マッサ、たたき起こされる
カーンカーンカーンカーンカーンカーン!
「うわっ!?」
夢も見ずに、ぐっすり眠っていたところへ、急にとんでもない音がひびきわたって、マッサは、心臓がはれつしそうになった。
えっ、もう、朝!?
たいへんだ、学校に、遅刻する!
あせって、ベッドから飛び起きた瞬間に、
ガン!
頭のてっぺんが、思いっきり、何かにぶつかった。
「いったあああああ!」
マッサは叫んで、ベッドの上にうずくまった。
涙がふきだしてくる。
頭が割れたかと思うくらい、ものすごく痛い。
もしかしたら、血が出てるんじゃないかと思って、マッサは、頭をおさえていた手を、目の前に持ってきた。
でも、たしかに両目をひらいているはずなのに、なんにも見えない。
目の前が、真っ暗だ。
もしかして、頭を強く打ったせいで、目が、見えなくなっちゃったんだろうか?
「マッサ!」
真横から、急に、そんな声が聞こえた。
はっとして、そっちに顔を向けると、中学生くらいの男の子の顔が、ぼうっと浮かび上がった。
手に、ランプを持った、ガッツだ。
さっき、何も見えなかったのは、ライトがひとつもないせいで、真っ暗だっただけだった。
――そうだ。
ここは、もう、おじいちゃんの家じゃない。
穴の向こうのふしぎな世界の、『青いゆりかごの家』だ。
マッサは、四段ベッドのいちばん上で眠っていて、飛び起きたひょうしに、天井に頭をぶつけてしまったんだ。
「おい、大丈夫かよ、マッサ?」
「うん……頭、ぶつけたけど……なんとか、大丈夫。この、カーンカーンっていう音、何!?」
「砦の塔で鳴らしてる、鐘の音だ。非常警報だ!」
「ひじょうけいほう、って、何!?」
「大魔王の手下の、化け物鳥のむれが攻めてきたぞ、って、みんなにしらせる音だよ!」
「化け物鳥の、むれ!?」
森で、あやうく食べられそうになったときのことを思い出して、マッサは、ぞうっとした。
あんな、おそろしい化け物鳥が、一羽だけじゃなく、むれでおそってくるなんて……
「どうしよう、どうしよう、ガッツ! みんな、食べられちゃうよ!」
「マッサ、あわてるな! 大丈夫だ。この『青いゆりかごの家』には、こういうときのために、隠れ場所がある!」
ガッツが、そう言ったすぐ後に、
「こっちがわのグループから、みんな、順番に、おりてきなさい!」
下でランプをともした、ガッツと同じくらいの年に見える女の子が、学校の先生みたいに落ち着いた声で、はっきりと言った。
「いつも、避難訓練で、練習しているとおりにね。ぜったい、あわてて、足をすべらせたり、友達をおしたりしちゃ、だめよ!」
子供たちは、言われたとおりに、ぞろぞろとベッドから降りはじめた。
マッサも、みんなと同じように、ベッドから降りかけたところで、
「あっ!」
と、すごい忘れ物をしていたことに気がついた。
枕元に置いていたリュックサックを、しっかり背負い、
「ブルー、ブルー! 起きてよ!」
そう言いながら、まだふとんの中で寝ていたブルーの体をつかんで、ゆさぶった。
『ムニャムニャムニャ……チョコレートォォォ……』
あんなに大きな音が鳴って、まわりも、がやがやしているのに、ブルーは、ふとんにくるまったまま、まだチョコレートの夢を見ているみたいで、全然、起きる様子がなかった。
「ああ、もう! しかたがないなあ!」
マッサは、眠ったままのブルーを、リュックサックにつめこんで、四段ベッドから降りていった。
「さあ、みんな、ここに入って!」
さっきの女の子が、そう言って指さしたのは、床にぽっかりとあいた、四角い穴だった。
穴の中には、階段が見えている。この下に、地下室があるみたいだった。
「ここが、おれたちの隠れ場所だ。」
ガッツが言った。
「床の一か所が、ふたになってて、開けると、こうやって、下に降りられる。閉めると、ふつうの床にしか見えないから、もし、敵がここに入ってきても、静かにして、見つからなけりゃ、大丈夫だ。」
ガッツが、そう説明してくれているあいだに、子供たちは、小さい子から順番に、階段を降りて、地下室に入っていった。
マッサは、入口から、下をのぞきこんだ。
地下室の中は、真っ暗で、先に入っていった子供たちの姿も、ほとんど見えない。
「ガッツ、この中、すごく暗いよ。そのランプ、持って入っちゃだめ?」
「だめだな。地下室みたいな、風のとおらない場所で火を燃やすと、空気が悪くなっちゃって、あぶない。だから、この中では、火は使わないきまりなんだ。さあ、マッサ、おまえも、はやく入れ。」
「おい、ガッツ、急いでくれ。行くぞ!」
そんな声が聞こえて、マッサがそっちを見ると、『青いゆりかごの家』の玄関のドアのところに、年上の子供たちが集まっていた。
「えっ、ガッツたち、どこかに行くの? 隠れ場所に入らないの?」
「ああ、おれたちには、しごとがあるからな。」
ガッツは、そう言いながら、ドアのほうに歩いていった。