マッサたち、運ばれる
結局、全員がドラゴンの尻尾に乗せてもらって、《魔女たちの都》まで、送ってもらうことになった。
一番緊張していたのは、モグさんだ。
モグさんの一族は、ドラゴンを、神様だと信じている。
神様の尻尾に乗っかるなんて、とんでもないというわけだ。
でも、ガーベラ隊長とディールが、なんとか説得して、最後には、モグさんも一緒に尻尾に乗った。
『イイカ、シッカリ、ツカマッテ オケヨ。』
ゴゴゴゴゴゴゴ!!
ドラゴンが動き出した瞬間、尻尾の上は、大騒ぎになった。
「うおおおおおおーっ!?」
「おおおおおお落ちるうううううう!」
「あわわわわわわわわ!」
「ひえええええええ!」
「落ち着け、口を閉じろ! 舌を噛むぞ!?」
みんな、ものすごく揺れる尻尾の上で、ごつごつした鱗に必死にしがみついている。
上からは、ばらばらと岩のかけらが降ってくる。
すぐ横は、表面がざりざりの岩の壁だ。
ちょっとでも気を緩めて手の力を抜いたら、転げ落ちて、大変なことになってしまうだろう。
「ブルー! 大丈夫!?」
マッサは、ドラゴンの鱗にしっかりつかまり、片手では、必死に剣をつかみながら、お腹のほうに回したリュックサックに声をかけた。
この中に、ブルーが入っているんだ。
『グググググググ。』
と、リュックサックの中から、ものすごく揺れている唸り声がきこえてきた。
ブルーも、なんとか気絶はしないで、がんばっているみたいだ。
「こりゃあ、確かに、仲間になって一緒に来てもらうってのは、無理だなっ!」
ディールが叫んだ。
乗っているマッサたちも大変だけど、まわりの地面も、そうとう揺れている。
旅をするだけで、地震が起きちゃうようなものだ。
これで、いろんな村や、町に近づいていったら、そこに住んでいる人たちが、大変なことになってしまう。
それから、どれくらい経っただろうか。
ガガガガガガガと、あんまり揺れすぎて、みんなのお腹の調子が、少しおかしくなってきたころだ。
ゴゴゴゴゴーッと音を立てて、急に進むスピードが遅くなり、ドラゴンは、ゆっくりと止まった。
マッサたちが、おそるおそる、あたりを見回すと、そこは、出発したところとは全然違う、大きな地下洞窟の中だった。
『サア、ツイタゾ。』
「えっ?」
マッサは、びっくりした。
「着いたって……ここが? この洞窟が、《魔女たちの都》なんですか?」
『違ウニ 決マッテ イルダロウ。』
ドラゴンが、少し呆れたように言った。
『ココノ、ズウット 上ノ ホウニ、《魔女タチノ都》ガ アルハズダ。俺ガ、アマリ 近ヅクト、地上デ 地震ガ 起キテ シマウカラ、地下深クデ 止マッタンダ。』
「ああ、そういうことか……ドラゴンさん、ここまで送ってくれて、本当にありがとうございました!」
マッサは、ドラゴンの尻尾から滑り降りて、頭を下げて、お礼を言った。
他のみんなも、へろへろになりながら、何とかドラゴンの尻尾から滑り降りて、整列し、ていねいにお礼を言った。
『イヤ、ナニ、大シタ コトデハ ナイ。オマエハ 俺ノ 喉ヲ 治シテ クレタノダカラ、コレクライノ 礼ハ 当然ノ コトダ。』
ドラゴンは、大きな大きな目でマッサを見つめ、言った。
『オマエノ 仲間ニ ナッテヤル コトガ デキナクテ 残念ダ。他ノ 仲間ヲ 探シテ、キット 目的ヲ 果タスンダゾ。』
「はい!」
マッサが元気よく返事をすると、ドラゴンは大きく頷き、ゴゴゴゴゴと向きを変えると、バゴーン! と頭を岩壁に突っ込んで、ゴゴゴゴゴゴゴゴ! と、去っていった。
ドラゴンが来たほうと、去っていったほうには、まるで巨大なトンネルみたいに、ドラゴンの太さと同じサイズの道ができていた。
〈ははあーっ……ありがてえ、ありがてえ。おら、このことを、一生の思い出にするだ。岩神様の尻尾に乗ったなんて、まるで夢みてえだ! 岩神様が通ったおかげで、新しい道もできて、こりゃ、便利になっただよ。〉
と、ドラゴンが去っていったほうを、いつまでも拝んでいるモグさんに、
「おいおい、感動するのはいいが、道案内のほうも、しっかり頼むぜ。あんたは、ここが、いったいどこだか、ちゃんと分かってるんだろうな?」
と、ディールが、少し不安そうに、現実的なことを言った。
ドラゴンに運んできてもらったおかげで、地下のぐねぐね道を普通に歩くよりも、遥かにはやく、ここまで来ることができたのは間違いない。
でも、ここは、まだ、とんでもなく深い地下の世界だ。
ここから、地上の《魔女たちの都》に出ることができなかったら、何の意味もなくなってしまう。
モグさんは、しばらくその場に突っ立って、まるでおいしいものを探すブルーみたいに、ひげをぴくぴく、鼻をひくひくさせていたが、やがて、
〈よし、こっちだ。みんな、気をつけて、ついてきてくれ!〉
と言って、洞窟から出ている、一本の登り坂を歩き始めた。