マッサたち、話し合う
洞窟の中でおこした、小さな小さな焚火を囲み、持ってきた食糧をかじりながら、作戦会議がはじまった。
マッサは、出発の前に、コックさんたちがくれたりんごのことを思い出し、
「これも食べてください。」
と、みんなに分けた。
「おいおい、こんなもん、荷物に入れてたのかよ! 道理で、なんか重いと思ったぜ。」
と、文句を言いながら、ディールは器用に短剣でりんごを切り分けて、
「ほら、お前らも食って、元気出せ。」
と、何とか起きている、けがをした仲間たちの口に、小さく切ったりんごを突っ込んだ。
「ブルー、はい、これ。翼を運ぶのを、手伝ってくれてありがとう。」
マッサは、ディールが切ってくれたりんごのかけらを、自分のぶんも、ブルーにあげた。
『りんご! おいしい! ……たべたら、げんきでる?』
「うん、食べたら、元気が出るよ。……あれ、ブルー、どこに行くの?」
ブルーは、りんごのかけらを持ったまま、たたたたっ、と走って、
『はい! りんご! げんきでる!』
と、ちっちゃな両手で、けがをした騎士たちに向かって、りんごを差し出した。
痛そうにうなりながら、座っていた騎士たちも、これには、思わず笑顔になった。
「ありがとう、もじゃもじゃくん。」
『もじゃもじゃじゃない! ブルー!』
ブルーが、りんごを配ったり、怒ったりしているあいだにも、ガーベラ隊長と、《三日月コウモリ》隊の隊長は、難しい顔で話し合っていた。
「さて、どうする。」
と、《三日月コウモリ》隊の隊長がきいて、
「ううん。」
と、ガーベラ隊長がうなった。
「最初の夜に、もう、五人もやられてしまうとは……作戦の立て方が、甘かった。みんな、本当にすまん。」
「ひへ、ひへ。」
りんごを口いっぱいに詰め込んだまま、ディールが頭をふった。
たぶん、「いえいえ。」と、言ったんだろう。
ディールは、何とか、りんごを飲みこむと、
「俺たちだって、夜の戦いに慣れてなかったせいで、思った以上に、うまく動けなかった。隊長だけの責任じゃない。」
「……いやいや、こんなふうに、過ぎたことを言い合っていても、はじまらない。」
《三日月コウモリ》隊の隊長が言った。
「問題は、今から、私たちはどうするのか、ということだ。いったん、砦に引き返し、態勢を立て直すか?」
「しかし……」
ガーベラ隊長が、ますます難しい顔になって言った。
「あれだけ話し合って、今、出せる、ぎりぎりの人数が、十二人ということになったのです。仮に、戻って、もう一度、十二人の態勢を組んだとしても、また、同じことになってしまったら……ただでさえ、五人もけが人を出してしまったというのに……」
「だが、このまま旅を続けることは、不可能だぞ。」
《三日月コウモリ》隊の隊長が、はっきりと言った。
「十二人でさえ、難しかったのだ。七人では、王子をじゅうぶんに守りながら旅を続けることはできない。」
「それは……そうですね。やはり、一度、戻るしかないのか……。しかし、」
ガーベラ隊長が、ものすごく辛そうな声になって、言った。
「七人で、王子と、五人を、運びながら飛べるでしょうか?」
横で話を聞いていたマッサは、あっと思った。
これから、砦に戻るとしても、丸一日以上は空を飛ばないといけない。
七人で、マッサと、他の五人を運ぶということは、ほとんど全員が、誰かをぶら下げて飛ぶということだ。
マッサは、子供だから、まだ体が軽いけれど、大人の、それも体を鍛えて筋肉のある男の人の重さを、ぶら下げて飛ぶなんてことが、できるんだろうか。
それに、その人たちは、重いけがをしているのに、安全にぶら下げて飛ぶことができるんだろうか。
そうだ、もしも、そこに、また、化け物鳥が襲ってきたら?
飛んでいるほうの人が、やられたら、運ばれている人も、一緒に落ちてしまう。
一人だけのときより、重いし、バランスもとれない。
一人だけなら、落ちても、命はなんとか助かったけど、二人いっしょに落ちたら、助からないかもしれない……
「隊長たち、動けるみんなで、先に、王子を連れて、とりでに戻ってください。」
急に、腕を折ってしまった騎士の一人が、そう言った。
「俺たちは、この洞窟に残ります。」
「ばかなことを言うな。」
ガーベラ隊長が、半分笑ったような、半分怒ったような顔で、言った。
「お前たちは、けがをして、じゅうぶんに戦うこともできないじゃないか。ここに残っていて、化け物オオカミに嗅ぎつけられたら、反撃もできずに、食われてしまうんだぞ!」
「平気です。」
腕を折った騎士は、本当に平気そうに、そう言った。
「片手でも、剣は使えます。迎えに来ていただけるまで、ねばっておきますよ。」
「だめですよ、そんなの!」
マッサは、思わず叫んだ。
子供のマッサが聞いたって、無理をして嘘をついているということが、すぐに分かった。
化け物オオカミというやつを見たことはないけど、けがをした人が、片手で戦って勝てるようなやつじゃないっていうことは、ちょっと想像すれば、すぐに分かる。
この人は、マッサたちを、少しでも安全に砦に帰らせるために、自分たちは、ここで食べられてもいいって思っているんだ。
「そんなの、絶対にだめですよ……みんなで、いっしょにいないと!」
「王子、そんなふうに言ってくださって、ありがとうございます。でも、それは、無理です。」
腕を折った騎士が言った。
「それとも……何か、他に、もっといい考えが、ありますか?」