マッサ、祈る
「はぁー!?」
ディールは、おまえ何言ってんだ、という調子で、聞き返してきた。
「この! ロープを! 槍で、切ってください!」
マッサは、喉が破れそうになるくらい、思いっきり叫んだ。
「この、ロープを、切って! ぼくを、地面に落っことして! 身軽になって、あそこに戻って、みんなを、助けてあげてください!」
「ばっかやろおおおお!」
ディールが、また叫んだ。
「こんな高さから落っこちたら、おまえ、ぺっしゃんこになって死ん――――あっ。」
「そうです!」
マッサは、叫んだ。
「「ぼくは『守り石』を持ってるんだから、この高さから、地面に落っこちても、石が守ってくれて、助かるはずです! だから、はやく! はやく、みんなを!」
「……よおおおぉし、分かったっ!」
ディールが、ものすごく気合いの入った声で叫んで、槍をかまえた。
「『守り石』を握れ、絶対に、はなすなよ! いくぞ! さん! にい! いーち!」
ゼロ、というディールの声は、マッサの耳には入らなかった。
槍がサッと振られ、ぶつっ、という感触が伝わってきて――
「うわあああああぁぁぁぁぁ!」
ジェットコースターが猛スピードでくだるときみたいに、おなかがふわぁっとする感触があって、自分たちが、石みたいに落っこちていくのが分かった。
マッサは、片手で『守り石』を胸のところにぎゅうっと押さえ、もう片方の手で、ブルーを入れたリュックサックを思いっきり抱きしめて、目をつぶり、祈った。
どうか、お願いです、守り石よ。
どうか、ぼくたちを守ってください――
ピシャアアアアアン!
聞いたことのある音が響いて、十秒くらい、マッサは、そのまま、じっと動かないでいた。
それから、おそるおそる、そーっと、右目だけ、開けた。
それから、同じくらい、そーっと、左目も開けた。
優しい緑色の輝きが、マッサたちの体を包み込んでいる。
その光が、ゆっくりと薄れて、マッサは、自分が、暗い草原に、二本の足でしっかりと立っているのを発見した。
マッサたちが乗っていたかごは、もとの形がまったく分からないくらい、めちゃめちゃに砕け、壊れていた。
『守り石』が、マッサたちの命を守ってくれたんだ!
「大丈夫だった! 大丈夫だった! はやく! はやく! はやく!」
ぴょんぴょん飛び上がって手を振りながら、マッサは、真上を飛んでいるディールたちに叫んだ。
そんなマッサの姿が、ちゃんと見えたのか、ディールたちは、すごい勢いで、ぎゅうん! とターンして、ガーベラ隊長たちが戦っているほうに戻っていった。
「がんばれ、がんばれ、がんばれ! ……あっ、そうだ、ブルー、大丈夫!?」
マッサは、あわてて、お腹にかかえていたリュックサックを開けて、ブルーの体を持ち上げてみた。
『キュウウウウゥ……』
リュックサックに入ったまま、急に空の上から落っこちたのが、こわすぎたんだろう。
ブルーは、完全に目を回して、白いおもちみたいに、びろーんとのびていた。
「ブルー、ブルー! しっかりして! おいしいもの、あるよ!」
『はっ! おいしいもの、ある!?』
ブルーの目が、ぱちっと開いた。
『あれ、マッサ、おはよう! ……あれ、あれ? おいしいもの、ない!』
「うん、ごめん、今、どうしても起きてほしかったから、嘘ついちゃった……
でも、今、ほんとに大変なんだ! ほら、あそこ!」
マッサが、遠くの空を指さすと、ブルーは、暗いところでもよく見える青い目を、ぱちぱちっとさせて、じーっと、そっちを見た。
『……あっ! あそこ、いっぱい、とんでる!』
「そうなんだ。ぼくたちだけ、こっちに逃がしてもらったんだけど、あそこで、ガーベラ隊長やディールさんや、他のみんなが、化け物鳥と戦ってるんだ!」
『とんでる、とんでる、とんでる……あっ、おちた!』
「ええっ!? どっち!? 騎士さんたちか、化け物鳥か、どっちが落ちたの!?」
『こわいやつ、おちた。……あっ! また、こわいやつ、おちた!』
「やった! ディールさんたちが戻ったから、みんなのほうが、有利になったんだ!」
『あっ……でも、はねついたひと、おちた。ひらひらって……』
「ええっ!?」
『こわいやつ、にげていく! いっぱい、にげていく。はねついたひとたち、そらにいる。あっ、おりる……じめんに、おりていく!』
「ぼくたちも、行こう!」
ブルーをリュックサックの上にのせて、マッサは、叫んだ。
「みんなが地面におりてきたのは、落ちた人たちを助けるためだ。ぼくたちも、すぐに行って、手伝わなくちゃ!」