マッサ、ふたたび……
どれくらい、気絶していたのか、よく分からない。
はっ! と目を覚ましたとき、マッサは、ぜんぜん知らないトンネルに倒れていた。
胸の《守り石》が、ぼうっと光って、どこまでも続くトンネルを照らしている。
マッサの前にも、後ろにも、誰もいなかった。
マッサは、ブルーを助けようとして、暗い穴に落っこちて、深い深い地の底で、一人ぼっちになってしまったんだ。
あたりは、耳が痛くなるほど、しーんとしている。
何の物音もしない。
もちろん、人の声も、まったく聞こえなかった。
「おおーい! みんなー!」
マッサは立ち上がって、思いっきり大きな声で呼んでみた。
これだけ、まわりがしーんとしているんだから、これだけ大きな声を出せば、ものすごく響くはずだ。
この果てしない迷路みたいなトンネルのどこかで、耳を澄ましているはずの、仲間たちの耳に、届くかもしれない……
おおーいおおーいおおーい…… みんなーみんなーみんなー……
かたい岩の壁に跳ね返って、マッサの叫び声が、何度もかさなりながら消えていった。
マッサは、全身を耳にして、真剣に聞いたけれど、どこからも、返事はなかった。
「みんなー! ぼく、ここにいるよー! おおーい! 聞こえますかー!」
何度、叫んで、耳を澄ましても、結果は同じだった。
マッサは、ものすごく怖くなってきた。
まわりの、冷たくてかたい岩の壁がせまってきて、自分をおしつぶしてしまいそうな気がした。
薄暗い場所に一人でいることが、怖いんじゃない。
マッサが恐れていたのは、もっと、深刻なことだった。
ぼくが、ここにいるってことを、誰も気付いてくれなくて、ずーっと、誰も助けに来てくれなかったら、どうしよう!?
背中のリュックサックの中には、水筒と、食料が入っている。
しばらくは、これを食べたり飲んだりしていればいいけど、もしも、水や食料がなくなってしまったら……?
《守り石》があるから、マッサは、歳をとって、寿命が来るまでは絶対に死なないと、ガーベラ隊長は言っていた。
でも、お腹がすいたり、喉が渇いたりすることまでは、防げないはずだ。
どうしよう。
ものすごーく、お腹がすいて、喉が渇いて、死にそうになっても、死なずに、この薄暗いトンネルの中を、よぼよぼのおじいさんになるまで、ずーっと、一人で歩き回らなきゃいけなくなったら、どうしよう……?
「うわああああああ!」
そう考えたら、あまりにもこわすぎて、マッサは、泣きながら大声で叫んだ。
「いやだ、いやだよー! 助けて! 誰か! みんなー! ぼくは、ここだよー!」
うわんうわんうわんと、何重にもこだまが響く中を、マッサは、走り出した。
むやみに動きまわったら、よけいに迷ってしまうんじゃないかとか、そんなことは、まったく考えていない。
とにかく、こわすぎて、これ以上、じっとしていられなかったんだ。
そのときだ。
つるっ! と、急に、足が滑った。
「うわっ……」
マッサは、とっさに、踏みとどまろうとした。
でも、重い荷物を背負っているせいで、バランスが崩れた。
「わっ、わっ……うわあああああああぁ!」
前をよく見ていなかったせいで、気がつかなかったけれど、マッサが走ってきたトンネルの先は、ものすごく急なすべり台みたいになっていた。
つるつるの岩の坂道を、猛スピードですべり落ちていく。
「あああああああぁ!」
いったい、どこまで落ちるんだろう。
このまま、地面のものすごく深いところまで行っちゃって、真っ赤に煮えたぎるマグマの中に落っこちたりしたら、どうしよう!
マグマの中には落ちなかったとしても、深い深い地の底で、本当に、もう二度と、誰にも会えなくなったらどうしよう!?
すべり落ちるスピードは、どんどん速くなっていく。
ジェットコースターよりも、もっと速い。
お腹がふわぁっとなるのを通りこして、まるで、無重力状態の真っ暗な宇宙に、たった一人で浮かんでいるような感じがしてきた。
「ブルー! ガーベラ隊長! ディールさん! タータさん! 誰か、助けてええぇぇぇ!」
叫びながら、どこまでも落ち続ける。
落ちながら、マッサは、ふたたび、気を失ってしまった……