マッサ、なかよくなる
子供たちは、大勢いたから、チョコレートのかけらは、一人分が、指先くらいの大きさになった。
列に並んだ子供たちを見ていると、中学生くらいから、まだ小学校にも行ってないくらいの子まで、いろんな年の子がいることが分かった。
男の子も、女の子もいる。
子供たちは、もらったチョコレートを、そーっと口に入れると、しばらくのあいだは、ちょっとあやしそうな顔をしながら、口をもぐもぐさせていた。
でも、しばらくすると、全員の顔が、ぱあっと輝いて、ものすごくおいしい顔になった。
「ウゥーン……」
と、みんなは、ブルーがりんごを食べたときと、そっくりな声を出した。
小さなチョコレートのかけらを、たっぷり、ゆっくり、味わって、飲みこんでから、
「なんだ、こりゃあ!」
と、全員が叫んだ。
「めっちゃくっちゃ、おいしい!」
「甘い! 甘くて、おいしい!」
「こんなおいしいもの、食べたことないよ!」
「ちょうだい! もっと、ちょうだい!」
「ちょうだい、ちょうだい!」
子供たちの、大合唱が起こった。
「うるせえ、うるせえ、うるせえーっ!」
と、男の子が、空っぽになった両手を振りながら、叫んだ。
「全員で分けたから、もう、ひとかけらも、残ってねえ! これで、全部だ。おしまい!」
「ええーっ……?」
と、子供たちは、残念そうに言った。
中には、マッサのほうを、「あの子、おいしいもの、もっと持ってないかな?」という目で、じーっと見る子もいたので、マッサはあわてて、リュックサックをあけて、中をちょっと見せて、「もうない、もうない。」と、両手を大きくふった。
そうしながら、心の中で、
(どうせなら、もっとたくさん、チョコレートを持ってきておけばよかったなあ。)
と、思っていた。
「もう、ないの? 残念だなあ。」
「もっと、食べたかったなあ。」
「でも、おいしかった! ごちそうさまでした。」
「おいしいものくれて、ありがとう!」
子供たちは、次々に、マッサにお礼を言って、建物の中にもどっていった。
「おい!」
と、あの男の子が、急に言ったので、マッサは、
「はいっ!?」
と、言った。
すると、男の子は言った。
「あんなうまいもの、わけてくれて、ありがとうな。」
「あっ、いいえ、どういたしまして。」
「さっきは、いきなり、うたがっちゃって、悪かったな。おれは、知らないやつを見たら、まずは、うたがうことにしてるんだよ。大魔王のスパイが入りこんで、みんなに悪さをしたら、たいへんだからな。」
「大丈夫、ぼく、気にしてません。」
男の子が、怒鳴らずに、ふつうに話しかけてくれたので、マッサは、ほっとして、そう答えた。
「おれの名前は、ガッツだ。この『青いゆりかごの家』に今いる子供の中で、いちばん年上だから、おれが、代表をやってるんだ。よろしくな。」
「ぼくは、マッサっていいます。それから、こっちが、もじゃもじゃじゃなくて……あれ? ブルー? ブルー、どこにいるの?」
気がつくと、ブルーが、肩の上にも、リュックサックの上にもいない。
マッサは、あわてて、まわりを見回した。
すると、ブルーは、近くの小さな木のかげで、ぎゅっと丸くなって、すねていた。
『ううううう、ない! おいしいもの、ない! ぼく、チョコレート、ない!』
「うわあ、ごめん! でも、ブルー、きみみたいな生き物には、チョコレートは、毒になっちゃうかもしれないよ。だから、食べちゃ、だめなんだよ。」
『ううううううう、ぼくだけ、おいしいもの、ない!』
「……もじゃもじゃ、怒ってるなあ。」
『もじゃもじゃじゃない! ブルー!』
ブルーが、すっかり怒ってしまったので、マッサと、ガッツは、顔を見合わせた。
チョコレートをもらえなかったブルーが、すねてしまって、マッサたちが困っていると、そこに、
「はい、これ、どうぞ!」
建物の中から、小さな女の子たちが出てきて、何かを渡してくれた。
それは、たんぽぽや、クローバーを集めてつくった、小さな花束だった。
「お兄ちゃん、さっきは、おいしいおかしをくれて、ありがとう! これ、中庭にさいてるお花で作ったの。」
「もじゃもじゃさんも、はい、どうぞ! わたしたちと、おともだちに、なってね。」
「ありがとう!」
マッサは、ありがたく、手作りの花束を受け取った。
ブルーは、
『もじゃもじゃじゃない! ブルー!』
と言いながら、ちっちゃな両手で、花束を受け取った。
そして……