マッサ、もっと絶体絶命
マッサとブルーが、同時にふりかえると、ちょうど、こっちに気付いた化け物鳥が、うなりながらドスドスと近づいてくるところだった。
「わああああああ！」
と、マッサは叫び、ブルーは、
『ブルルルルルッ。』
と言って、気絶してしまった。
ギャオオオオオン！
「わああああああ！」
気絶したブルーの体をひっつかんで、マッサは、ひらいたドアから、外の道に飛び出した。
外の道には、化け物鳥の姿も、他の人の姿もなかった。
マッサは、転びそうになりながら走って、近くの家と家のすきまの、ものすごくせまい道に飛び込んだ。
「はあっ、はあっ、はあっ……！」
マッサは、石の壁に両手をついて、大きく息をした。
ここなら、両側の建物は、石でできているし、マッサ一人がやっと通れるくらいの横幅しかないから、化け物鳥が入りこんでくる心配もない。
「ブルー、ブルー！ ちょっと、しっかりしてよ！」
『ブルルルル……』
ブルーは、まだ、気絶していた。
無理もない。マッサだって、さっきは、こわすぎて、死ぬかと思ったくらいだ。
マッサは、少し考えてから、とりあえず、ブルーを、もう一回、背中にかついだリュックサックに入れておくことにした。
走るときに、ブルーを落としちゃったらたいへんだからだ。
（みんなは、大丈夫かなあ。）
自分たちの身が、とりあえず助かったところで、マッサは、残してきた小さい子たちのことが、ものすごく心配になってきた。
『青いゆりかごの家』が壊されて、みんなが食べられちゃってたりしたら、どうしよう？
家が無事でも、みんなが、マッサのことを心配して、勝手に外に出てきて、食べられちゃってたりしたら、どうしよう？
（あの化け物鳥は、もう、いなくなったのかな……）
マッサは、家のあいだのせまい道を、静かにもどっていって、そーっと、もとの大きな道に顔を出してみた……
グオオオオオッ！！
「うわああああああ！」
マッサが、叫びながら顔を引っこめたのと同時に、出口のすぐ横で待ちかまえていた化け物鳥が、がちん！ と口を閉めた。
引っこむのが、あと一瞬、遅かったら、頭をかじられていたところだった。
「うわー！ うわー！ うわー！」
こわすぎて、わあわあ叫びながら、マッサはかさかさかさかさっ！ とすごい速さでカニみたいに横歩きをして、せまい道の、反対側のほうに行った。
こっちからなら、出られるかもしれない……
ギャオオオオオッ！！
「うわああああああ！」
だめだ、先回りされていた！
ふりかえると、さっき来たほうの出口にも、まだ化け物鳥がいる。
マッサは、二羽の化け物鳥に、はさみこまれてしまった！
「どうしよう……！」
ギャオギャオギャオ、とおどかすような鳴き声をあげながら、化け物鳥たちは、両側の出口から頭を突っ込もうとしてくる。
マッサは、両方の出口から、同じくらい遠い、真ん中まで移動して、ぶるぶる震えていた。
道がせまいおかげで、化け物鳥たちは、ぜんぜん入ってくることができず、今は、何とか助かっている状態だ。
自分では、どうしようもないから、このまま、ここで、誰かの助けを待つしかない。
そうだ、たしか、今、《銀のタカ》隊の人たちが町に出て、化け物鳥と戦っているはずだ。
「ガーベラたいちょーう！ ディールさーん！」
マッサは、大声で、助けを呼んだ。
「ガーベラたいちょーう！ ディールさーん！ 助けてー！！」
すると……
ガサガサッ！ ドスン！
上のほうから、急に、そんな音が聞こえた。
マッサは、はっとして、上を見た。
その音は、屋根の上から聞こえてきたのだ。
「……ガーベラ隊長ですか！？」
本当に来てくれたのか、と、マッサがよろこびかけた、そのときだ。
ギャオギャオギャオーッ！！
「うわあああああああ！」
なんと、屋根のすきまからあらわれたのは、化け物鳥のおそろしい顔だった！
マッサは、右と、左と、上の、三羽の化け物鳥に取り囲まれてしまったのだ。
しかも、新しく上に来たやつは、特別に体も大きくて、気の荒いやつだった。
ギャオーッ、ギャオーッ！
屋根の上に来た化け物鳥は、しばらく、屋根のあいだから首を突っ込んでマッサを食べようとしていたが、それができないと分かると、怒って、屋根の上でめちゃくちゃに暴れ始めた。
ドシン、メリメリ！ バキン、バキン！
「うわあああああ！」
屋根のあちこちが壊れて、マッサの上に、小さなかけらが、ばらばら、落ちてきた。
マッサは、ブルーを入れたリュックサックをお腹のほうに回してぎゅっと抱きしめ、片手で自分の頭を守りながら、うずくまった。
屋根の上の化け物鳥は、まだ、暴れ続けている。
グオオーッ、グオオーッ！
ドシーン！ ガラッ、ガラッ、ガラガラッ……
「え？」
急に、今までと違う音がして、マッサは、こわごわ、上を見上げた。
そのマッサの、すぐ横の地面に、ごん！ と、マッサの頭と同じくらいある、レンガのかたまりが落ちてきた。
じつは、屋根の上で、化け物鳥が暴れまくったせいで、その家のえんとつが、壊れてしまっていたのだ。
レンガでできたえんとつは、根元を壊されて、ぼっきり折れ、大人の体くらいある大きなかたまりのまま、屋根の上から、マッサの真上に、おっこちてきた！
