表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/245

マッサ、ショックを受ける


 化け物鳥のむれが来たぞーっ、というディールの叫び声がまだ終わらないうちに、騎士たちは全員が目を覚まして、戦いのための態勢に入っていた。

《銀のタカ》隊の騎士たちが、長い槍を、ぶうんと振って、翼同士をつないでいた、二本の細長い棒を切り離す。

 それまで、ひとかたまりに集まって飛んでいた騎士たちは、ばあっとお互いに距離をとって、マッサたちのまわりに広がった。


 ピピピーッ、ピピピーッ!


 鋭い『空笛』の音のあいまに、


 ギャーッ、ギャーッ、ギャギャギャーッ!


 遠くから、不吉な鳴き声が聞こえはじめた。

 化け物鳥の声だ。


 マッサは、片手で、リュックサックに飛び込んでしまったブルーを抱きかかえ、もう片方の手で、かごのふちをつかみながら、必死にまわりを見回した。

 真っ暗で、ほとんど、なんにも見えない。

 化け物鳥が、どっちから襲ってこようとしているのかも、マッサには分からなかった。

 でも、ギャーッ、ギャーッという声だけは、どんどん近づいてくる。


 マッサの体は、ぶるぶる震えだした。

 マッサは、びっくりした。

 自分では、そんなつもりがないのに、こわすぎて、体が、勝手にがたがた震えている。

 もう、戦いが、はじまってしまう!


 ピピ、ピピ、ピピーッ!


 また、鋭い『空笛』の音が聞こえた。

 その瞬間、マッサたちを乗せたかごは、びゅーんと、すごいスピードで、騎士たちがいるところから、離れはじめた!


「えええっ!?」


 マッサは、びっくりして、上を見上げた。

 ディールと、もう一人の若い騎士が、自分たちを運んで飛んでいる。

 どうして、今、みんなから離れていくんだ?

 これから、戦いが始まるのに!


「ディールさん! どうしたんですか!? 戻って! 化け物鳥が来てるのに、みんなを置いていって、どうするんですか!?」


「ばっかやろおおおお!」


 上から、ディールの怒鳴り声が降ってきた。


「おまえを、敵の手に渡すわけには、いかねえだろうがぁ! 隊長たちが、あそこで戦って、奴らを食い止める! そのあいだに、俺たちが、おまえを運んで逃げるんだ!」


「……そんなぁ!?」


 マッサは、ものすごいショックを受けた。

 必死に首をねじって振り向くと、暗い中で、月あかりに照らされて、化け物鳥と、騎士たちの翼が、入り乱れて飛びかっているのがかすかに見えた。

 かすれた『空笛』の音と、化け物鳥たちの叫び声も、いりまじって聞こえる。

 それが、あっというまに、遠ざかっていく。


 あんなに、必死に戦ってくれているガーベラ隊長や、他のみんなを置いて、自分だけ逃げるなんて!

 ……あっ! まるで、紙飛行機が落ちるみたいに、一人、やられて、落ちていった!


「ディールさん! 戻って! 戻ってください!」


 マッサは、かごのふちをつかんで立ち上がり、必死に叫んだ。


「ぼくは、大丈夫! 『守り石』があるから、けがなんかしないよ! だから、戻って! ガーベラ隊長たちを助けて、一緒に戦ってあげてよ!」


「マッサ、この、アホウ!」


 ディールは、本気で怒っている声で怒鳴り返してきた。


「俺だって、戻れるもんなら戻りてえよ! だが、おまえは、この国の希望だ。どうしても、おまえを魔女たちの都に連れていかなきゃならねえんだ!

 確かにおまえには『守り石』があるが、その石は、そうやって身につけているあいだしか、働かねえ!

 おまえが、もしも、化け物鳥に、誘拐されて、大魔王のところに連れていかれて、『守り石』を取り上げられてから、殺されちまったら、どうする!?

 そうなったら、大魔王をやっつけることは、もう、誰にもできなくなるんだぞ!」


 マッサは、さっきよりも、もっと大きなショックを受けた。

 そうか。この石を、取り上げられてしまう、っていう可能性も、あるんだ。

 そうなったら、マッサには、もう、なんにもできない。

 かんたんに、殺されてしまうだろう……


「でも!」


 マッサは、叫んだ。


「このまま、ガーベラ隊長や、みんなを見捨てるなんて、できないよ! ディールさん、やっぱり、戻ってください!」


「だああぁぁっ! おまえ、俺の話を聞いてなかったのかよ!? 俺たちは、おまえを、戦いの中に連れて戻ることは、できねえんだ――!」


 そのときだ。

 マッサは、ふと、何かを思いつきそうになった。

 まだ、怒鳴っているディールの声も、集中しすぎて、聞こえなくなった。


 何か……もうちょっとで……いいことを、思いつきそうな気がする。

 マッサは、自分たちが乗っているかごと、ディールたちをつないでいるロープを見た。

 ロープ。


「そうだ!!」


 マッサは叫んで、ロープをつかみ、大きく揺さぶりながら叫んだ。


「ディールさん! これ、切ってください!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ