マッサと土の下を歩く人
「はあー!?」
と、でっかい声を出したのは、ディールだ。
これは、いよいよ、からかわれていると思ったんだろう。
完全に、けんか腰になっている。
「おまえ、何言ってんだよ。地面の下を歩くだって? そんなこと、できるわけがねえだろうがっ!」
「ええ?」
ディールにすごまれて、タータさんは、目をぱちくりとさせた。
「あなたは、どうして、さっきから、怒ってるんですか? あなたは、地面の下を歩くひとたちのことを、知らないんですか?」
「地面の……えっ? 今、なんて言った?」
「知らないなら、紹介してあげましょう。さあ、わたしに、ついてきてください!」
そう言って、タータさんは、床の穴から、するすると木の幹をつたって地面におりていった。
ディールや、マッサや、隊長たちも、何が何だかわからないまま、とりあえずタータさんの後を追いかけて、ロープをつたって地面におりた。
その後ろから、長老や、タータさんの妹たちもついてきた。
「よっ、よっ、よっ、よっと。」
そう言いながら、タータさんは、地面にぶあつく積もった落葉を、足で寄せて、どけた。
すると、そこに、平らな岩が埋まっていた。
「ここが、いちばん、よく聞こえるんですよ。」
「聞こえるって、なにが?」
何の事だかわからず、マッサがたずねると、タータさんの妹の、テート、ラート、ナートさんたちが、長い人差し指を立てて、いっせいに、
「しーっ、しずかに。」
と言った。
マッサたちが、わけがわからないまま、タータさんのまわりを囲んで立つと、
「ほっ!」
とひと声、かけ声をかけて、タータさんは、いきなり、長い足で平らな岩を踏み鳴らしながら、踊り始めた。
タン・タタタン・タタタン・タタタン
タン・タタタン・タタタン・タタタン
長い足でリズムよく岩を踏みつけながら、それに合わせて、四本の腕をひょいひょいと振る。
みんなは、まじめな顔でいきなり踊り出したタータさんを、ぼうぜんとして見つめていた。
「何だ、こりゃ……?」
ディールが、あっけにとられて呟いた。
口には出さなかったが、隊長たちも、騎士たちも、みんな同じ気持ちだということが、表情を見ればわかった。
タン・タタタン・タタタン・タタタン
タン・タタタン・タタタン・タタタン
タータさんの踊りは、リズムよく続く。
すると、
コッ・コココッ・コココッ・コココッ
どこからともなく、かすかに、そんな音が聞こえてきた。
キツツキが、木をつついているような、グーにした手の指の角で、ノックをするときのような音だ。
「んっ!?」
隊長たちは、背中にさしていた槍に手をかけて、あたりをきょろきょろ見た。
「何だ、この音は?」
「どこから聞こえているんだ……!?」
「しーっ。」
テート、ラート、ナートさんたちが、また、長い人差し指を立てながら、言った。
タン・タタタン・タタタン・タタタン
コッ・コココッ・コココッ・コココッ
タン・タタタン・タタタン・タタタン
コッ・コココッ・コココッ・コココッ
タータさんの踊る足音と、ノックのような不思議な物音が、ちょうど、呼びかける声と、それに答える声のように、交互に響き始めた。
『なに? とんとんとんって、なに?』
リュックサックの中から、寝ぼけまなこで、ブルーが顔を出した。
「あっ、ブルー! ねえ、この音、どこから聞こえてるのか、分かる?」
『おと……?』
ブルーは、しばらく、寝ぼけまなこのまま、耳を澄ましていたけど、
『ん! わかった!』
急に、ぴん! と耳を立てて、ぱちっ! と目をあけて、勢いよく地面に飛び降りた。
そして、まだ真剣に踊り続けているタータさんの足元を、びしっ! と指さした。
『ここ!』
「だああっ。」
ディールが、一気に力が抜けたような顔になって、がくっ、と倒れる真似をした。
「それは、分かってるっつうの。そりゃ、そいつの、足音だろうがっ!」
『あしおとじゃない!』
ブルーは、ぴん! と両方の耳を立てたまま、ちっちゃな手で、たんたんたん! と、地面を叩いた。
『ここの、した! つちの、したから、おと、きこえてる!』
「えっ?」
みんなが目を丸くした、次の瞬間だ。
タータさんが立っている、平らな岩のすぐ隣の地面が、もぞっ、と動いた。
「んっ!?」
と、みんなが目を見張る中、もももももっ! と、土が小さな噴水のように、勢いよく噴き上がって、そこから、ぽんっ! と、誰かの頭が飛び出してきた!