マッサと「あかずの間」のひみつ
ガチャリ!
鍵が回ったときよりも、ずっと重々しい手応えがあって、ドアが開いた。
マッサは、慎重に、ゆっくりと、ドアをあけていった。
部屋の中は、思った通り、真っ暗だった。
ろうかのあかりが、部屋の中にさしこんで、小さなほこりの粒が、運動場のすなぼこりみたいに舞い上がっているのが見えた。
「おえっ。」
マッサは、ちょっと考えて、自分の部屋にもどって、たんすから、タオルを一枚、取ってきた。
それを、顔にまきつけて、鼻と口を隠して、マスクのかわりにした。
これで、ほこりを吸い込まずにすむ。
マッサは、鍵穴から鍵を抜き取って、しっかり、ズボンのポケットに入れた。
そして、スニーカーをはいて、部屋の中に入り、そうっと、ドアをしめて、ガチャンと、中から鍵をかけた。
部屋の中は、真っ暗になった。
奥の方には、窓があるみたいだったけど、分厚いカーテンがかかっているみたいで、隙間から、細い細い光が、ほんのちょっと、もれているだけだった。
「しまった。」
マッサは、小さい声でつぶやいた。
「先に、懐中電灯を、出しとけばよかった。」
リュックサックを肩からおろして、中身を手探りでごそごそやって、何とか、懐中電灯をひっぱり出し、スイッチを入れた。
丸い、黄色い光の輪が広がって、灰色のほこりだらけの床を照らした。
「おえっ。」
マッサが立っているところにも、灰色のほこりが、びっしりつもっていて、ふんだところだけ、くっきり足跡がついていた。
タオルのマスクをしていても、ほこりっぽいにおいがする。
こんなところに、ずっといたら、ほこりを吸い過ぎて、病気になってしまうかもしれない。
少し心配だったけど、マッサは、心を落ち着かせて、まわりの様子を、懐中電灯で照らしてみた。
部屋の中には、大きなたんすみたいなものや、大きな箱みたいなものや、たぶん、いすかな? というような、いろんなものが、ごちゃごちゃと置いてあった。
でも、そういうものが、何なのかは、よく分からなかった。
なぜかというと、全部のものに、上から布のカバーがかぶせてあって、だいたいの形しかわからなかったからだ。
マッサは、物と物のあいだに、やっと通れるくらいあいた通路を、そろそろと通って、たぶん窓かな? と思う、カーテンの隙間から光がもれてくるほうに近づいていった。
近づいてみると、それはやっぱり、分厚いカーテンがかかった窓だった。
カーテンの隙間からのぞいてみると、下のほうに、家の横の道が見えた。
おとなりの家のおばあさんが、ふわふわの犬を二匹つれて、こっちへ歩いてくるのが見えた。
マッサは、あわててカーテンの隙間から顔をひっこめ、懐中電灯を下に向けた。
この窓から、下の道が見えるということは、下の道を歩いている人からも、窓からのぞいているマッサの顔が見えるということだ。
この部屋に、マッサがいるということを、誰にも、知られるわけにはいかない。
マッサは、細い通路をそろそろ歩いて戻って、今度は、多分いすかな? と思うものの前に立った。
長いあいだ、この部屋にいることになるんだから、座ったり、寝たりすることができる場所がないと困る。
ほこりだらけの床には、できるだけ、というか、ぜったい、座りたくなかった。
布のカバーの上にも積もったほこりを、できるだけ舞いあがらせないように、ずるずる、ずるずる、ゆっくりとカバーをずらしていくと……
「うわあ!」
マッサは、びっくりしてしまった。
中から出てきたのは、いすは、いすでも、普通のいすじゃなかった。
王様が座っていてもおかしくない、めっちゃくちゃ高級そうな、りっぱないすだったのだ。
どうして、こんなものが、うちにあるんだろう。
マッサは、ふしぎだったが、ああ、と、ちょっと納得した気持ちになった。
おじいちゃんが、ぼくを、この部屋に近づけたがらなかったのは、こういう、高級なしなものを、ぼくがさわって、壊すと思ったからかもしれない。
そんなこと、しないのにな、と思いながら、マッサは、他のもののカバーも外してみよう、と思った。
もしかしたら、この部屋には、こういう高級なものが、いっぱい集めてあるのかもしれないからだ。
マッサが、いすのとなりにあった、大きな箱みたいなものから、ずるずる、カバーを取ってみると……
「うわあぁ!!」
マッサは、さっきよりも、もっと、びっくりしてしまった。
今度、出てきたものは、いすどころじゃなかった。
なんと、なんと、宝箱だ!
海賊船に、つんでありそうな、大きな大きな宝箱が、でーん! と、置いてあったのだ。
「すごいや!」
おはなしの中でしか見たことがなかった、宝箱の本物に、マッサは、すっかり興奮してしまった。
調べてみると、宝箱には、鍵がささったままだった。
どきどきしながら、その鍵をひねると、ガチャン! と、鍵があく音がした。
マッサが、重いふたを、がんばって、ぎいいいいーっと、持ち上げてみると……