マッサとなぞの物音
「うわあああああ!!!」
マッサは、もう、屋根を突き破ってぶっとぶんじゃないかと思うくらい、びっくりした。
宝箱の中には……ものすごいおたからが、びっしりつまっていた!
金でできたお金や、銀でできたお金がどっさり。
赤や、透明や、黄色、青の宝石。
指輪に、ブレスレットに、ごうかなベルト。
金と銀の飾りがついた「さや」に入った、立派な剣もあった。
冠みたいな、頭にかぶる飾りもあった。
「うわあ、うわあ、うわあ!」
マッサは、ひとつひとつ、持ち上げてみては、懐中電灯の光で照らして、すばらしいきらめきを、うっとりと見つめた。
どの宝物も、みんなすごかったが、やがて、マッサの目は、ひとつの宝石にすいよせられた。
それは、平べったい、まるい形をした、手のひらくらい大きな、緑色の宝石だった。
宝石のまわりは、金の飾りでかこまれていて、そこに、金のくさりがついた、首飾りになっていた。
その緑色の宝石の光りかたは、なんともいえず、優しくて、ぎらぎらしすぎていなくて、マッサは一目見て、すっかり気に入ってしまった。
懐中電灯を、うまくそばに立てかけておいて、マッサは、緑色の宝石がついた首飾りを両手で持ち上げ、右や、左からよくよく眺めて、それから、自分の首にかけてみた。
「すごいや! ぼく、本物の王様みたいだ!」
マッサは、すっかり嬉しくなって、しばらく、この首飾りをかけておくことにした。
それから、あんまりびっくりしすぎて、ちょっと疲れたので、休憩することにした。
一応、宝箱のふたをしっかり閉めてから、マッサは、王様用みたいなりっぱないすのところに戻って、そうっと、腰をおろしてみた。
いすは、ちょっとほこりのにおいがする気がしたけど、座るところも、背もたれも、クッションがしっかりしていて、すごく座り心地がよかった。
マッサは、いすのひじかけに、両方の手をおいて、足をくんで、
「はっはっはっ。」
と、王様っぽく笑ってみた。
でも、すぐに、やめた。
変な笑い声が、二階の窓からきこえてくるんです、なんて、近所の人が、おじいちゃんに言いつけたら大変だ。
いすにすわると、すぐに、ひまになった。
ゲームか何かがあればよかったかもしれないが、マッサは、おはなしを書くことが好きすぎて、ゲームをやる時間なんかなかったので、ゲームを持っていなかった。
スマホも、まだ、持っていなかった。
ノートにおはなしを書こうかな、と思ったけど、何となく、そういう気分でもない。
もう一回、宝箱を開けてみようかと思ったけど、もう、何が入っているか知っているから、あんまりどきどきしなかった。
他のもののカバーも、とってみようかな?
そうすれば、もっとすごいものが出てくるかもしれない。
いや、待てよ。
今、全部のカバーを取ってしまったら、明日からの楽しみが、なんにもなくなってしまう。
そしたら、今よりも、もっと、ひまになってしまう。
そうだ。カバーを取るのは、一日に、一枚ずつってことにしよう……
マッサは、しばらく、首からぶら下げた緑色の宝石に、懐中電灯の光をいろんな方向から当ててみて、楽しんでいたけど、それも、五分くらいすると、あきてしまった。
ひまだ。
もーっのすごく、ひまだ。
こんなにひまな状態が、一時間どころか、一日、いや、何日も、何日も続くんだと思うと、これは大変なことになったぞ、という気がしてきた。
いや、でも、おじいちゃんを反省させるためだ。ひまなことくらい、がまんしなくちゃいけない。
そうだ、まだ早いけど、ちょっと寝ようかな。
寝ていれば、知らないうちに時間が過ぎるから、ひまつぶしにちょうどいいかもしれない――
と、そのときだ。
ガサガサッ。
急に、そんな音が後ろからきこえて、マッサは、高級ないすの上でとびあがった。
ばっ! と後ろをふりむいて、懐中電灯で照らしたけど、何も、あやしいものはいない。
気のせいだったのか? ……いやいや、たしかに、ガサガサッ、という音がした。
何だろう。まさか、ネズミ? それとも、巨大なゴキブリ? まさか……
ガサガサッ!
また、音がした。
今度は、右からだ。
移動してる!
マッサは、思わず、高級ないすの上に立ち上がっていた。
高級ないすを、スニーカーをはいたまま、ふんでしまったことに気付いて、あっ! と思ったけど、今は、怖すぎて、それどころじゃなかった。
ガサガサッ。……ガサガサガサッ!
音は、部屋の壁にそって、マッサのまわりをまわるみたいに、移動しているようだった。
マッサは、音のするほうに懐中電灯の光を向け続けながら、何だか知らないけど、もしも、そいつが飛びついてきたら、この懐中電灯を投げつけてやろうと思って、みがまえていた。
ガサガサッ……ゴソッ、ゴソッ。
そんな音がして……
それから、急に、しーんとなった。