表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
244/245

マッサ、選ぶ

 マッサはその日から、自分の部屋にこもったり、お城の庭を一人で歩き回ったりしながら、考え抜いた。


 こっちの世界には、家族たち、仲間たち、そして自分を尊敬してくれるたくさんの人々がいる。

 魔法もあって、いろんなことができる。

 やっぱり、こっちの世界で、ずっと暮らしたい。


 でも、それなら、ずっと、今と同じ気持ちを味わい続けることになる。

 本当は、自分のことをとても大切に思ってくれていたおじいちゃんを、一人ぼっちのままにしてしまった……

 この、苦い後悔の気持ちが、いつまでも、とげのように、自分の中に残り続けることになるんだ。


 ぼくが帰ったら、おじいちゃんは、どんなに喜ぶだろう。

 ぼくが、お父さんたちの話をしてあげたら、おじいちゃんは、目を輝かせて聞いてくれて、今、お父さんが幸せだと分かったら、涙を浮かべるに違いない。


 いや……でも、待てよ。

 おじいちゃんのもとへ帰るということは、今度は、こっちの世界にいる家族たちを、置き去りにするということになる。

 おばあちゃんも、お母さんも、お父さんも、口では、


「おまえが選びなさい。」


 と言うけれど、本当は、ぼくとお別れするのは、ものすごくさびしいと思ってくれているはずだ。

 それに、妹や、弟たちだっているし……


 そうだ、それに、旅の仲間たち。

 ブルー、ガーベラ隊長、ディール、タータさん、フレイオ、ボルドンと、もう会えなくなるなんて、そんなの、さびしすぎて、我慢できそうにない。

 やっぱり、こっちの世界で、ずっと――


 でも、こうしていると、やっぱり、心の奥から浮かび上がってくる。

 厳しくて怖いけど、マッサのために、毎日ごはんを作ってくれたおじいちゃん。

 ときどき、マッサが寝たと思ったら、こっそり部屋に入ってきて、ごつごつした手で、頭をなでてくれたおじいちゃん――


『マッサ、かえる? かえらない?』


「ブルー。」


 悩んでいるマッサのところに、ブルーが、とことことこっとやってきて、ちょこん、と、となりに座った。


「帰りたい。おじいちゃんのことは、どうしても忘れられない。

 でも、こっちの世界のみんなと会えなくなるのも、さびしいんだ。

 ああ、こんなの、とても選べない! 残酷すぎるじゃないか、どちらかを取るなら、どちらかと永遠に別れなくてはならないなんて――」


『わかれ? わかれって、なに? おいしいの?』


「おいしくないよ。永遠の別れというのは、もう、ずっと会えない、ということだ。こんなに悲しいことはない。」


『あえない?』


 ブルーは、宝石のような青い目をぱちぱちさせた。


『どうして?』


「えっ?」


 と、今度は、マッサのほうが、目をぱちぱちさせた。


『いつでも、あえる。ぼくとマッサ、いつでも、いっしょ!』


「えっ?」


『ぼく、マッサといっしょにいく。』


 ブルーは、ふんっ! と胸をはり、ふんむっ! と、ちっちゃな力こぶを作って、言った。


『ぼくとマッサ、ともだち! だから、いっしょにいく!』


 マッサは、長い、長いあいだ、ブルーを見つめていた。

 それから、手を伸ばして、ぎゅうっと、ブルーを抱きしめた。


「本当に?」


 マッサは、ささやくような声できいた。


「ブルー……本当に、いっしょに来てくれる?」


『うん。ぼく、マッサといっしょ! ともだち!』


「ああ……それなら、私は……ぼくは……勇気が出せる。ブルー、本当に、ありがとう!」


『フフン!』


 じまんそうに、にっこりしているブルーを抱いて、マッサは、勢いよく立ち上がった。


「行こう。みんなに、このことを知らせなくては。」



《炎の心のマッサファール》が、向こうの世界に帰るという噂は、たちまち、国じゅうに広がった。


 国のあちこちから、ぜひ、マッサにもう一度会って、これまでのお礼やお別れを言いたい、という人々が集まってきて、城の前は、たいへんな騒ぎになった。

 マッサは、その一人一人に、ていねいにお礼を言い、別れを惜しんだ。


 とうとう、お別れがみんなすんでしまうと、マッサは、家族たちとともに、城の庭に行った。

 そこには、もう、魔法使いたちが勢ぞろいして、ただ一度の大魔法、時をこえてふたつの世界をつなぐ『穴』を開く術を使うための準備をととのえていた。


「お兄さま、本当に、行ってしまうのですね。」


「ああ。」


 すっかり成長して、凛々しい姫になった妹に、マッサは、自分がずっと首にかけていた《守り石》をかけてあげた。


「私がこの国からいなくなると聞けば、悪いやつらが、チャンスと思って、何かをたくらみ始めるかもしれない。そんなときは、君たちが、この国を守るんだ。頼んだぞ。」


「ぼくたちも、姉さんを助けるよ! なっ、そうだよな!」


「当たり前だ! きょうだいみんなで助け合って、この国を守る! 兄上、ぼくたちのことを、忘れないでくださいね。絶対ですよ!」


 弟たちも、口々に言った。


「おばあちゃんと、父上と、母上を頼んだぞ。」


 マッサと、きょうだいたちは、ぎゅーっと抱きしめあった。


「赤ん坊だったあなたとお別れしたときに、私は、もう二度とあなたには会えないと、覚悟していた。」


 お母さんが言った。


「でも、あなたが、私を助け出してくれた。あなたとまた会えた、あの日から、私はずっと幸せだったわ。そして、あなたが向こうの世界でも幸せに暮らしてくれるなら、私も同じように幸せよ。マッサ、元気でね。」


「母上……お母さん。今まで、ありがとう。忘れないよ、絶対に。」


「マッサ、おまえと暮らせた日々は、私にとって、人生最高のプレゼントみたいなものだった。懐かしいあの家に戻り、お父さんに会いたい気持ちは、もちろんあるが、私は、この世界に残る。アイナファールと結婚すると決めた時から、そうすると、心に決めていたんだ。ここで、おまえと別れることになるのは辛いが、どうか、分かってくれ。」


「うん。父上は……お父さんは、お父さんの道を選んだんだね。ぼくは、ぼくの道を選ぶよ。お母さんと、みんなと、幸せに。」


 マッサは、お母さんとお父さんと、しっかり抱き合った。


「マッサファール……マッサや……最後に、よく、顔を見せてくれ。」


「おばあちゃん。」


 おばあちゃんは、しわしわの手でマッサの顔をなで、マッサの耳元で、ひそひそ声で言った。


「おまえは、むこうで、かならず、幸せにくらせるよ。実を言えば、わしらは『予言の書』を使ったんじゃ。おまえは、ずっと、幸せに暮らせるって、そこに、ちゃあんと書いてあったよ。」


「ありがとう、おばあちゃん。」


 マッサは笑って、おばあちゃんを抱きしめた。


「あの本に、本当に、その言葉が残るように、ぼく、しっかりやっていくからね!」


「王子!」


 よく知っている声が聞こえて、マッサがそっちを見ると、懐かしい八人の仲間が勢ぞろいしていた。


「王子ならば、必ず、向こうの世界でも、自分の道を切りひらいて進むことができます。その優しさで、人を助け、そして、人に助けられながら。――さらば、つつがなく行かれよ!」


 今は、立派な騎士団長になったガーベラ隊長が、そう言って槍をかかげた。


「あのときの旅のことも、それから後の思い出も、俺は、絶対に、じいさんになっても、死ぬまで、忘れねえからな。」


 ディールが、歳をとっても、やっぱり変わらない喋り方でそう言って、にっと笑う。


「本当に、さびしいです。でも、これは、マッサが決めたこと。わたしたちは、忘れませんから、マッサも、わたしたちのことを、忘れないでくださいね!」


 四本の腕を、ちぎれんばかりに振りながら、タータさんが言う。


『グオーン、グオーン、グオオーン、ガオオオオオン!』


『さよなら、さよなら、ぼくの、すばらしいともだち! って、いってる!』


 ものすごく巨大な大人のクマになったボルドンの言葉を、ブルーが通訳する。


「うん。みんな、ありがとう、さようなら! ぼくも、みんなのことを、絶対に忘れない! 約束するよ!」


「ええ。」


 フレイオが言って、優しく笑った。


「分かっていますとも。離れても、私たちは、ずっと仲間。ずっとずっと、友達です!」


「うん!」


 マッサは、ブルーをしっかりと抱いて、魔法使いたちの輪の真ん中に立った。

 お母さん、おばあちゃん、フレイオ、そして集まった魔法使いたちが、いっせいに呪文を唱えはじめる。

 マッサも、この時のために覚えた呪文を、みんなと心をひとつにして唱えた。


 やがて、マッサとブルーのまわりに、きらきらした光の粒が舞い始める。

 いよいよ、そのときが来たんだ。

 光の粒は、あっという間に、光の吹雪のようになり、激しい渦になって、マッサとブルーを飲みこんだ。


「さようなら、さようなら! みんな、ありがとう!」


 マッサは、ブルーを両腕できつく抱きしめながら、ぎゅうっと目を閉じて、叫んだ。


「ぼく、絶対に、絶対に、絶対に、忘れないよーっ!!!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ