表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/245

マッサ、治療する


 洞窟の地面に寝そべったドラゴンが、マッサの目の前で、ぐわああっと口を開いた。

 ドラゴンの口の中には、まるで、のこぎりみたいなぎざぎざの歯や、ドリルみたいにねじれた牙が、上にも下にも、びっしりと生えていた。

 きっと、岩を食べる時には、この歯、全部を使って、岩を細かく砕いて、すり潰すんだろう。


 大きく開いた口の上のほうから、黄色い唾が、ぼたぼた、ぼたぼた、大粒の雨のように垂れてくる。

 そのしずくが飛んで、地面にかかると、そのたびに、ジューッ! と煙があがった。

 でも、マッサは、平気だ。

 落ちてくる唾からも、はね飛んでくるしずくからも、《守り石》が守ってくれる。


「あのーっ!」


 マッサは、ドラゴンの口の中をのぞき込みながら、大きな声で言った。


「ぼく、今から、あなたの口の中に入ります! ちょっと、痛かったり、くすぐったかったりするかもしれないけど、咳や、くしゃみは、なるべく、がまんしてくださいね!」


『ンガガガ。』


 と、ドラゴンが言った。

 口を、ぎりぎりまで大きく開けているから、ちゃんと返事ができないんだ。


「じゃあ、行きます!」


 マッサは、《守り石》をしっかり握りしめ、その手で、どきどきする心臓を押さえながら、ゆっくりと、ドラゴンの口の中に踏み込んでいった。


 ドラゴンの歯は、一本一本が、マッサの身長よりも、ずっと大きいくらい。

 しかも、それが、人間の歯みたいに一列だけじゃなく、何列にもなって、びっしり生えているから、そこを乗り越えていくのは、ものすごく大変だった。


「よいしょ! よいしょ! よいしょ!」


 しまった! 何だか体が重いし、バランスが悪いと思ったら、重いリュックサックを背中に担いだままだった。

 でも、今さら引き返すのは、時間がもったいないし、荷物だけ置いておいて、そこに、ドラゴンの唾がかかったら、荷物が全部、ジューッと溶けてしまう。

 しかたなく、重いリュックサックを背負ったまま、マッサは、ジャングルジムによじ登るみたいに、ふうふう言いながら、びっしり生えた巨大な歯の列を乗り越えていった。


 そこを越えると、真っ暗な洞窟みたいな、ドラゴンの喉の奥が見えてきた。

 喉の奥に向かって、つららみたいな大きなとげが、びっしり生えている。

 飲みこんだ岩を、喉の奥に送り込むための仕組みだろう。


「んっ?」


 マッサは、首を突き出し、目を細くして、ドラゴンの喉の奥をじっと見つめた。

 今、何かが、真っ暗な喉の奥で、ちらっと光ったような……?

 右手に握った《守り石》を突き出して、そっちのほうに向けてみる。

 あっ、また、キラッと光った!

 あれは……?


「剣だ!」


 マッサは、思わず一人で叫んだ。

 ドラゴンの喉の奥のほうに、一振りの剣が突き刺さっている。

 長い銀色の刃の、半分ほどまでが、ぐっさりと刺さっていた。

 あんなものが刺さっているんだから、痛いのは当たり前だ。


「見つけましたーっ! 今、抜いてあげますからね! ちょっと、痛いかもしれないけど、ちょっとだけ、我慢してください!」


 聞こえているかどうかは分からないけれど、とにかく、ドラゴンに向かってそう叫んでから、マッサは、少しずつ、剣のほうへと近づいていった。

 剣は、ドラゴンの喉から、さらにその奥の真っ暗闇に落ち込んでいく、ぎりぎりのところに刺さっていた。

 かなり深く刺さっているから、抜くには、けっこう力がいるかもしれない。


 マッサは、不安定な足場に、しっかりと両脚をふんばって立った。

 もしも、ずぼっ! と剣が抜けた拍子に、勢いあまって、喉から、胃袋のほうまで転がり落ちてしまったら大変だからだ。

《守り石》があるから、死んじゃうことはないだろうけど、ドラゴンのお腹の中に閉じ込められるなんて絶対に嫌だし、剣ごと転がり落ちて、今度は、お腹の中に剣が刺さってしまったら、とんでもないことになる。


「よし、じゃあ、抜きます!」


 マッサはそう宣言すると、剣のつかを両手で握りしめ、ぐうっと上向きに力を入れた。


「ふんぐぐぐぐぐ!」


 抜けない。ものすごくしっかり刺さっている。

 できたら、ぐっぐっと前後左右に揺らしながら抜きたいけど、そんなことをしたら、ドラゴンがよけいに痛がるだろうから、できない。


「うーんぐぐぐぐぐ!」


 顔を真っ赤にしながら、全力で引っ張り上げると、ずずっ、と、かすかに剣が動いた感覚があった。

 その瞬間、マッサの足元にびっしり生えている、つららみたいに大きなとげが、ざわわっ! と震えて逆立った。


 ゴオオオオオオオオオ!


 多分、ドラゴンが「痛い!」と叫んだんだろう。

 すさまじい吠え声が、喉の奥から、嵐のような暴風になってぶつかってきた。


「うわっ!」


 マッサは、吹き飛ばされないよう、とっさに思いっきり剣のつかを握りしめた。

 そのはずみで、ぐっ、と剣が動いて、傾いた。


(あっ!)


 マッサが、しまった、と思ったときには、もう遅い。


 グウウウウオオオオオオオオ!


 さっきよりも凄まじい叫び声の暴風がマッサに襲いかかり、同時に、ぐわあん! と世界が回転した。

 ドラゴンが、痛さに耐え切れずに、また暴れ出したんだ。

 当然、口の中にいるマッサも、一緒に振り回されることになる。


「うわあああああああ!」


 マッサは、それでも、剣のつかをはなさなかった。

 ぐるーんと世界の上下が逆さまになって、マッサが、剣のつかにぶら下がるような状態になる。

 その瞬間、ずぼっ! と音がして、突き刺さっていた剣が抜けた!


(やった!)


 マッサが思った、その瞬間だ。


 グオオオオオオオオオオ!


 剣ごと落っこちるマッサを、ドラゴンの雄叫びの暴風が吹き飛ばし、マッサは、そのまま、気を失ってしまった……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ