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マッサ、目を覚ます


 かすかに聞こえてくる、鳥の鳴き声で、マッサは、目を覚ました。

 毛布があったかくて、気持ちがいい。

 夢も見ないで、ぐっすり寝ていた。

 今、いったい、何時だろう?

 今日は、日曜日だったっけ……?


「ん!?」


 マッサは、がばっと起き上がった。

 そこにあったのは、おじいちゃんの家の、自分の部屋――じゃなくて、木とつるでできた、タータさんの家の中の景色だった。

 もう、朝どころか、お昼近くになっているみたいで、外の明るい光が、窓や、屋根や壁のすきまから射し込んでいる。


 ふと、となりを見たら、マッサと同じように毛布にくるまって、ディールがぐっすり寝ていた。

 マッサが起きて、ごそごそ動いたのに、全然、目を覚ます様子がない。

 ちょっと心配になって、耳を澄ましてみたら、ぐーっ、ぐーっ、という、低い寝息が聞こえたので、マッサは、ほっとした。

 ディールは、旅立ちの準備のために、徹夜で働いて、それから、一日中飛んで、昨日も、夜遅くまで起きていたんだから、今、ぜんぜん目が覚めないのも、無理はない。


 マッサは、ディールを起こさないように、そうっと、自分の毛布をたたんだ。

 部屋の中に、タータさんはいなかった。

 枕元に、木を削って作ったカップが置いてあって、その中に、お茶みたいなものが入っていた。

 そういえば、昨日、寝る前に、タータさんが、お茶をいれますからね、と言っていたような気がする。

 きっと、マッサが寝ちゃったから、そのお茶を置いておいてくれたんだろう。

 

 マッサは、カップを持ち上げて、冷たくなったお茶のにおいをかいだ。

 少しだけなめてみると、苦くなくて、飲みやすかった。

 喉が渇いていたから、一気に全部飲もうと思ったけど、底のほうに、ちょっと残しておいた。


 リュックサックに耳を近づけて、耳を澄ましてみると、中から、ぷしゅー、ぷしゅー、と、小さな寝息が聞こえてくる。

 ブルーも、まだ、ぐっすり寝てるみたいだ。

 ブルーが起きたときに飲めるように、リュックサックのそばに、お茶の残りを置いて、マッサは、そうっと立って、部屋の中を歩き回ってみた。


 床の上には、ものがほとんど置かれていないかわりに、どこの壁にも、カラフルな布がかけてある。

 布には、きれいな色の糸で、草花や鳥の刺しゅうがしてあった。

 順番に見ていくと、そこだけ何もかかっていない、壁のかたすみに、ドアみたいなものがついていた。

 そのドアを、そうっと押してみると、キイーッと、簡単にあいた。

 マッサは、そこから、ちょっと外に出てみようとして――


「わっ、とっ、うわぁっ!?」


 一歩、足を踏み出しかけたところで、そこが、木の上の、何もない空中だということに気がつき、あわてて、壁にしがみついた。

 あぶない、あぶない!

 もうちょっとで、地面まで、真っ逆さまに落っこちるところだった。


 まあ、落ち着いて考えたら、落っこちても《守り石》が守ってくれるわけだけど、戦いとかならともなく、ぼーっとしていて木の上から落っこちた、なんて、ひょっとしたら、《守り石》も、あきれて、守ってくれないかもしれない。

 それにしても、どうして、何もない空中に向かって、ドアがついているんだろう?


「おや、おや!」


 と、上のほうから、驚いた声が聞こえた。


「王子様じゃ、ないですか。おはようございます。」


 そう言いながら、屋根の上の、木の葉のあいだから、タータさんが、ひょっこりと顔を出している。

 タータさんは、四本の腕と両足を使って、屋根の上から部屋の中へと、かんたんに這い降りてきた。


「タータさん、このドアは、屋根の上にあがるために、ここについてるんですか?」


「ええ、そうですよ。この上には、わたしの家の、見張り台があります。木の葉に隠れながら、空を見張ることができるから、便利ですよ。昨日の夜は、あれから、化け物鳥は姿をあらわしていません。」


「えっ、まさか、タータさん、徹夜で、見張りをしてたんですか?」


「徹夜で? いえ、いえ、とんでもない。そんなの、体に悪いですからね。一族のみんなで、交代しながら見張っていたんですよ、もちろんね。」


「そうですか……あっ、あの、他の人たちは、どうしてますか?」


「他の人たち、というと?」


「この家には、ぼくと、ブルーと、ディールさんしか、いませんよね。他の家に泊めてもらってるみんなは、どうしてるかなと思って。ほら、けがをしてる人たちとか、ガーベラ隊長とか……」


「ああ!」


 タータさんは、四つの手のひらを、二つずつ、ぱんと合わせて、にっこり笑った。


「大丈夫、大丈夫。ついさっき、様子を見てきましたが、みなさん、ぐっすり眠っていましたよ。けがをした人たちもね。ここに着いてすぐ、わたしたちが手当てをして、痛みを軽くする薬草と、体が元気になる薬草の煎じ薬を飲んでもらいましたから、もう大丈夫。もうすぐ、みなさん、目を覚ますでしょう。……ああ、そうだ、それまでに、おいしいものの用意をしないと!」


『おいしいもの!?』


 急に、ブルーがリュックサックの中から飛び出してきて、たたたたたーっと、そのへんを走り回ってから、ぴたっと止まった。


『あれ、マッサ、おはよう! ……あれ! しらないひと、いる! おいしいもの、ない!』


「おや、おや、おや。すごく元気ですね、この、白い、もこもこさんは……」


『もこもこさんじゃない! ぼく、ブルー!』


「へえ、そうですか。もこもこの、ブルーさんですか。」


『もこもこじゃない! ブルー!』


「……うっ……? 何だよ、ったく……朝っぱらから、うるっせえなあ!」


「あっ、ディールさん、おはようございます!」


 騒いでいるうちに、結局、ディールも起きてきた。

 タータさんは、


「おいしいものを、いっぱい、とってきますからね!」


 と、はりきって、床の穴から降りていった。

 さあ、これから、朝ごはん――いや、お昼ごはん? の時間だ!


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