マッサと衝撃のメニュー
どうぞ、こっちへ来てください、と、タータさんに案内されて、マッサたちは、長老の家に集合した。
長老の家は、村の真ん中の、いちばん太くて、いちばん高くて、いちばん年とった木の上にあった。
そこへ行くまでには、何本もの、細い木の板の橋や、つるで編まれたはしごや、綱渡りみたいなロープをつたっていかないといけなくて、すごく大変だった。
まるで、ものすごく大きなジャングルジムか、アスレチックみたいだ。
「おお、おお、王子様、おはようございます。よく、眠れましたかな。」
タータさんの家よりも、ずっと大きい家の入口に、長老がいて、しわしわの顔をもぐもぐさせながら、あいさつをしてくれた。
「おはようございます、長老さん。はい、おかげさまで、ぼくたち、ぐっすり眠れました!」
『おはよう! おいしいもの、どこ!?』
ブルーは、もう、朝ごはんのことで、頭がいっぱいみたいだ。
「ごちそうの用意が、できておりますよ。さあ、さあ、お入りください。」
木の板と、つると、枝でできた大広間に案内されると、そこには、もう、ガーベラ隊長や《三日月コウモリ》隊の隊長が座っていた。
「おお、王子! おはようございます。」
「おはようございます!」
マッサも、元気よくあいさつをして、ガーベラ隊長のとなりに座った。
ガーベラ隊長が、昨日の夜よりも明るい顔をしているので、マッサは、勇気を出して、聞いてみた。
「あのう、けがをした人たちの具合は、どうですか? ルークさんは、目が覚めたんですか?」
「ええ!」
ガーベラ隊長は、嬉しそうに答えた。
「ルークも、他の皆も、起きています。《草原を見張る目》のみなさんが、すばらしい手当てをしてくださったおかげですよ。……ディール、おはよう。調子はどうだ? よく眠れたか?」
「ええ、こんな時間まで、寝ちまいましたよ。……まあ、そこのもじゃもじゃが、うるさくしなけりゃ、もっとゆっくり寝られたんですがね。」
『もじゃもじゃじゃない、ブルー! おいしいもの、どこ?』
みんなが、そうやって話しているところに、
「お待たせしました!」
と、大きな大きな、木のお皿を持って、タータさんが登場した。
お皿の上には、大きなみどりの木の葉が、ふたの代わりにかぶせてある。
「みなさんのために、心をこめて、集めてきました。すごく、新鮮です。食べたら、あっというまに、元気もりもりになりますよ! さあ、どうぞ!」
タータさんが、床の上にお皿を置いて、ふたがわりの木の葉を、さっと取った。
その瞬間、
「うわあっ!?」
と、マッサは、飛び上がりそうになった。
ガーベラ隊長も、となりで、
「うっ!?」
と言った。
なんと、大きな大きなお皿の上には、まるまると太った、真っ白な芋虫が、うねうね動きながら、いっぱい入っていたんだ!
「ぎゃー!!」
と、いちばん遠慮のないディールが、いちばん大きな声で叫んだ。
「何だ、こりゃあ! 虫じゃねえかよっ! おえーっ、気っ持ちわりい!!」
ボカアッ!! と、ものすごい音がして、ディールが、ひっくり返った。
ガーベラ隊長が、げんこつで、ディールを殴ったんだ。
ディールと同じで、おえーっという顔をしていた他の騎士たちが、びくっとして、背筋を伸ばした。
「えっ……気持ち悪い、ですか?」
タータさんが、びっくりしたような、残念そうな顔になって、小さな声で言った。
「これは、ヨロイムシの幼虫です。わたしたちの、いちばんのごちそうです。おいしいし、栄養満点なんです。すごく、貴重なものだから、わたしたちは、ほんとうに特別なときにしか、食べないんですよ。」
「ああ……ええ……」
ガーベラ隊長が、大きく頷きながら、口を開いた。
でも、勇敢で強いガーベラ隊長の、おでこの横に、たらっと冷や汗が流れるのを、マッサは見逃さなかった。
隊長も、本当は、芋虫が好きじゃないみたいだ。
でも、隊長は、こう言った。
「我々のために、本当にすばらしいごちそうを用意してくださって、ありがとうございます。こんなに集めるのは、大変だったでしょう。それなのに、私の部下が、たいっへん、失礼なことを申し上げて、申し訳ない。……ありがたく、いただきます。」
ひっくり返ったディールも、他の騎士たちも、そしてマッサも、ええっ!? という顔になった。
相手がせっかく用意してくれたごちそうを、気持ち悪いと言うなんて、とっても失礼なことだということは、分かる。
でも、生きている芋虫を、そのままむしゃむしゃ食べるなんて、とてもできない! とマッサは思った。
たとえ、我慢して飲み込んでも、おえーっと吐いちゃって、もっと失礼なことになりそうな気がする。
ガーベラ隊長が、何度も、生唾を飲みこみながら、ゆっくりと、お皿の上の芋虫に手を伸ばした。
長老や、タータさんたちや、マッサや、他のみんなは、しーんとして、その様子を見つめた。
隊長は、本当に、芋虫を、食べるのかな……
と、そのとき。
横から、誰かが、ひょいっと手を伸ばして、芋虫をつまんで、ひょいっと自分の口の中に放り込んだ!
それは、なんと、《三日月コウモリ》隊の隊長だった。
ガーベラ隊長は、なにっ!? という顔で固まって、マッサは思わず、
「わあっ!?」
と叫んでしまったけど、《三日月コウモリ》隊の隊長は、平気な顔で、もぐもぐと芋虫をよく噛んで、ごくんと飲みこんで、
「うん、美味い。」
と言った。
「ほっ、ほっ、ほっ……ほんとですか!?」
「ええ。とろっとしていて、こくがあるというか……」
すると、横から、
『おいしいもの!』
と叫んで飛び出したブルーが、芋虫を、むしゃむしゃむしゃむしゃ! と食べ始めた。
「わーっ!? ブルー、大丈夫!? そんな……そんなに、たくさん食べて、お腹が痛くならない?」
『おいしい! ウフフフーン……』
「ほんとにっ!?」
「私も、もう一匹いただこうか。」
「えっ!? ほんとに、おいしいんですか!?」
マッサは、思わず、大きな声でそう聞いてしまった。
てっきり、《三日月コウモリ》隊の隊長は、食べないと失礼になるから、無理をして、平気なふりをして食べているのかと思った。
「ええ、美味いですよ、甘くて。」
「そうでしょう、そうでしょう!」
ブルーと、《三日月コウモリ》隊の隊長の食べっぷりを見て、長老やタータさんたちは、嬉しそうな笑顔になった。
「よかった、よかった! ……ああ、そうだ、果物もありますよ。さあ、みなさん、どんどん持ってきますから、食べてください!」
「果物も、あるのかよっ!? それなら、最初から、言ってくれよなあ。」
と、頭をさすりながら、ディールが起き上がってくる。
結局、芋虫は、《三日月コウモリ》隊の隊長とブルーが、長老やタータさんたちと分け合いながら食べて、マッサたちは、後から運ばれてきた果物を、おなかいっぱい食べた。
好き嫌いを、少しも、まったく、ぜーんぜんしないブルーや《三日月コウモリ》隊の隊長は、本当にすごいなあ、と、マッサは尊敬した。
おかげで、長老さんたちとも、もっと仲良くなれたみたいだ。