マッサ、運ばれる
どれくらい、気絶していたのか、よく分からない。
はっ! と目を覚ましたとき、マッサは、かたくて冷たい地面の上に、うつぶせになっていた。
右手には、ドラゴンの喉から引っこ抜いた剣を、がっちり握りしめたままだ。
『オオ、目ガ 覚メタカ。』
すぐそばから、地鳴りのような声が聞こえた。
起き上がって、そっちを見ると、倒れていたマッサのすぐそばに、巨大なドラゴンの顔があった。
どうやら、すぐそばで、じっと見守っていてくれたみたいだ。
「あれ……? えーっと……ぼく、どうなったんでしたっけ? 確か、この剣を抜こうとして……」
『俺ガ、痛クテ 暴レテ、吠エタ ヒョウシニ、オマエガ 喉ノ 奥カラ、ポーン! ト 飛ビ出シテ キタンダ。』
「……ああ!」
マッサは、剣を握ったまま、ぽん! と手を叩いた。
あのとき、吹き飛ばされて、ドラゴンの口から飛び出したマッサは、そのまま、まともに岩の壁に叩きつけられたらしい。
普通なら、ぺっちゃんこになって死んでしまうところだったけど、《守り石》が守ってくれて、そのまま地面に落っこちるだけで済んだ。
「あっ、そうだ。これ、見てください! こんな剣が、喉の奥に刺さってたんですよ。だから、あんなに痛かったんです。今は、どうですか?」
『モウ 痛クナイ。オマエノ オカゲデ、ヤット 治ッタ!』
ドラゴンは、嬉しそうに言った。
「よかった! でも、いったいどうして、こんなものを食べちゃったんですか?」
『ワカラン。シカシ、ソレハ 人間ノ 武器ダナ。タブン、誰カガ 宝物トシテ 地面ノ 奥深クニ 埋メタンダロウ。俺ハ、岩ヲ 食ベテイル トキニ、ソノ 武器ヲ 一緒ニ 飲ミコンデ シマッタラシイ。』
「ああ、そういうこと……」
マッサは、納得した。
「じゃあ、これ、また飲みこんじゃったら危ないから、どこか遠くに捨てといたほうがいいですね。」
『イヤ、ソレハ ヨカッタラ オマエガ 持ッテイケ。人間タチノ アイダデハ 貴重ナ 武器ダト イワレル モノダロウ。ナニシロ、俺ノ 体ニ 刺サルホド 鋭ク、唾デモ 溶ケナイホド 強イ 武器ダ。』
「ああ……」
マッサは、ちょっと困って、剣を見下ろした。
ナイフや包丁を使って果物を切ることにも、あんまり慣れてないのに、こんな大きな刃物をもらっても、ちゃんと使いこなせない気がする。
でも、いわれてみれば、これほどの剣を、ぽいと捨てていくのは、もったいない。
そうだ、ガーベラ隊長や、ディールさんにあげたら、喜んでくれるんじゃないかな?
「あっ、そうだ!」
マッサは、思わず、大きな声を出した。
いきなり、巨大なドラゴンが暴れながら出てきたせいで、すっかり頭から吹っ飛んでいたけど、よく考えたら、自分は今、ガーベラ隊長たちとはぐれて、迷子になってしまっているんだった。
「あのう、ドラゴンさん。」
『何ダ。』
「すみませんけど、もしよかったら、ぼくのこと、手伝ってもらえませんか?」
『アア、モチロンダ。俺ハ、ココノトコロ、ズット 喉ガ 痛クテ 苦シンデイタ。オマエハ、ソレヲ 治シテクレタ 恩人ダ。今度ハ 俺ガ 助ケルカラ、何デモ 言ッテミロ。』
「やった! 実は……」
マッサは、穴に落っこちて、仲間たちとはぐれてしまったのだということを、ドラゴンに説明した。
「それで、ぼく、みんなのところに戻りたいんです! ドラゴンさんなら、みんなを見つけることができますか?」
『マカセロ。』
ものすごく頼もしい調子で、ドラゴンは言った。
『俺ハ、地下ノ ドコニ 生キモノガ イルカ、感ジトルコトガ デキルンダ。ソレデ、小サイ ヤツラガ 住ンデイル トコロニ 俺ガ 突ッ込ンジャッタラ、大変ナ コトニ ナルカラ、ヨケテ 通ルヨウニ シテイル。』
「えっ、そうなんですか!? じゃあ、ガーベラ隊長たちが今いる場所も、ちゃんと分かるんですか?」
『アア、トンネルノ 通リ具合ヤ、ソコニ 響ク 声ヤ 物音……集中スレバ、全部 分カルゾ。チョット 静カニシテ 待ッテイロ。』
マッサが黙って見ていると、ドラゴンは巨大な頭をぐっと持ち上げ、そのまま、じっと動かなくなった。
何もしていないように見えるけど、どうやら、あたりの様子を探っているみたいだ。
もしかすると、コウモリみたいに、人間の耳には聴こえない音を出したり、聴いたりして、生きものがいるかどうかを調べているのかもしれない。
やがて、ドラゴンが、ごごごっと体を動かして、マッサのほうを向いた。
『見ツケタゾ。』
「えっ、ほんと!? どこにいるんですか?」
『ココカラ ホンノ少シ 上ダ。』
ドラゴンはそう言ったけど、ドラゴンにとっての「ほんの少し」と、マッサにとっての「ほんの少し」は、全然違う気がする。
「あの、もしもよかったら、ぼくを、そこまで送ってもらえませんか?」
『イイダロウ。』
「ほんとに!?」
『アア。俺ノ 尻尾ノ 先ニ 乗ルガイイ。』
ドラゴンが、ぬうーっと差し出してくれた、巨大な尻尾の先に、マッサはしっかりとまたがって座った。
ドラゴンの尻尾は、太くて、ごつごつしていて、もしもドラゴンの尻尾だと知らなかったら、黒い岩の柱かと思うところだ。
『デハ、行コウ!』
「えっ? 行くって、どうやって……うわわわわ!?」
剣をどうやって持つのが一番危なくないか、いろいろ試しているときに、ぐいーん! とドラゴンが長い体の向きを変えた。
そして、そのまま、ばごーん!! と、頭を岩の壁に突っ込んだ!
バリバリ ミシミシ バキバキバキ!
ものすごい音を上げながら、ドラゴンは岩壁の中にもぐり込んでいく。
「うわあああああ!」
マッサは、必死に尻尾の先にしがみついた。
ドラゴンが通ったあとに、ドラゴンの頭の大きさと同じサイズのトンネルができていく。
まるで、トンネル工事に使う巨大な機械が、生きて動き出したみたいだ。
「わわわわわわわ!」
あまりにもとんでもない光景に、マッサは、わあわあ叫びながら、どんどん運ばれていった。




