マッサ、ばんごはんを食べる
『青いゆりかごの家』の中は、ふつうの家みたいじゃなくて、体育館みたいにひろくて、天井が高い、たったひとつの部屋になっていた。
そして、真ん中に通る道があって、両側には、ベッドがずらーっと並んでいた。
しかも、普通のベッドじゃなくて、二段ベッド……でもなくて、なんと、四段ベッドだ!
いちばん上の段は、もう、ほとんど、天井と同じくらい高いところにある。
そのベッドの、あちこちから、小さな子供たちが、顔を出していた。
ベッドと、ベッドのあいだを、ぴょんぴょん、飛んで渡っている子もいる。
「おい、そこ! ベッドのあいだを飛ぶなって、何度言ったらわかるんだ! あぶねえだろうが! 落ちたら、首の骨が折れて、死んじまうぞ!」
ガッツに怒られると、ベッドのあいだを飛んでいた子たちは、ぱっと、ふとんをかぶって、隠れてしまった。
まるで、森の中の生き物みたいだ。
その、ベッドだらけの部屋を、まっすぐに突っ切っていくと、向かいに、ひとつ、ドアがあった。
そこを開けると、中庭があって、さらに、そのむこうに、キッチンの建物があった。
キッチンの中は、大勢の、年上の子供たちで、ごった返していた。
「野菜、こっちで洗うぞ!」
「今日は、わたしが、肉担当ね!」
「洗いおわった野菜は、こっちに、どんどん回してくれ! ほうちょうで切るから!」
「ねえ、火の強さ、これくらいでいい?」
「うーん、まだ、ふっとうしないな。もうちょっと、薪をふやして、火力をつよくしてくれ!」
ガスや電気じゃない、木に火をつけて燃やすタイプの、大きなかまどがあって、その上にのった、めちゃくちゃ大きなおなべで、山のような野菜と、ちょっとの肉が煮られていた。
「おれたち、晩ごはんには、いつも、スープを作ることにしてるんだ。スープなら、一気に、大量につくれるからな。」
「そうなんだ。あっ、おいしそうなにおいがしてきた!」
スープが、ぐつぐつ、ふっとうして、キッチンにおいしそうなにおいの湯気が立ちこめた。
ブルーは、鼻をひくひく、ひげをぴくぴくさせて、まだ、何も食べていないのに、
『ウフフフフーン……』
と、おいしい顔をしていた。
大量のスープが、無事にできあがると、ガッツが、キッチンの外に出て、ドアの横にぶら下げてあったベルを、リンリンリーン! と鳴らした。
すると、
「晩ごはん、できた!?」
「おなかすいた!」
「ばんごはーん!」
と、叫びながら、小さな子供たちが、どどどどどーっと、キッチンの前に行列を作った。
晩ごはんの用意のようすは、まるで、小学校の給食の用意みたいだった。
列を作って、キッチンに入って、木のお皿とスプーンをもらって、お皿にスープをたっぷり入れてもらって、最後に、パンをひとつもらって、キッチンから出ていく。
ドアのところには、ガッツが立って、小さい子たちがけんかをしたり、うっかりぶつかって、ごはんを落としたりしないように、目を光らせていた。
小さい子たちが、みんなごはんをもらうと、次は、大きい子たちの番だ。
大きい子たちのパンは、小さい子たちのパンよりも、少し大きかった。
みんな、体が大きいから、よけいにおなかがへるし、明日も、大いそがしのしごとが待っているから、栄養をとって、力をつけておかないといけないからだ。
このパンは、パン屋さんでしごとをしている子たちが、お給料として、もらってくるらしい。
晩ごはんが、ちゃんと全員に行きわたったところで、ガッツが、大きい声で、
「いただきます!」
と言った。みんなも、
「いただきます!」
と言って、むしゃむしゃ、もぐもぐ、食べ始めた。
食べる場所は、なんと、それぞれのベッドの上だった。
他に、こんなに大勢で食事ができる場所がないからだ。
ガッツのとなりのベッドがあいていたから、マッサは、そこを使うことになった。
なんと、天井のすぐ近くの、四段目だ。
そこまで行くには、長いはしごをのぼらないといけない。
はしごから落ちたらあぶないから、小さい子たちは、下のほうのベッドを使って、大きい子たちが、上のほうのベッドを使うことになっていた。
マッサは、まだ、少し小さいけど、下のほうのベッドは、どこもいっぱいだったから、特別だ。
「みんな、スープをこぼすなよ! こぼしたら、ふとんを洗ってかわかすまで、スープくさいふとんで、寝ないといけなくなるからな。」
ガッツが、そう言って、みんなに注意していた。
ブルーは、あついスープがのめないから、パンのかけらと、りんごを一個もらって、
『ウフフフフーン……』
と、おいしい顔をしながら、むしゃむしゃ、食べていた。