マッサ、原因を考える
『イヤ、ワカラン。』
黒いドラゴンは、唸るように言った。
『昔、地下ニ 降リテキタ 魔女タチノ 女王ニ 会ッタ。ダガ、オマエタチハ 小サスギル。顔ノ 違イガ ワカラン。……ウウウウ、グオオオオォ!』
ドラゴンは、再び、苦しそうにのたうち回りはじめた。
おそろしく太い尻尾の先が壁にぶち当たり、ガガガガーッとけずられた岩の塊が降ってくる。
苦しそうにドラゴンが開けた口の端から、だらだらーっと黄色い液体が出てきた。
血かと思ったら、どうやら、唾みたいだ。
その唾が地面に垂れると、ジューッと音がして、ものすごいにおいの煙が上がった。
マッサは、あわてて、鼻と口を腕で守りながら、暴れ回るドラゴンに声をかけた。
「さっきから、どうしたんですか、ドラゴンさん! 病気ですか? お腹が痛いんですか?」
『イヤ、違ウ……グウウウウゥ! 口ノ中……喉ガ、痛イ!』
「のど!?」
マッサは、自分が、喉が痛くなったときのことを思い出してみた。
喉が痛くなるといえば、まずは、風邪だ。
でも、ドラゴンが風邪をひくとは、ちょっと思えないし、風邪のときの喉の痛さは、こんなふうに転がり回るほどじゃない。
風邪じゃないとすると……あと、考えられるのは、喉に、何かが刺さってしまった場合だ。
マッサも、小さいころ、晩ごはんに食べた魚の骨が、喉に刺さってしまって、全然とれなくて、病院に行かなくちゃならなかったことがある。
このドラゴンも、もしかしたら、何か、食べたものの骨が、喉に刺さっちゃったのかもしれない。
「ドラゴンさん! もしかしたら、喉に、骨が刺さっちゃったのかもしれませんよ! 最近、何か、骨の多いものを、食べませんでしたか!?」
『俺ハ 岩シカ 食ベナイ。』
「そうですか……」
岩に、骨があるわけがないから、これも違うのかな。
いや、でも、岩の中でも特別に大きくて、かたくて、鋭いやつを、そのまま飲みこんじゃったのかもしれない。
それが、喉の奥に刺さっているせいで、痛いのかも……
でも、実際に、みてみなくちゃ、何ともいえない。
マッサの喉に魚の骨が刺さったときは、おじいちゃんと、お医者さんが、マッサの口を、あーんと大きく開けさせて、みてくれた。
「ドラゴンさん!」
マッサは、大きな声を張り上げて、のたうち回るドラゴンに話しかけた。
「もしかしたら、喉の奥に、何か、刺さってるかもしれません! あなたが、あーんと口を開けてくれたら、ぼくが、みてあげますよ!」
『イヤ、ダメダ。』
ドラゴンが唸った。
『俺ノ 唾ハ、ドンナ 岩デモ 溶カス。小サナ オマエノ 体ナド、一瞬デ ジューット 溶ケテ、ナクナッテシマウ。』
「ええっ!?」
そうか、それで、さっき、黄色い唾が地面に垂れたとき、煙が上がっていたんだ。
あれは、地面が溶けていたのか。
どうしよう……苦しそうなドラゴンを助けてあげたいけど、自分が、ジューッと溶けちゃうなんて、絶対に嫌だし……
そのときだ。
「んっ!?」
マッサは、ふと、ひらめいた。
『その石は、まだ寿命が来ていないのに、けがや病気や毒で死ぬことから、持ち主を守ってくれるのです。』
《守り石》について、ガーベラ隊長は、確かに、そう言っていた。
どんな岩でもジューッと溶かす、ドラゴンの唾は、そのうちの「毒」に入るんじゃないだろうか。
そうだとすると、《守り石》は、落ちてくる岩から、マッサを完璧に守ってくれるように、ドラゴンの唾からも、完璧に守ってくれるかもしれない!
「よし!」
マッサは、叫んだ。
でも、いきなりドラゴンの口に突入するのは、危なすぎるから、まずは、実験をしてみることにした。
地面に落ちて、ジューッと煙をあげているドラゴンの唾に、マッサは近づいていった。
右手で、しっかりと《守り石》を握り、左腕で、顔をかばいながら、爪先だけ、そーっと、地面に落ちている唾に近づけていった。
『アブナイ! ヤメロ!』
マッサがしようとしていることに気付いて、ドラゴンが、慌てて叫ぶ。
マッサは、ちょん! と、爪先をドラゴンの唾につけてみた。
フオン!!
ふしぎな音がして、マッサの足をつつむように、緑色の光が広がった。
足は、何ともない。
もう一度、今度は、もっとしっかり、唾をふんづけてみた。
フオン!!
また緑色の光が出て、足は、やっぱり無事だ。
痛くもかゆくもない。
普通の地面を踏んでいるのと、何も変わらなかった。
「やった!」
マッサは、ガッツポーズをとった。
「ドラゴンさん! 大丈夫! ぼく、あなたの唾でも、溶けません! だって《守り石》が守ってくれるから!」
『オオ……』
ドラゴンが、感動したように唸った。
『ソノ 宝ニハ、ソンナ チカラガ アッタノカ。アリガタイ。ソレジャア、サッソク 俺ノ 口ノ 中ヲ ミテクレ。』
「はい! じゃあ、顔を、ここのところへ下げて……はい、では、口を大きく開けてください。」
マッサは、虫歯を治す歯医者さんみたいなことを言いながら、寝そべったドラゴンの口のほうへ近づいていった。