マッサ、眠る
みんなで晩ごはんを食べ終わったら、すぐに、お皿洗いだ。
「はい、おにいちゃん。こっちの、おけに、お皿を入れてね!」
「えっ、きみたちが、お皿を洗ってくれるの?」
「うん!」
『青いゆりかごの家』では、皿洗いは、小さい子たちがするきまりになっていた。
お皿もスプーンも、木でできているから、落として割ってしまう心配はない。
中庭に、水をくむことができる井戸があって、小さい子たちが、おけいっぱいにつみあがったお皿とスプーンを、きれいに洗っていく。
そのとなりでは、ふきん係の子たちが待ち受けていて、洗い終わったお皿を受け取って、しっかりふく。
そこから、キッチンまで、ずらっと一列に並んだ子供たちが、順番に「はい!」「はい!」「はい!」と、お皿を渡していって、列のいちばん終わりに立った子が、キッチンの中の棚に、お皿とスプーンを、だいじにしまう。
みんな、まだ小さいけど、ものすごくなれていて、てぎわがいい。
五十六人分の皿洗いは、びっくりするほど、すばやく終わった。
「さあ、寝るぞ! みんな、歯をみがけ! トイレをすませて、ベッドに入れ!」
「えっ、もう!?」
ガッツの言葉に、マッサは、びっくりした。
まだ、お風呂にも入っていないのに。
……そういえば、ここには、お風呂がないみたいだ。
みんな、どうやって、体をきれいにしているんだろう?
「ねえ、ガッツ、みんなは、いつ、お風呂にはいってるの?」
「風呂? そりゃ、汚れたなあ、と思ったときに、中庭で水浴びだな。」
「水浴び!?」
マッサは、びっくりして、それはまた今度にしよう、と思った。
歯磨きをする場所は、中庭。
トイレも、中庭のすみにあった。
みんなが、行列を作っているので、マッサも並んだ。
トイレは、水で流すんじゃなくて、ためてあるだけのやつで、ふたをとると、ものすごくくさかった。
マッサは、息を止めて、あわてて、おしっこをすませた。
部屋に戻ると、年上の子供たちが、あちこちの窓に、がんじょうそうな木の板をはめて、戸締りをしていた。
ドアのかぎも、ガチャリとしめられた。
年上の女の子が、ベッドのあいだを歩き回って、小さい子たちがそろっているか、たしかめている。
「みんな、もう、ベッドに入ってるね? みんな、いるね? ……あかりをけすよ!」
あかりは、電気じゃなくて、火をともすランプだ。
年上の子たちが、ふっと、ランプの火をふきけした瞬間、部屋の中は、ほとんど何も見えないくらい、真っ暗になった。
「おやすみ、マッサ。また明日、がんばろうな。」
となりのベッドで、ガッツがそう言うのが聞こえたかと思うと、がーっ、がーっと、すごいいびきが聞こえてきた。
下のほうからは、小さい子たちが、ひそひそ声で、おしゃべりする声や、
「しいっ。みんな、しゃべらないで、もう、ねなさい。」
と言っている、少し年上の子の声も聞こえてきた。
マッサは、いつもと違うまくらとふとんで、はじめての場所で、ちゃんと眠れるか、ちょっと不安だった。
それに、真っ暗になったら、こわくて、おじいちゃんのことを思い出して、さびしくて、泣いちゃうんじゃないかと思っていた。
でも、ぜんぜん、そんなことはなかった。
ブルーが、マッサにぎゅっとくっついて、むにゃむにゃ眠りながら、
『チョコレート……ウフフフフーン……チョコレートォォォォォ』
と、寝言を言っているのが、おもしろすぎて、涙は引っこんでしまった。
それに、レストランでのしごとを、めちゃくちゃがんばった疲れが、どっとでてきて、マッサは、目を閉じた十秒後には、もう、ぐっすり、眠っていた。