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マッサと、ただひとつの方法

「ひとつだけ、残された方法……?」


「ええ。」


 フレイオは、マッサのそばに来て腰をおろし、話しはじめた。


「それは、あなたが、今言っていたとおりの方法です。ふたつの世界をつなぐための『穴』を、もう一度、あければいいのです。そのための方法は、もう、自分で調べてみましたか?」


「ああ。」


 マッサは、浮かない顔をして言った。


「もちろんだ。何度も、城の図書館にかよい、本という本を調べ上げたのだからな。

 ふたつの世界をつなぐ魔法を使うには、最高といえるほど強い力を持った魔法使いが何人か――少なくとも四人は集まって、完全に心をひとつにして、術を使わなくてはならない。」


「ええ、そうです、四人です。ふつうは、なかなか、そんな力を持った魔法使いがそろうことはない。けれど、今、この城には、そろっていますよ。まずは、あなたの母上。つぎに、あなたの祖母君。そして、自分で言うのもなんですが、この私。」


「ああ、そうだな。だが、それほどの力を持つ魔法使いの、四人目がいないではないか。」


「いいえ、いますよ。今、私の目の前に。」


 フレイオは、まっすぐにマッサを見つめた。


「マッサ、あなたは修業を積んで、立派な魔法使いになった。最初は、空を飛ぶ魔法しか使えなかったのに、いまや、何でもできるではありませんか。

 あなたならばできると、私が保証します。あなた自身が、四人目の魔法使いとなって、ふたつの世界をつなぐ魔法を使うのです。」


 マッサは、長いこと黙っていたが、その目は、徐々に輝いてきた。

 でも、マッサは、不意に手で顔をおおってしまった。


「いや、いや、だめだ。――いや、もしも、本当にもう一度『穴』をあけることができたとしても、今となっては、すでに手遅れなのだ。あまりにも、時間がたちすぎた。今さら、向こうの世界に戻ったところで、おじいちゃんは、もう、とっくに……」


「いいえ。」


 不意に、優しい声が聞こえて、マッサは部屋の扉のほうを振り返った。


「フレイオが言うように、まだ、ひとつだけ、方法は残されている。」


 そこに立っていたのは、アイナファール女王だった。

 年をとって、美しいおばあさんになったアイナファール女王は、部屋に入ってきて、そっとマッサの手をとった。


「あなたが、このごろ、ずっと悩み苦しんでいたことには、私たちも気づいていました。あなたは、おじいさまのことが気にかかって、ずっと、後悔していたのですね。」


「ああ、母上。」


 マッサは立ち上がり、お母さんを、ぎゅうっと抱きしめた。


「母上たちと離れたい、ということではないのです。いや、その反対で、離れたくはない。私は、この国も、この国にいるみんなのことも、心から大好きなのです。

 けれど、この頃、どんな楽しいことをしていても、ずっと心の片隅で、小さなとげが刺さったように、胸がずきずきと痛むのです。どうしても、忘れることができない。おじいちゃんを、一人ぼっちにして、置き去りにしてきてしまったことを……」


「あなたは、優しい心の持ち主だから。」


 アイナファール姫は、優しく言った。


「でも、大丈夫。何度も言いますが、あなたには、おじいさまに会う方法が、まだ、ひとつだけ、残されているのです。」


「それは、どんな方法ですか?」


「時間をさかのぼって、ふたつの世界をつなぐ『穴』を開くのです。」


 アイナファール姫は、フレイオと顔を見合わせ、力強くうなずいた。


「こちらの世界の『今』と、むこうの世界の『昔』――あなたが、おじいさまの家から、こちらの世界にやってきた、ちょうどその日を、魔法によってつなぐのです。」


「えっ……できるのですか、そんなことが!?」


「ええ、できます。そのためには、『穴』をひらくための四人だけではなく、さらに、何十人もの魔法使いが、力を合わせなくてはなりませんが、この《魔女たちの都》には、それだけの魔法使いたちがそろっています。」


「そ、そんなことが、できたなんて……やったあーっ!」


 マッサは、小さな子供のころに戻ったように、飛び上がって喜んだ。


「すごいや、これで、ぜんぶ解決できる! あの日に戻って、おじいちゃんも、こっちの世界に、連れてきてあげればいいんだ! もう大魔王はいなくて、平和になっているって教えてあげたら、おじいちゃんも、きっと来てくれる。

 いや、それだけじゃない。死んじゃったと思っていたシュウ父上が、元気に生きているのに会ったら、おじいちゃん、飛び上がって喜ぶぞ! 喜びすぎて、腰を抜かしちゃうかもしれない!

 ああ、なんだ、こんなすごい方法があったなら、自分だけで悩んでいないで、はやく相談すればよかった!」


 マッサは興奮して叫んだけど、なぜか、フレイオとアイナファール姫は、静かな表情で立ったままだ。


「あれっ? 何? どうしたの、二人とも?」


 すると、部屋の扉のほうから、


「それはな……マッサよ。」


 と、ものすごく年とった声がきこえてきた。

 片手をシュウに支えられ、ゆっくり、ゆっくり、低く飛びながら入ってきたのは、マッサのおばあちゃんだ。

 魔法使いのおばあちゃんは、ふつうの人間よりも、ずっと長生きだけど、もう、亀みたいに、しわしわになって、背中も、ぐうっと丸まっている。

 おばあちゃんは、マッサのすぐそばまで、ゆっくり、ゆっくり飛んでくると、歯の抜けた口で、もぐもぐと言った。


「おまえが、言うようなことは……できぬからじゃ。たとえ、最高の、魔法を、使うてもな。」


「えっ?」


 マッサは、おどろいて、目を見開いた。


「でも……今、母上は、できると仰いましたよ! こちらの世界の『今』と、向こうの世界の『あの日』をつなぐことが!」


「ああ……それは……できる。」


 おばあちゃんは、もぐもぐと言い、ここだけは昔と変わらない、きらりと光る鋭い目でマッサを見た。


「わしが、できぬ、と言うのは……おまえが、言ったことのほうじゃ。」


「と、いうと?」


「つまり……おまえの祖父を、こちらの世界に、連れてくる、ということじゃ。それは、できぬ。

 なぜかといえば、時を超える魔法にも、できぬことがあるからじゃ。それは、未来へ移動する、ということ。

 おまえが、向こうへ帰るのは、昔へ――過去へ、帰るということ。それは、できる。

 じゃが、おまえの祖父が、こちらへ来る、というのは、未来に来る、ということになるのじゃ。それは、できぬ。」


 おばあちゃんは、黙って聞いているマッサに向かって、ゆっくりとうなずいてみせ、続けた。


「そしてな。時を超えて『穴』をひらき、使うことができるのは、ただ、一度だけ。つまり、おまえは、一度、向こうへ帰れば、もう、こちらへ戻ることはできぬ。そして……わしらに会うことも、二度と、できぬのじゃ。」


「そんな。」


 マッサは、目を見開いた。


「嫌だ、そんなの! もう、みんなと会えなくなるなんて!」


「選ぶならば、どちらか、ひとつの道を、選ばなくてはならぬ。」


 おばあちゃんは、はっきりと言った。


「選ぶのは、そなたじゃ。わしらには、わしらの気持ちがあるが、口出しはせぬ。そなたの道は、そなたが決めなさい。

 じゃが、あまり、長い時間は残されておらぬ。わしは、この通り、あまりにも年をとった。寿命が来るのも、もうすぐじゃろう。それまでに、そなたが心を決めなくては、わしが、ふたつの世界をつなぐ魔法を使うために、力を貸してやることが、できなくなる。」


 おばあちゃんの、しわしわの手が、マッサの手を、しっかりと握った。


「マッサ……わしの孫、わしの、大切な宝物よ。自分で、よおく考え、悩み、そして、決めるのじゃ。そなた自身の心で、自分の道を、選び取るのじゃ!」


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