真っ暗やみのマッサ
こうして、マッサたちは、地面の下の道がどんなものなのか、見学することになった。
本当に、モグさんたちのトンネルを使って魔女たちの都まで行くのか、行かないのか。
それを決めるためには、まず、実際に自分たちの目で見て確かめるしかない。
「じゃあ、穴の底まで降りるために、はしごを持ってきますね。」
とタータさんが言って、マッサたちが木の上の家まで登るときに使った、ロープのはしごを持ってきてくれた。
そのロープの片方のはしを、近くの木に結び付けて、もう片方のはしを、ずうっと、真っ暗な穴の中へ垂らす。
「モグさーん、どうですか。ロープは、下までついていますか?」
と、タータさんがきくと、
〈ついてるだよ!〉
と、穴の中から、モグさんの返事が聞こえた。
「では、私が最初に。」
と、ガーベラ隊長が言いかけたところで、
「いや、私が行こう。」
と言って、それまで黙っていた《三日月コウモリ》隊の隊長が、横から手をあげた。
「私たちは、夜の空での戦いの訓練を受けているから、暗くても、皆よりは、まわりの様子がよく見える。先に降りて、王子や皆の安全を確保しよう。」
「なるほど。それでは、お願いします。」
と、ガーベラ隊長が言って、《三日月コウモリ》隊の隊長は、たちまちロープをつたって真っ暗な穴の中に降りていった。
「では、次は私が。」
そう言って、ガーベラ隊長が、二番目に降りていった。
「じゃ、次は俺だ。」
そう言って、ディールが、三番目に降りていった。
『あな!』
と、ブルーが、わくわくして走り回りながら言った。
『みんな、あなにはいった! くらい! マッサ、あなにはいる? ぼくも、はいる?』
「うん、今から入るよ。」
マッサは、ブルーを抱き上げて、背中のリュックサックに入れてあげた。
トンネルの中で、ブルーが迷子になってしまったら、大変だからだ。
穴のふちに手をついて、のぞきこんでみても、中は真っ暗だ。
先に降りたみんなの姿は、まったく見えない。
「おーい、みんな、聞こえますかーっ。」
マッサが、そう呼びかけてみると、
〈ああ、聞こえてるだよ!〉
「はい。」
「ええ!」
「おう。……あいてっ。」
と、みんなの声が返ってきた。
最後の「あいてっ。」というのは、どうやら、ディールが、どこかに頭でもぶつけたみたいだ。
マッサは、みんなの声がちゃんと聞こえたので、少し安心して、たくさんの結び目のこぶがついたロープをつかみながら、少しずつ、穴の中へ降りていった。
体が、全部地面の下に入ると、急に、まわりの空気が変わって、驚くほど静かで、ひんやりとした感じになった。
マッサは、手や足を滑らせないように、集中しながら、ゆっくりと降り続けた。
すべって、誰かの頭の上に落っこちたりしたら、すごい迷惑になってしまう。
頭の上に丸く見えている、地上の光が、だんだん遠く、小さくなっていく。
(まだ、着かないのかな!?)
ちょっと心配になって、下に伸ばした足が、とん、と、固いものに当たった。
念のために、何度か踏んでみると、それがたしかに、固い地面だということが分かった。
マッサは、ロープからそうっと両手を話して、トンネルの床に立った。
真上から射し込んでくる地上の光に、今まで降りてきたロープが、白っぽく照らし出されている。
でも、それ以外のまわり全部は、黒い絵の具で塗りつぶしたみたいに、完全に真っ暗だ。
「みんな、どこですか!?」
マッサは、急に不安になって、両手を伸ばして、まわりを手さぐりした。
斜め上にあげた右手が、なにか、あたたかくてやわらかいものに触った。
「うわっ!」
と、ガーベラ隊長がびっくりする声が聞こえた。
「王子、それは、私のほっぺたです。」
「あっ、ごめんなさい!」
マッサは、あわてて手をはなした。
おろした手が、また、何かに触った。
何だか、ふかふかして、サラサラして、あったかいもの……
〈おいおい、そこは、おらの、おなかだよ。〉
「うわっ、ごめんなさい!」
モグさんの声がして、マッサはまた、あわてて手をはなした。
その手が、また、何かに触った。
布に覆われていて、何だか、がっしりした感じのもの……
「王子。それは私の尻です。」
「わあっ!? すみません!」
《三日月コウモリ》隊の隊長の声がして、マッサは、またまた、あわてて手をはなした。
その手が、何かに、ボコンとぶつかった。
「いてえっ!? ……おい、いい加減にしろ! そこは、俺の、あれだ!」
「わああっ! ごめんなさい!」
ディールの声が聞こえて、マッサは、あわてて手をはなした。
『あれってなに?』
と、リュックサックの中から、ブルーが言った。
マッサも、気になったけど、何だか、あまり聞かないほうがいいような気がした。
いや、それにしても、なんて暗いんだろう!
手がぶつかるほど近くにいるはずなのに、みんなの姿は、ほとんど見えなかった。
こんな暗さのままで、《魔女たちの都》まで歩き続けるなんて、絶対に無理だろう。
絶対に、途中で、ゴン! と壁に頭をぶつけてしまったり、道に迷ったりするに決まっている。
いったい、どうすればいいんだろう!?