ブルー、おてつだいをする
「ここだ!」
広場を走り抜け、こんざつした、くねくね道を通り抜けて、ガッツがようやく立ち止まったのは、一軒の、食堂の前だった。
でも、ガッツは、食堂の入口からは、中に入らずに、建物の横の、細いすきまみたいな道に入っていっていった。
そこには、食堂の裏口があった。
ガッツは、慣れた様子で、そのドアをあけて、大声であいさつした。
「こんにちは、ガッツです! 来ました!」
「おう、ガッツか! 今日もいそがしいぞ! さっそく、そこの皿を洗ってくれ!」
大きなフライパンで、大きな肉を、じゅうじゅう焼きながら、体の大きなコックさんが怒鳴った。
怒鳴ったといっても、怒っているわけではなて、いそがしすぎて、自然と声が大きくなるみたいだった。
まわりでは、同じようなコックさんたちが、野菜を切ったり、なべをかきまわしたり、お皿を並べたり、すごい勢いでしごとをしていた。
「分かりました! あと、今日はもう一人、手伝いをつれてきてるんですけど!」
「手伝い? そうか! じゃあ、いっしょに皿洗いを頼んだぞ!」
コックさんはそう叫ぶと、肉を焼くしごとに戻っていった。
「分かりました!」
ガッツは、コックさんの大声にも負けない声で返事をして、そばにかけてあったエプロンをとって着け、マッサにもエプロンを渡した。
「おまえ、皿洗いは得意か?」
「えっ?」
急に、ガッツにきかれて、マッサは、すぐには答えられなかった。
これまで、お皿洗いといえば、おじいちゃんと、自分のぶんを、ときどきお手伝いで洗ったことがあるだけだ。
でも、今、目の前の洗い場には、食堂のお客さんたちが食べおわった後の、山のような食器がつみあがっていて、これをちゃんと洗い切れるかどうか、とても、自信がもてなかった。
「よし、やるぜ! おれが洗うから、おまえは、俺が洗い終わった皿を、ふいて、種類にわけて、並べてくれ!」
「あっ……うん、分かった!」
悩んだり、おしゃべりしている時間なんて、まったくなさそうだったので、マッサはとにかく、大急ぎでエプロンをつけ、そばにかけてあった、お皿ふき用のふきんを取った。
ガッツの皿洗いのスピードは、ものすごかった。
「世界・お皿洗い選手権大会」があったら優勝するんじゃないかと思うくらい、ジャジャジャジャジャーッ! ザバザバザバーッ! と、大量のお皿やコップを次々に洗っていく。
ものすごく慣れていて、名人芸って感じだ。
ガッツのしごとのスピードがすごすぎて、マッサは、ぜんぜん追い付けない。
目の前に、大量の濡れた食器がたまってしまって、大慌てしながら、必死にお皿をふいていった。
「あっ!」
あんまり、あわてすぎて、つかんだと思ったコップが、つるっと、指先からすべり落ちた!
パリーン! と、コップが床に落ちてわれてしまう、その寸前に、何か白いものが、さっ! と走ってきて、みごとに、コップをキャッチした。
『フフン!』
と、じまんそうに、コップを持ち上げていたのは、ブルーだった。
ガッツとマッサのしごとを、後ろで、おとなしく、じーっと見ていたブルーが、マッサのピンチを助けてくれたんだ。
「ありがとう、ブルー!」
『フフン!』
と、ブルーは、じまんそうに鼻をひくひくさせた。
「おっ、えらいぞ、もじゃもじゃ! あぶないところだった。食器を、割っちまったら、べんしょうしなきゃいけなくなって、給料がへっちゃうからな。」
『もじゃもじゃじゃない! ブルー!』
ガッツが、ほめたけど、ブルーは、もじゃもじゃと言われて怒っていた。
そのときだ。
「うわあっ! ねずみだ!!」
マッサたちの話し声をきいて、ふと、こっちを見たコックさんが、飛び上がって叫んだ。
「なにっ!? ねずみだって!?」
「ぎゃあっ! でかい! でかすぎる白ねずみだ!」
他のコックさんたちも、とびあがって叫んだ。
「だめだ、だめだ、キッチンに、ねずみはだめだ! 追い出せ、追い出せ!」
「とりもちで、つかまえろ!」
「ぼうで、たたいて、やっつけろ!」
「待ってください!」
コックさんたちが、ブルーをやっつけようとして、どどどっと、つめかけてきたので、マッサは必死に、両手を広げて立ちはだかった。
「ブルーは、ねずみじゃないです! 汚くないです! だから、たたかないでください!」
『ねずみじゃない、ブルー! ぼく、きたなくない!』
マッサのうしろから、ブルーが、そう叫んだ。
コックさんたちは、びっくりして、また、とびあがった。
「うわ! ねずみが、しゃべった!」
『ねずみじゃない! ブルー!』
ブルーは、ぼうを持ったコックさんたちがこわくて、もうちょっとで気絶しそうになっていたけど、ねずみと言われて、だまってはいられないので、ぶるぶる震えながら、そう叫んだ。
「本当に、ブルーは、ねずみじゃないんです。ぼくの友達です! ここにある食べ物を、勝手にかじったりもしません。だから、ブルーをたたかないでください!」
「いくら、ねずみじゃなくても、おまえの友達でも、キッチンに、生きた動物は、つれてきてはだめだ。」
大きな体のコックさんが、きびしく言った。
「ここは、お客さんに出す料理を作るところだから、清潔が、第一だ。この生き物に、悪気がなくても、もし、ぬけた毛が、料理にまざったりしたら、たいへんなことになる。この生き物を、ここにいさせるわけには、いかない。外に出しておくんだ。」
マッサは、何か、言い返そうと思ったけど、コックさんの言っていることは、本当に、その通りだったので、何も言えなかった。
ブルーは、せっかく、コップが割れないように守って、お手伝いをしたのに、自分だけ、外に追い出されることがわかって、鼻の上にぎゅっとしわをよせて、泣きそうな顔をしていた。
そのときだ。
「そうだ!」
いきなり、ガッツが、大きな声で言った。