておいて、後から、残った人たちがロープに結び付けて、引き上げることにする。

 マッサは、岩の階段登りでパンパンになった足と、両手を、何とか動かして、いっしょうけんめい、揺れるロープをよじ登っていった。


「がんばれ、がんばれ! あと少しです。さあ、片手で、ロープをしっかり握って、もう片方の手を、こっちへ伸ばして……よし! つかまえた!」


 タータさんの手が、マッサが伸ばした腕をがっちりと握り、畑から大根でも引っこ抜くみたいに、すぽん! と、マッサの体を、割れ目から地上に引き出してくれた。


「うわっ、まぶしい!」


 マッサは、モグさんみたいに、片手で目を押さえて叫んだ。

 地上は、真昼で、明るい太陽の光が照りつけていた。

 これまで、地下で、ほんの少しの明かりで歩くことに慣れていたせいで、普通ならなんでもない太陽の光が、ものすごくまぶしく感じる。


 だんだん、目が慣れてくると、マッサは、指のすきまから、そーっとあたりを見回してみた。

 ……あれ?

 見えるのは、小川が流れ、色とりどりの花が咲き乱れる、広々とした草原だけだ。

《魔女たちの都》らしきものなんて、どこにも――


「マッサ、こっちですよ。」


 ぽんぽん、と、タータさんに肩を叩かれて、マッサが、振り返ってみると――


「うわあああああ!」


 マッサは、目と口を、両方とも全開にして、叫んだ。


『なに、なに、なに? マッサ、なに!?』


 と、まだ地下にいるブルーが叫んでいたけど、今のマッサの耳には、そのブルーの声すらも、入ってこなかった。


 四階建てのビルくらいありそうな、高い壁が、すぐそばにそそり立っている。

 雪のように輝く、白い石の壁だ。

 それが、右にも、左にも、ずーっと続いている。


 よく見ると、その壁は、ただのつるつるの真っ白じゃなかった。

 表面に、美しい植物や、鳥や、動物の絵が彫られていて、細い細い金の線が、絵のなかに埋め込まれて、きらきら光っている。

 動物たちや鳥たちの目や、植物の花や実にあたるところには、いろんな色の宝石が埋め込まれて、夢みたいな輝きを放っている。

 ものすごく長く、高い壁の全面が、そうやって、最高の細工で飾られているんだ。


 壁が高すぎて、中の、街の様子は、全然見えない。

 でも、外側の壁が、これだけすごいのだから、中の街は、きっと、もっとすごいに違いない。


「すごい、すごい、すごいよ! まるで、魔法の都だ!」


「その通りです。」


 いつのまにか、ブルーを肩に乗せてロープを登ってきていたガーベラ隊長が、誇らしげに言った。


「ここが《魔女たちの都》。最高の魔法の力を持つ者たちが、集まって暮らしています。十年前の戦争のときにも、大魔王の軍勢は、この都に傷をつけることはできなかった。……王子、あなたのおばあさまが、他の魔法使いたちとともに、大魔王の軍勢を追い返したのです。」


「じゃあ、ぼくのおばあさんは、この、すっごい都の中に、今も住んでるんですね?」


「ええ、そのはずです。女王は、いつもこの都の中にいて、その魔法の力で、人々を守っていますから。」


「じゃあ、さっそく、今すぐ、会いにいきましょう!」


 マッサは、すっかり嬉しくなって叫んだ。

 とうとう、自分のおばあちゃんに、初めて会うことができるんだ!


「しかし、どこに、入口があるのだろう? 見わたすかぎり、門らしいものは、どこにも見えない。」


《三日月コウモリ》隊の隊長が、まぶしそうに、目の上に片手をかざしながら、首をかしげた。


「都の入口は、こっちだ。みんな、そろっているな? さあ、荷物を担いで……出発しよう!」


 ガーベラ隊長を先頭に、仲間たちは、都の壁にそって歩きはじめた。


「ねえ、ブルー。」


 背負ったリュックサックの上に、元通り、ちょこんと乗っているブルーに、マッサは、こっそり話しかけた。


『マッサ、なに?』


「ガーベラ隊長は、前にも、この都に来たことがあるのかな?」


『まえにも? きた?』


「うん。だって、隊長は、都の入口がこっちにあるって、知ってただろ? それに、ほら、見て。」


 マッサは、ガーベラ隊長の背中を、そっと指差した。

 他のみんなは、歩きながら、しょっちゅう壁のほうを見て、その見事な細工にいちいち感動している。

 でも、ガーベラ隊長だけは、何でもなさそうに、前を向いて、すたすた歩き続けていた。


「ほらね。隊長の様子、何だか、こんな景色、見慣れてる……って感じに見えない? だから、隊長は、前にここに来たことがあるのかもしれないって、思ったんだ。」


『じゃあ、きたことある? って、きいたらいい!』


 ブルーがそう言って、マッサは、なるほどと思った。

 分からないことがあったら、何でも、まずは質問してみるのが一番だ。

 そう決めて、マッサが、呼びかけようとしたとき、


「ここだ。都の門に着いたぞ!」


 ガーベラ隊長が、急にそう叫び、みんなは、驚いて立ち止まった。



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