マッサ、名案を出す
「あっ、そうだ! はい、ぼく、思いつきました!」
マッサは、また、先生に問題を出されたときみたいに、元気よく手をあげて言った。
「よく考えたら、ぼくは今、『守り石』を持ってるでしょ? だから、ぼくは絶対、けがをしないんだから、戦いになっても、ぼくを守ることは、気にしなくていいですよ。」
「ああ、そうか!」
「なるほど。そういえば、そうですな!」
ガーベラ隊長と騎士団長が、顔を見合わせて、叫んだ。
「それならば、いけるかもしれません。」
「よし、他の騎士たちも、そろそろ砦に戻ってくるころだ。今すぐに、みなを呼び集めよう。王子様を、魔女たちの都にお連れするために、特別部隊を組織する。明日の夜明けには、出発だ! 準備にとりかかれ!」
『おうっ!』
「……ええっ!?」
騎士団長の号令で、ガーベラ隊長や他の大人たちがいっせいに動き出し、マッサは、びっくりして叫んだ。
「夜明けには、出発!? それ、いくら何でも、はやすぎませんか? 騎士さんたちは、今、戦ったばっかりでしょう? 一日とか二日、お休みしてから、出発したらいいと思うんですけど。」
「いいえ。」
騎士団長は、重々しく言った。
「さきほど、王子は、『守り石』の力をお使いになった。敵の中に、その光を見ていた者がいたとしたら、王子が生きていらっしゃったことが、ばれているかもしれない。それを大魔王に報告されたら、王子を狙って、軍勢が送り出されるかもしれません。それよりもはやく、動き出さなくてはならんのです。今は、急ぐ上にも、急ぐことが肝心です。」
騎士団長の話を聞いて、マッサは、何だか、お腹が痛くなってきた。
自分が、王子だったことがわかって、おばあちゃんも生きていることがわかって、ちょっと、舞い上がっていたけど、それどころじゃない。
よく考えたら、ものすごく強い大魔王が、自分の敵なんだ。
こっちが生きていたとばれたら、絶対に、狙ってくる。
本当に、大丈夫なんだろうか?
ものすごく強い魔女だったというお母さんや、お父さんが、力を合わせても、大魔王にはかなわなかったのに……
「あの。」
マッサは、思い切って、騎士団長にきいてみた。
「大魔王って、いったい、どんなやつなんですか?」
「その真の姿をはっきりと見たものは、誰もいません。はるか北の『惑いの海』をこえたところにある暗黒の島に住みつき、そこから、化け物たちをあやつっていると言われていますが……」
「ぼく、勝てると思いますか?」
そうたずねると、騎士団長は、マッサをしばらく見つめてから、
「『王子と七人の仲間が、大魔王を倒して、世界を救う。』……魔女たちの予言は、これまで、はずれたことがありません。マッサファール王子、あなたになら、きっとできます。
それでは、これで失礼。私も、準備に参加しなくてはなりませんからな。」
騎士団長が行ってしまうと、そこに、若い騎士がやってきて、ものすごくていねいに、マッサとブルーを、別の部屋に案内した。
そこは、大きなベッドがおいてある、どっしりした感じの部屋で、小さなランプがともされていた。
「出発の準備がととのうまで、マッサファール王子様は、どうぞ、こちらでおやすみください。」
「えっ、ここ、誰の部屋ですか?」
「騎士団長の部屋ですが、どうぞお使いくださいと申しておりました。では、私も、準備がありますので、これで失礼いたします。」
騎士が行ってしまうと、ブルーが、さっそくベッドの上に飛び降りて、そのあたりをくんくん嗅いでまわり、まくらのにおいを嗅いで、
『ブルルルルッ。』
と言った。
マッサも、リュックサックをおろして、大きなベッドに座ってみたけど、みんなが自分のために、徹夜でいろんな準備をしてくれているのに、自分だけ寝ているなんて、悪い気がして、なかなか眠くならなかった。
首からかけた『守り石』を持ち上げて、その緑色の光を眺めながら、マッサは、つぶやいた。
「ねえ、ブルー。ぼく、ほんとに大丈夫かな? きみや、ガーベラ隊長といっしょに、大魔王をやっつけられるのかな。『王子と七人の仲間』って……きみと、ガーベラ隊長で、二人でしょ? あと五人も、ほんとに、仲間が集まってくれるかな? ねえ、ブルー、どう思う?」
『ムニャムニャムニャ……りんご!』
「って、もう寝てるし……また、食べ物の夢みてるし!」
ブルーの気楽さを、ちょっと分けてほしいなあ、と思いながら、マッサは、ごろんとベッドに寝転がった。
すると、隠れ場所に入ったり、小さい子たちをトイレに連れていったり、化け物鳥たちに追いかけ回されたり、えんとつが落ちてきて『守り石』が光ったり、自分が実は王子だったと分かったり、とにかくいろんなことがありすぎた疲れが、一気にどっと出てきて、マッサは、すぐに、ぐっすりと眠りこんでしまった。