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マッサ、おわかれをする


 朝ごはんを終えて、リュックサックをしっかりかついだマッサが、騎士たちといっしょに建物の外の中庭に出ると、


「……おお、見ろ! あれが王子様だ!」


「どれ? どこ? 見えない!」


「わたしたちの王子様が、生きていらっしゃった!」


「これで、この国は、もう大丈夫!」


「王子様、ばんざーい!」


「ばんざーい!」


 とりでの中庭は、町じゅうから集まってきた人たちで、いっぱいになっていた。

 みんな、拍手したり、嬉しそうに大声で叫んだりしている。

 まるで、お祭りみたいな大騒ぎに、マッサは、びっくりした。

 朝早くて、まだ、太陽も出ていないのに、こんなに大勢の人たちが、見送りに来てくれるなんて。


「みな、王子がお戻りになったという噂を聞いて、喜んでいるのです。」


 マッサの後ろから、騎士団長が言った。


「みな、あの予言を知っているからです。『王子と七人の仲間が、大魔王を倒し、世界を救う』と――」

 

 そのときだ。


「おーい、おーい! マッサ!」


 マッサを囲んで集まった大勢の人たちのあいだから、聞いたことのある声が聞こえた。


「あっ! あの声! ……ガッツ!」


 ガッツの大きな体が、大人たちのあいだを、ぎゅうぎゅう押されながら、何とかすり抜けてきて、マッサの前に立った。


「おい、マッサ、聞いたぜ! おまえ、王子様だったんだってな!」


「うん……なんか、そうだったみたい。あっ、そうだ! 『青いゆりかごの家』のみんなは、無事だった!? 建物は!?」


「ああ、安心しろよ。俺が帰ったときも、みんな、ぴんぴんしてたぜ。建物も、ちょっと壁のはしっこが欠けたくらいで、大丈夫だ。すぐに直せる。」


「よかったあ……」


 マッサは、ほっとして、座りこみそうになった。

 その腕を、ガッツが、ぐっと力強くつかんだ。


「おい、マッサ! 王子! たのむぞ。おれたちの代わりに、ぜったい、大魔王をやっつけてくれ! おれたちみんなの、家族のかたきをうってくれよ!」


「うん……」


 ガッツの真剣な顔を見て、マッサは、自分も真剣な気持ちになった。

 ぼくが、大魔王をやっつけて、この世界が平和になれば、もう、ガッツたちは、夜なかに鐘の音で叩き起こされたり、化け物鳥に食べられそうになったりしなくてすむんだ。

 ぼくは、王子だったんだから、ぼくが、がんばらないといけない!


「ブルーも、元気でな。しっかり、マッサをてつだえよ。」


『ぼく、マッサをてつだう! フンムッ!』


 ブルーは、ちっちゃな腕をまげて、力こぶを作るポーズをしたけど、白い毛がふわふわしているから、力こぶは、あんまり、よく分からなかった。


「マッサー! マッサ王子! これを!」


 また、聞いたことのある声が聞こえてきて、ぽんぽんぽーん! と、りんごがたくさん飛んできた。


「わっ、わっ、わっ!」


 マッサは、ガッツに手伝ってもらって、飛んできたりんごを受け止めた。

 そのうちのひとつが、もう少しで、地面に落っこちそうになったけど――

 パシッ!


『フフン!』


 マッサのリュックサックから飛び降りたブルーが、みごとにキャッチして、りんごは、割れずにすんだ。


「王子! 店を手伝ってくれて、ありがとうございましたーっ! 大魔王をやっつけたら、また、うちの店に来てくださーい!」


「あっ、コックさんたちだ! ありがとうございまーす! ぜったい、また来ます!」


 マッサが、リュックサックの中に、もらったりんごを大事にしまっていると、


「マッサおにいちゃーん!」


 またまた、聞いたことのある声が聞こえた。

 大人たちの足のあいだから、どやどやどやどやーっと、大勢の小さな子供たちがすりぬけてきて、マッサにとびついた。


「マッサおにいちゃん、おうじさまだったの?」


「だいまおう、やっつけてくれるの?」


「そしたら、もう、こわいやつ、こない?」


「……うん。ぼく、がんばるよ! 大魔王を、やっつけて、みんなが、安心して寝られるようにするからね!」


「マッサ王子、そろそろ、こちらへ。」

 

 騎士団長が言い、町の人たちが、ざわざわしながら、少しずつ下がって、場所をあけた。

 マッサの前に、鎧を着た十二人の騎士たちが並んだ。


「マッサ王子。我々が、王子を、魔女たちの都にお連れします!」


 先頭に立って、たのもしい笑顔を見せているのは、ガーベラ隊長だ。

 そのとなりに立って、何だか、めんどうくさそうな顔を見せているのは――


「あっ、ディールさん! ディールさんも、来てくれるんですか!?」


「ああ? しかたねえだろうが……じゃなかった。あー……しかたない、でしょうが? ガーベラ隊長が行くってんだから、おれも、行かねえわけにはいかねえだろう……いや、ない、でしょう? ……あー……まあ、正直、すっげえ、めんどくせえけどな。」


「こらっ!」


 最後は、もう、言葉づかいを直すのをあきらめたディールの頭を、横から、ガーベラ隊長が、ごんと叩いた。


「いてえっ! ……隊長、いつもいつも、おれの頭を叩くのはやめてくださいや。頭が悪くなったら、どうするんです?」


「それなら、まずは、自分で言葉づかいをきちんとしろ! 王子の前だぞ。」


「王子、ねえ。」


 ディールは、どことなく、納得いかなさそうな顔をしている。

 マッサのためについてきてくれる、というよりは、本人が言っていたとおり、ガーベラ隊長が行くから、自分も行く、という気持ちみたいだ。

 まあ、どういう気持ちでも、ついてきてくれる、というだけで、ありがたい。

 マッサは、感謝の気持ちで、騎士たち全員の顔を見渡した。


「ええと、それで、横にいるみなさんは、《銀のタカ》の隊員の人たち……で……あれ? 後ろの列のみなさんは?」



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