地下旅行、はじまる
「自信があるって……おい、ほんとかよっ!?」
ディールが、大声で叫んだ。
みんなも、声には出さなかったけど、同じ気持ちでタータさんを見つめた。
タータさんは、実はすごい力持ちだということは知っているけど、体つきはひょろっとしているし、顔はにこにこしているし、全然、戦いが強そうになんて見えない。
「お兄さんは、強いわよ! ねっ。」
「そうそう、とっても強いわよ!」
「ねーっ!」
見送りにきていたタータさんの妹たちが、口々に言った。
「前なんか、襲ってきた化け物オオカミを、二頭いっぺんに、ひとりで倒したの。」
「そうそう! それに、悪い盗賊が、大勢でおそってきたときなんか……ねっ!」
「そうそう! あのときは、お兄さんが、ひとりで十人くらい、いっぺんにやっつけちゃった! ねーっ!」
「……ほんとかよっ!?」
ディールが、またまた叫んだ。
この、優しそうなタータさんが、そんなに強いなんて、信じられない。
でも、まわりを見ると、同じ村の人たちも、長老も、うんうんとまじめな顔でうなずいている。
みんなが嘘をついているようには、どうしても思えなかった。
「どうか、お願いしますよ。」
タータさんは、四つの手を合わせて、マッサに向かって、お願いのポーズをした。
「ほら、あなたには、あの予言があるでしょう? 『王子と七人の仲間が、魔王を倒して、世界を救う。』 ――あの予言の仲間のひとりに、私も入れてください!」
それを聞いて、マッサは、はっとした。
マッサが王子様だと分かったとき、一番最初に、マッサの仲間になる! といって手を挙げたのは、小さなブルーだった。
仲間というのは、友だちみたいなものなんだから、力が強ければいいとか、頭がよければいい、というだけのものじゃない気がする。
もしそうなら、剣や槍の試合を開いたり、魔法や、勉強のテスト大会を開いたりして、成績のよかった人を、上から順番に選べばいいんだ。
でも、仲間というのは――友だちというのは、そういうものじゃない気がする……
「ありがとう、タータさん! ぼく、ぜひ、一緒に来てほしいです。」
「えっ、ほんとに、いいんですか!? やった、やったー!」
「おい、おい!?」
マッサの言葉に、タータさんは喜んで踊り出し、ディールは慌てて叫んだ。
「ほんとに、いいのかよ!? こんな、なんか頼りなさそうなやつを、七人の仲間に入れちゃって……」
「やった、やったー! これで私も、あなたたちの仲間ですね! ディールさん、今日から仲間ですから、よろしくお願いしますね! やった、やったー!」
「おい、ちょっと待て、おいっ……うわーっ!? やめろ、降ろせーっ!」
「やった、やったー!」
すっかり嬉しくなってしまったらしいタータさんは、鎧を身に着け、大荷物まで背負っているディールを軽々と抱き上げ、まるでお父さんが赤ちゃんを高い高いするみたいに、頭の上まで、何度も持ち上げた。
「……これほど力があるんだから、本当に、戦いにも強いだろうな。」
ガーベラ隊長が、ものすごく納得しながら、うんうんとうなずいていた。
こうして、なんと、タータさんも、地下の旅に加わることになった!
「長老さん、村のみなさん、本当にお世話になりました! 行ってきます!」
マッサが、そう言って挨拶すると、
「いってらっしゃーい!」
「私たちのお兄さんをよろしく! みんな、なかよくしてね!」
タータさんの妹たちが、元気よく手を振って、
「くれぐれも、お体を、大切にのう。」
と、長老が言った。
となりでは、けがを治すために村に残る騎士たちと、ガーベラ隊長たちが、別れの挨拶をしている。
「ガーベラ隊長、王子さまのこと、どうかよろしくお願いします。」
「もちろんだ。お前たちは、しっかり休んで、けがを治して、砦をよく守ってくれ。」
「ディール、俺たちのぶんまで、しっかり働いてきてくれよ!」
「おう、任せとけ! ……おまえらこそ、俺の翼、しっかり預かっておいてくれよ。」
ディールは、そう言って、仲間たちの手を握った。
翼の騎士たちは、準備をしながら、何度も話し合って、けっきょく、大切な翼を、この村に置いていくことにしたんだ。
ここからは、二十日間も、地下の道を歩き続けることになる。
道は広いというけれど、ひょっとしたら、途中で狭くなっているところがあるかもしれない。
翼は、折り畳んでいてもかなり大きいから、狭い隙間では、すぐにつっかえてしまう。
それに、地下の道の途中には、すぐ横が崖になっているところや、岩が横や上から突き出しているところがあるかもしれない。
そんなときに、大きな翼を背負っていたら、重かったり、引っ掛かったりして、バランスをくずしてしまう恐れがある。
「まさか、翼の騎士が、翼を置いていくことになるとはなあ。」
ディールは、すごく残念そうだったけど、
「文句を言うな。ここからしばらくは、地下の旅だ。地下では、翼は役に立たないどころか、背負っていると、かえって危ない。
今、いちばん大切なことは、王子を《魔女たちの都》まで安全にお送りすることだ。そのためには、大切な翼を置いていくことも、しかたがないだろう。」
と、ガーベラ隊長に言われて、
「まあ、そうですね。……無理に翼を持っていって、地下のどこかでつっかえちゃったら、そこに置いていかなきゃならねえことになる。それよりは、ここで、仲間のところに置いていったほうが、俺の翼も安全だ。」
と、ディールも納得した。
〈おーい、上のみなさんがた。おら、さっきから、ここでずーっと待ってるだよ。いったい、いつ出発するだか?〉
「モグさん、お待たせしました! 今、出発します!」
マッサが大きな声で言い、大荷物を背負ったみんなは、ロープをつたって、順番に穴の中へと降りていった。