マッサと地下の道
「わああっ!?」
地面をのぞきこむようにしていたマッサたちは、おどろきすぎて、全員、後ろ向きに転がってしまった。
いったい、何が出てきたんだ!?
土の中から急に飛び出して、みんなをびっくりさせた生き物は、頭だけ出したところで、
〈あ、まぶし!〉
と叫んだ。
そして、ひゅん! と、すごい速さで穴の中に引っ込んでしまった。
あとに残ったのは、大きな穴だけだ。
『なに? なに? いまの、なに?』
ブルーは興味しんしんで、穴のまわりをぐるぐる走り回り、真っ暗な中をのぞきこんで、フンフンとにおいをかいだ。
いや、それにしても、今の生き物は、いったい、何だったんだろう?
姿をあらわしたのは、ほんの一瞬だった。
それでも、ちらっと見えたのは、茶色い毛の生えた、長くとがった鼻と、ひくひく動くひげ――
ものすごく巨大な、ねずみかな?
いや、違う。
マッサは、ああいう顔をした生き物を、図鑑で見たことがった。
「ねえ、今のって、モグラじゃなかった?」
「いや、モグラにしては、でかすぎるだろ……」
「それに〈あ、まぶし!〉と、喋っていましたよ。ふつう、モグラは、喋らないはずなのに。」
マッサの言葉に、ディールと、ガーベラ隊長が、それぞれに首をかしげながら言った。
すると、タータさんが、
「今のは、オオアナホリモグラ一族の、モグさんです。」
と説明してくれた。
「オオ、アナホリ、モグラ?」
「ええ、そう、オオアナホリモグラ。普通のモグラよりも、ずっと体が大きくて、ずっと賢いんです。もちろん、喋ることもできますよ。わたしたちと同じようにね。」
「そうなんだ……」
感心してそう言ったマッサは、そのとき、あっと気がついた。
「じゃあ、タータさんが『地面の下を行くといい』って言ってたのは、もしかして、今のモグさんたちが掘ったトンネルを通って、都までいくといい、ってことですか?」
「ええ、その通りです!」
「はあーっ!?」
ディールが、いつもみたいに、嫌そうな大声を出した。
「俺たちに、モグラのトンネルを通って行けだって? やなこった! せまくて暗くて泥だらけの土の中を、《魔女たちの都》まで、えんえん這いずっていくなんて、とんでもねえぜ!」
ディールがそう言い終わった瞬間、地面にあいた穴の中から、突然、大量の土や小石が、ぼふーん! と吹きあがってきた!
「うおおおっ!?」
穴の近くに立っていたディールは、びっくりして飛びのいたけど、全身が土だらけになってしまった。
かわいそうなのは、同じように穴の近くにいたブルーで、何も悪いことを言っていないのに、急に吹き出してきた土にびっくりして、
『ブルルルルッ。』
と言って、引っくり返って気絶してしまった。
〈おい! どこのどいつだ、おらたちの、すんばらしい道の悪口を言ってるのは!〉
穴の中から、すごく怒った声が聞こえてきた。
さっき、〈あ、まぶし!〉と言ったのと、同じ声だった。
つまり、オオアナホリモグラのモグさんだ。
「ごめんなさい!」
マッサは、自分は悪くないけど、ディールの分まで、穴の中にむかって謝った。
そうしないと、モグさんが、完全に機嫌を悪くしてしまうかもしれないと思ったからだ。
「あなたたちのトンネルの悪口を言うつもりなんて、なかったんです。ぼくたち、ふだん、地面の下に入るってことがないんで、慣れてなくて、ちょっと怖かっただけなんです。」
「おい、待てよ! 誰が、怖いなんて――」
そう言いかけたディールを、ガーベラ隊長が引っつかんで止めた。
せっかく、マッサがモグさんの気持ちをやわらげようとしているのに、ディールがよけいなことをいったら、相手をもっと怒らせてしまうかもしれないからだ。
マッサは、手をラッパの形にして口元にあて、真っ暗な穴の中に向かって言った。
「あのう、モグさん、教えてくれませんか? この穴の下の、あなたたちのトンネルは、ぼくたちでも安心して、歩いて通れるくらい、広いですか? それとも、両手と両ひざで這っていかなきゃいけないくらい、せまいですか?」
〈広いだよ、あったりめえだ!〉
穴の中から、返事の声がかえってきた。
〈ここでも、そうさな、ざっと、おらが両腕を広げた長さの、二倍はあるだ! はばも、高さもな。
おらたちは、先祖代々、土の下を掘って掘って、何百年もかけて、道を作り上げてきただよ。どこの道も、そりゃあ立派なもんだ。〉
「そうなんですか。」
どうやら、モグさんの機嫌がだいぶなおってきたようなので、マッサは、思い切って、言ってみた。
「あのう、それじゃあ、ぼくたちがそっちへ降りていって、あなたたちの道を、実際に見せてもらうことはできますか?」
〈そりゃ、かまわねえだよ!〉
穴の中から、モグさんの声がして、ガーベラ隊長が、マッサのとなりで「よし!」と、ガッツポーズをとった。
「あのう、モグさん。」
横から付け足して、タータさんが言った。
「あなたたちの道は、いろいろなところに通じていましたよね? たしか《魔女たちの都》のほうにも……」
〈《魔女たちの都》? ……ああ、あの都! もちろん、通じてるだ。だいぶ遠いが、歩こうと思えば、歩いていけるだよ。〉
「すごいや。」
マッサは、目を輝かせた。
本当に、地面の下を歩いて《魔女たちの都》まで行くことができるんだ!