マッサ、泣く
マッサは、なんとなく心配で、ガッツのあとについていった。
「おい、マッサ、おまえは、隠れ場所に入ってろ。来ちゃだめだ。」
「ガッツたちは、どこに行くの? 化け物鳥が来てるんでしょ? それなのに、外に出たらだめだよ!」
「おれたち年上の子供は、町の大人たちがあいつらと戦うあいだ、町のあちこちで、かがり火をたいて、あかりをともす役をすることになってるんだ。」
「ええっ!? そんなの、危ないよ! 大人のひとたちに、やってもらえばいいじゃない!」
「大人たちだけじゃ、手が足りない。だから、おれたちも、やるんだ。」
ガッツはそう言って、マッサの肩に手をおいた。
「大丈夫だ、いつものことだから、おれたちは慣れてる。おまえは、隠れ場所に入って、小さい子たちのめんどうを見てやってくれ。あいつらが、こわがったら、はげましてやってくれよ。」
「おい、ガッツ、もう行くぞ!」
男の子のひとりが、そう言って、外のようすをうかがいながら、『青いゆりかごの家』のドアを開いた。
ひらいたドアのすきまから、マッサが外を見ると、砦の塔の上に、大きな火が燃えているのが見えた。
まさか、火事!? と一瞬、思ったけど、そうじゃない。
あれが、かがり火だ。
大きな大きな、たき火を燃やして、空を照らしているんだ。
夜空を見上げると、炎のあかりに照らされて、たくさんの大きな黒い影が、飛びまわっているのが見えた。
化け物鳥だ。
しかも、あんなにたくさん!
「あっ、見ろ!」
誰かが、夜空を指さして、マッサも、そっちのほうを見た。
数え切れないほどたくさん飛んでいる化け物鳥の、黒い影にまじって、きらっ、きらっと光る、銀色の光が見えた。
その光は、ひとつだけじゃない、いくつもある。
まるで、流れ星みたいに、きらっ、きらっと、光りながら飛んでいる。
「翼の騎士団だ! もう、空に上がって、化け物鳥と戦ってる! ……あっ、一羽、倒した! 化け物鳥が、一羽、落ちたぞ!」
「翼の騎士団!? じゃあ、あれは、ガーベラ隊長たちなの?」
「違う、あれは、《三日月コウモリ》隊だ。」
マッサの質問に、ガッツが答えた。
「夜の戦いが専門の、特別な訓練を受けた人たちだ。みんな、すごく目がよくて、あたりが真っ暗でも、敵を見逃さない。ガーベラ隊長のいる《銀のタカ》隊は、町のあちこちにちらばって、地面に降りてきた化け物鳥と戦ってるはずだ。」
「おい、ガッツ! ほんとに、もう行かねえと!」
「よし。じゃあ、マッサ、留守番を頼んだぜ。戸締まりを、しっかりして、がっちり、たてこもっておけよ!」
ばん! とドアが閉まって、ガッツたちの足音が、あっというまに遠ざかっていった。
マッサは、いそいでドアの掛け金をかけて、大きな部屋の真ん中にある、地下室の入口にもどっていった。
「マッサおにいちゃん、はやく、はやく!」
下から、小さい子たちが呼んでいる。
マッサも、いそいで床の穴から中に入り、床板とそっくりな木でできた、重いふたを、頭の上で、ばたんと閉めた。
中は、本当に真っ暗闇で、何も見えない。
自分の顔の、すぐ目の前に、自分の手を持ってきても、その手が見えないくらいだ。
小さい子たちが、ひそひそ、しゃべっている声がしなかったら、そこに誰かいるのかどうかも、分からなかっただろう。
「こわいよう。」
「ねえ、ぼくたち、たべられちゃうの?」
「いやだよう、こわいよう。」
なきそうな声が、いくつも、そう言った。
「しいっ、しずかにして!」
小さな女の子の、しっかりした声が、そう言った。
「もし、ばけものどりが、ここにきて、こえをきかれたら、みんな、たべられちゃうんだから。ここでは、石みたいにしずかにしなさいって、いつも、いわれてるでしょ。」
「だって、こわいもん!」
「ガッツおにいちゃんたちや、翼の騎士団のひとたちが、まもってくれるから、だいじょうぶよ。だから、こわがらなくてもいいの。しずかに!」
「でも、こわいよう!」
そう言って、とうとう、だれかが、泣き出した。
一人が泣き出したら、あっという間に、それがみんなにうつって、ええーん、ええーん、ええーん、と、泣き声の大合唱になってしまった。
大変だ。この声を、化け物鳥に聞きつけられたら、みんな、食べられてしまう!
「みんな、落ち着いて、しずかに! 泣いちゃ、だめだよ! 大丈夫だから! みんな、落ち着いて!」
マッサは、必死に、そう言ったけど、子供たちは、ぜんぜん泣きやまない。
もう、マッサまで、泣きたくなってきた。
こわくて、心細いのは、マッサだって同じだったからだ。
帰り道がなくなってしまって、家にも帰れない。
おじいちゃんにも、もう会えない。
ここで、化け物鳥に食べられて、死んじゃうかもしれない……
「うわあああぁぁぁぁん!!」
そう思ったら、悲しすぎて、マッサは、大声で泣き出した。
そうしたら、小さい子たちは、びっくりして、逆に泣き止んだ。
「マッサおにいちゃん、年上なのに、泣いてる。」
「よしよし、だいじょうぶ。なかないで。」
「ぼくが、なでなでしてあげるからね。」
「うう……ありがとう。」
小さい子に、なでなでしてもらって、マッサは、何とかがんばって、泣きやんだ。
外では、ガッツたちががんばっているんだから、自分は、ここでがんばって、小さい子たちをはげましてあげなきゃいけない。
逆に、はげましてもらってる場合じゃないんだ。
「マッサおにいちゃーん、ぼく、おしっこに行きたい……」
「ええっ!?」
やっと、みんなが泣きやんだと思ったのに、また、大変なことになってきた!