マッサ、おどろく
いつの間にか、カーンカーンという鐘の音はやんで、あたりは、静かになっていた。
翼の騎士団と、町の大人や、子供たちの協力で、おそってきた化け物鳥のむれを、なんとか、おいはらうことができたらしい。
マッサは、ガーベラ隊長とディールに、これまでのことを、できるだけ、くわしく説明した。
ガッツたちが出ていき、自分は、小さい子たちといっしょに、隠れ場所に入ったこと。
でも、みんなが、おしっこに行きたくなって、そろって中庭に出たこと。
みんながトイレをすませたところへ、化け物鳥がやってきたこと。
小さい子たちは、みんな、ぎりぎり、建物の中に逃がすことができたけど、自分は、入れなかったから、中庭から出て、外に逃げてきたこと……
「あっ!」
そこまで話して、マッサは、急に、残してきた小さい子たちのことが心配になってきた。
「ガーベラ隊長、『青いゆりかごの家』は、大丈夫ですか!? まさか、化け物鳥に壊されちゃった、なんてことは!?」
「いや……ついさっき、横を通ってきたが、とくに異常はなかったぞ。心配するな。」
「よかったあああ……」
マッサは、何だか力が抜けて、地面に座りこんでしまった。
ガッツたちが帰ってきたときに、小さい子たちがみんな食べられてしまっていた、なんてことになったら、申し訳なさすぎて、あやまることもできない。
「それよりも、だ。まだ、ひとつ、聞きたいことがあるぞ。」
ガーベラ隊長が、むずかしい顔をして、そう言った。
「今の話で、おまえがどうして外にいたのかは、よく分かった。だが、どうにも分からんことがある。
我々が、ここに駆けつけたとき、三羽の化け物鳥がいた。屋根の上に一羽、下に二羽だ。やつらは、おまえが隠れている場所をとりかこんでいたが、みな、ひどく弱っている様子だったのだ。まるで、手ひどくやられた後のようにな。だがら、倒すのは楽だったが……
おまえは、何かしたのか? 三羽の化け物鳥を、一度にやっつけるとは……おまえのような小さな子供が、いったい、どんな技を使ったんだ?」
「いや……」
マッサは、まだ、ちょっとふらふらしながら立ち上がって、言った。
「ぼくは、別に、何もしてないんです。化け物鳥が暴れて、となりの家のえんとつが壊れて、それが、ぼくの上に落っこちてきたんです。それで、もう、死んじゃう! と思ったら、急に、ピシャアアアアン! って、なったんです。」
「はあ?」
隊長は、何のことやら、という顔をした。
マッサも、確かに、今の説明だと何がなんだか分からない、と思い、心を決めて、
「ほら、これ!」
と、シャツの中から、あの首飾りを引っぱり出し、ガーベラ隊長に見せた。
「この首飾りの、この、緑色の石が、ピシャアアアアン! って光ったんです。そしたら、落ちてきたえんとつが、砂みたいになっちゃって……それで、ぼく、助かったんです。その光が、化け物鳥にも、きいたみたいで……」
マッサは、そう言いながら、「すごいじゃないか、魔法の石だ!」と感心されるか、「そんなことがあるものか。夢でも見たんだろう!」と笑い飛ばされるか、どっちだろう、と思っていた。
でも、その、どっちでもなかった。
隊長は、ぴくりとも動かず、目を丸くして、その緑色の石を見つめていた。
まるで、マッサの説明なんか、とちゅうから、耳にも入っていないような顔だ。
横を見ると、ディールも、まったく同じ顔をして、緑色の石を見つめていた。
二人が、あんまり、しーんとしているので、マッサは、ちょっとこわくなって、
「あの、どうしたんですか?」
と、聞こうとした。
でも、聞けなかった。
マッサが「あの」と、言った瞬間に、がしゃん! と、大きな音がしたからだ。
見ると、ガーベラ隊長と、ディールが、マッサの前にひざまずいていた。
まるで、王様の前に出た騎士がするみたいに、よろいを着た二人の大人が、マッサに向かって、ひざまずいているんだ。
「えっ?」
マッサには、何が何だか、分からなかった。
わけがわからないまま、ガーベラ隊長と、ディールの頭を見比べていると、
「おお……よくぞ、お戻りに!」
顔をあげてきたガーベラ隊長が、感激で泣いているような目でマッサを見上げ、そう言った。
「王子よ。私たちは、十年の間、ずっと、あなたのお帰りをお待ち申しあげておりました!」