マッサたち、襲撃される
「ディールさーん!」
「ああーん? 何だあ!?」
マッサの頭の上で、特大のあくびをしたディールが、めんどうくさそうに答えてきた。
「ディールさんたちは、こうやって、ぼくをぶら下げてくれてますけど、いつ、どうやって、寝るんですかーっ!?」
まさか、ぼくをぶら下げたまま、寝ちゃうのかな? と、マッサは、ちょっと不安になった。
それはちょっと……いや、けっこう、こわい気がする。
「ああ、俺たちが寝るときは、ぶら下げる役を、交代する! おまえは、気にせず、寝ろ!」
「そうですか……」
あんまり、大きな声を出していたら、みんなが寝る邪魔になる、と気付いて、マッサは、それ以上は言わなかった。
でも、「ぶら下げる役を交代する」って……いったい、どうやって、交代するんだろう?
このかごをぶら下げているロープを、いったん、ベルトから外して、他の人に渡すっていうことかな。
そのときに、もしも、手が滑ったりしたら、どうするんだろう……?
「ふわあああああ。」
いろいろ考えているうちに、マッサも、眠くなってきた。
もう、とっくに、太陽は沈んでいる。
空がきれいな深い青色になったのも一瞬で、あたりは、完全に、真っ暗闇になっていた。
「うわあ……」
あらためて空を見上げると、そこは、最高級の真っ黒な布に、最高級のダイヤモンドをいっぱいにばらまいたような、ものすごくきれいな星空になっていた。
マッサが元いた世界とちがって、地面に、家や工場や車のライトなんかの、光るものがひとつもないから、月と星の光が、ものすごく強く見える。
マッサは、かごの中で、しっかりと毛布にくるまり、ブルーを入れたリュックサックをお腹にのせて、クッションの上にあおむけに寝転がって、星空の美しさに見とれた。
でも、その五秒後くらいには、また、特大のあくびが出て、まぶたが、すうーっと降りてきて、十秒後には、ぐっすり、眠りこんでしまった。
眠りながら、マッサは、すごくこわい夢を見た。
マッサは、小学校の教室にいて、外で、ものすごい風がびゅーんびゅーんと吹いている。
風に吹き飛ばされて、いろんなものが飛んできて、窓ガラスにばんばん当たって、窓ガラスが割れて、教室の中にまで、ものすごい風が入ってきた。
クラスの友達が、すごい風に吹き飛ばされてしまって、マッサは、必死に手を伸ばしたけど、届かない。
泣きながら、外を見たら、おじいちゃんや、ブルーが、風に吹き飛ばされて、飛んでいってしまうところだった。
「おじいちゃーん! ブルー!」
マッサは、必死に叫んだけど、おじいちゃんも、ブルーも、たちまち、遠くに吹き飛ばされて、見えなくなってしまった……
『……ッサ! マッサ! マッサ!』
何回も、呼ばれて、ぺちぺちぺちと、ほっぺたを叩かれて、マッサは、はっと両目を開いた。
一瞬、自分がどこにいるのか、全然、分からなかった。
あたりは、真っ暗で、何も見えない。
『マッサ、おきた?』
目の前に、ぼうっと、白いものが見えて、きらきら光っている、青い目が見えた。
ブルーだ。
お腹の上に抱きかかえていたリュックサックから、ブルーが、半分だけ体を出して、マッサを起こしてくれたんだ。
『マッサ、どうしたの? ぐぐぐぐぐーっ、って、いってた! こわい? いたい?』
「ブルー!」
マッサは、ブルーを、ぎゅっと抱きしめた。
よかった、ブルーが、吹き飛ばされていなくて!
あれは、ただの、こわい夢だったんだ。
ブルーは、急に強く抱きしめられて、ぎゅーっとなって、
『ググググググーッ……』
と言った。
「ああ、ごめん! ぼく、今、こわい夢を見てたんだ。……あれから、何時間くらい、飛んだんだろう?」
まだ、完全に夜だ。
月と星に照らされて飛ぶ騎士たちの様子は、マッサが寝始めたときと、何も変わっていないように見える。
マッサは、ゆっくり起き上がって、かごの外の様子を見ようとした。
そのときだ。
急に、がくん! と、かごが大きく揺れた。
ピピピピピピィーッ!!
『空笛』の、耳をつんざくような、甲高い音が響いて、騎士たちの列が、ぐわっと大きく動いた。
「敵だ、敵襲だーっ! 化け物鳥のむれが、来やがったぞーっ!」